陰キャのレッド、インテリ風バカのブルー、人類滅亡を狙う自然愛護者グリーン、清楚系ビッチのピンク、それらにツッコミを入れる金髪関西人美女イエローの戦隊異世界旅

秋山紅葉

第1話 俺たちの戦いはさっき終わった!

 魔王怪人に五人の合体最終奥義・ラストエンドファイナルフォースを反射され、絶対絶命のところで、レッドたちは目を覚ました。


「……あれ? ここは異世界?」


「いや、なんで理解が追いついとんねん」


 赤い戦隊服を着たアイドル系イケメンの青年に、黄色い戦隊服の金髪碧眼きんぱつへきがん美女がツッコミを入れる。

 彼らは今、ラノベ原作アニメで見慣れた玉座の間にいた。

 その中央にこれまた見慣れた召喚陣が描かれ、レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクの戦隊服を着た男女が横たわっている。

 イエローのツッコミで、残りの三人も目を覚ましていった。


「いったぁ〜。あのヒゲ、次会ったら殺す」


「ピンクが殺すとか言うなや!」


 黒髪ロングの清楚系美女に、金髪ポニーテールの美女が突っ込む。


「五人の合体技を、自然を汚す人類にぶちかましたいという願いが、あんな形で叶うとは」


「おいグリーン! 自然愛護もたいがいにせえよ!」


 ソース顔イケメンに、イエローは怒声を浴びせた。


「フッ、なるほど。つまり、今はどういう状況ですか?」


「知らん」


 知的にメガネ位置を直すインテリ系イケメン(ブルー)に、イエローは雑に答えた。


「それには私が答えよう」


 立ち上がった五人が顔を向けると、そこには玉座に腰かけた風格ふうかくある男がいた。


「この世界は一年ほど前から、魔族によっておびやかされている。それを救うため、異世界から突出して強い人間を召喚したところ、貴殿きでんらが参られたのだ」


「やってくれたなぁ、オッサン」


「……おっさん」


 怒りをあらわにした美人の顔の迫力に、王とおぼしき男はおっさんと復唱ふくしょうすることしかできなかった。


「履歴書に魔王怪人撃破っつうレア度マックスな職歴かいて、一流事務所に転職するウチの野望を、よくもはばんでくれたなぁ」


「い、いや、あのままじゃ、僕たち全滅してたから、転職よりも転移できてラッキー? てきな?」


 まずい空気を感じ取ったレッドは、しどろもどろでフォローを入れた。しかし、


「あー、ウチらのラストエンドファイナルフォースを反射された時な、四人の後ろに隠れとったんや。四人のとうとい盾を犠牲にした後、ウチがチョーシこいとるヒゲに奇襲かまして、サヨナラ満塁ホームラン決めたる予定やったのに」


「盾じゃなくて仲間ー! 僕たち一年間必死にやってきたじゃんかー!」


 無情な言葉を並べるイエローに、レッドは半ベソをかきながら叫んだ。


「陰キャでアニオタのレッドに、インテリ風バカのブルー、隙あらば人類を滅ぼそうとする自然愛の権化ごんげのグリーン。そんで、パパ活が趣味の清楚せいそ系腹黒ビッチのピンク。こんなんに仲間意識なんて芽生めばえるかボケー!」


「それは、その、なんか……ごめん」


 ぐうの音も出なかったレッドは、ただただシュンとしてうつむいた。

 そんな状況を見かねて、玉座の隣に佇んでいた青年が声を上げた。


「国王に対する非礼など、言いたいことは山積さんせきしていますが、建設的に話を進めましょう。兵の方々も、剣から手を離してください」


 レッドたちが周りを見渡すと、玉座の間の壁には鎧をまとった兵が所狭しと並んでいた。彼らは指示通り、抜きかけた剣を鞘に納める。

 

「私は宰相さいしょうのクロウ。このお方は国王のプライド陛下へいか


「へ〜。おじさん、国王なんだぁ。よかったら今日、デートしない? お手当てあては金銀財宝でいいよ?」


「おいピンクぅ! 国王でパパ活しようとすんなぁ!」


 いつの間にか王の前にしゃがみ込み、あざとく上目遣いを駆使くしするピンクに、イエローは雄叫おたけびを上げる。

 ふざけた空気とは対照的に、宰相のクロウは戦慄した。


(いつの間に……。先刻まで確かに召喚陣の上にいたはず)


 陣から玉座までは十メートル以上あり、常識的に考えて気づかれずに接近することは不可能だった。


(人間性に少し、いや、かなり難はあるが彼らを召喚できたのは僥倖ぎょうこうだ)


 クロウは畏怖いふの混ざった笑みを浮かべていると、


「戻れ、淫乱いんらんピンク! 話が進まん! あと、宰相がニヤニヤしながらジブンのこと見とるぞ」


「やだー、きもーい、死ねばいいのにー」


 ストレートに死を願われたクロウは、膝から崩れ落ちた。


「大丈夫か⁉︎ クロウ‼︎」


「お気遣いなく、陛下。さすが異世界の猛者もさ。言葉による攻撃も一級品だ」


「あ、あの、魔王を倒したら僕たちは元の世界に帰してもらえるんですか?」


 話が進まないことにしびれを切らし、レッドがたずねた。それにブルーが反応する。


「ここは異世界なんですか? どうやって阿佐ヶ谷あさがやに帰ればいいんですか?」


「それを今、いとんねん! てか今まで何を聞いとったんや!」


 イエローがたまらず突っ込むと、今度はグリーンが会話に加わった。


「俺には人類を滅亡させ、甲子園球場のツタを日本全土に広げる夢があるんだ。早く阿佐ヶ谷に返せ」


「そんな夢、捨ててまえ! あとジブンらどんだけ阿佐ヶ谷に愛着あんねん! そこは元いた世界に、でええやろ!」


「アサガヤがどこかは知らんが、元いた世界になら返せる。ただし、それは魔王を倒してからだ」


「えー、めんどくさーい」


 相手が国王でも関係なしに、ピンクは無礼な態度をとる。


「そこをなんとか頼む。褒美ほうびは何でも望むものを用意しよう」


「みんな、魔王殺しに行くよ」


「なんて清々すがすがしい手のひら返しや」


 行く先も分からないのに颯爽さっそうと歩き出すピンクを見送りながら、イエローはつぶやいた。


「ちょっとー、ついて来てよー」


「そのあざとくふくらましたほっぺはたきたいわー」


 Uターンしてプンプンと怒り出すピンクに、イエローはややかな言葉を浴びせる。


「異世界か。どんな植物があるか興味深いな。東京スカイツリーを押しのけて成長する木があるといいんだが」


「あってたまるか!」


 物騒な発言をするグリーンに、イエローは叫んだ。


「フッ、私はよく分からないから、みんなについて行くとしましょう」


「カッコ悪いセリフをよーそんなカッコ付けて言えるなジブン」


 知能指数の低い発言をするブルーにトーンを低くして返すイエロー。

 最後に彼女は、金髪のポニーテールを揺らし、レッドの方を向く。


「で、ジブンはどないするんや?」


「ぼ、僕は! なんとしても元の世界に帰りたい!」


「……そうやな。家族も心配しとるやろうしな」

 

 イエローは元いた世界の弟たちを思い浮かべ、表情にさびしさをにじませた。しかし、


「いや、アニメが観たいから」


 レッドの淡白な答えで、一気に真顔になる。


「……そうかー。ほな、はよ魔王殺すか」


 センチメンタルな状態から引き戻されたイエローは、淡々と魔王抹殺を宣言する。

 こうして、彼らファイブカラーズは魔王を殺す旅に出るのであった。

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