科学で掘り起こした記憶を紡いで真実に迫る、読み応え抜群なSFドラマ!

寒冷化した未来の世界を舞台に、冷えた地表に残された記録<記憶>をサルベージする記憶採掘官ミハル・カザハナを通して、巧妙に隠された楽園の秘密に迫るSF短編連作です。

まず、冒頭の書き出しの吸引力たるや。長閑な風景の中で「おや?」と首をかしげるような奇妙な表現がチラチラと顔を覗かせます。これはどういうことなのだろうかとぐいぐい読み進めているうちに、気づけば作品の中へ飲み込まれていました。少し不思議で、ちょっと不気味で。しかも最後まで読むとこの書き出しにまたはっとさせられるのです。「すごいものを読ませていただいたな」という漠然とした感想しか紡げない自分の語彙のなさが悔やまれます。

西暦の地続きである仮想未来は冷気に閉ざされ、過酷な環境で懸命に生きる人々のリアルが細部まで書き込まれていました。戦争、貧困、科学者たちの自然への抵抗。SFの中でも特に「空想科学」がお好きな方は堪らないんじゃないでしょうか。私もその中の一人です。未来ならありえそうな夢のような技術に少しのユーモアを加えて楽しませてくれる津多さんの作品はとても好きです。私はやはりソリッドトイ甲型が出てくるとテンションが上がります。

土地に残された記憶を科学技術でサルベージして未来に残すかどうかを選別する記憶採掘官のお仕事はとても興味深く読ませていただきました。記憶とは当然過去を指します。ですが作品タイトルをご覧いただくと、ある矛盾を感じませんか? 気になった方はぜひ読んでいただきたい。そんな思いを込めてレビューコメントを書かせていただきました。

生きた記憶は記録となるのか、受け継がれた願いとなるのか。どうか、見届けていただきたいです。

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