ストーリープロット第一段階(※ネタバレの塊注意※)

 あらすじをもとにして書いたストーリープロットの第一段階です。これをもう一段階詰め、その後、本文を書き始めています。


【第一章 西暦xxxx年 モモヨ】

 登場人物は、アンドロイドのモモヨ(永遠の6歳)、アンドロイドとしての父母(リクギとハルカとは異なる。おっとう、おっかあ)、近所のヨシオおじさん、機織りのカヨコおばあさん、牛、豚、鶏、巡回ロボットのムラクモ95式(95式の声はカタカナで書く。古いタイプのかすれた合成音声)。


 一人称視点。

 モモヨ視点でできるだけ明るく前向きに農村村落での生活の様子を描く。

 年代は書かない。アンドロイドであることも直接は書かない。


 両親への挨拶。

 顔を洗って、水鏡で自分の顔を確認して朝ご飯。

 鶏に一人で餌やり、豚と牛は父の手伝い。鶏舎、豚舎、牛舎はいずれも木製。

 家の敷地から出てあぜ道を歩き、畑へ向かう。

 近所のヨシオおじさんと会って挨拶する。

 畑の雑草を抜き、水をやり、耕す。

 お昼におっかぁがお弁当を持ってきて食べる。

 帰り道にカヨコおばあさんと挨拶をして、機織りを見に行く。

 コンクリート製の家に帰る。

 晩御飯を食べて、樹脂製の畳の上に設置されたカプセルで寝る。

 翌日、畑で作業し始めるところまでは1日目と同じ。

 作業中に巡回ロボットのムラクモ95式と日常会話。

 お昼におっとうが畑で倒れて動かなくなる。

 通りかかったカヨコおばあさんが、ヨシオおじさんとおっかあを呼んできて、皆で協力して村の中心にある巨大桜の麓にあるコンクリートの建物に連れて行き、大きな穴に放り込む。

 翌日、モモヨが目を覚まして居間に行くと、おっとうが普通にいて、少し会話したて普通に朝ご飯を食べる。

 いつものようにおっとうとモモヨは畑へ向かい、歩きながらモモヨが巨大桜にお礼を言う。

 終わり。



【閑話 西暦3341年 記憶監理委員会】

 第一章の最後に単独のエピソードとして差し込む。

 登場人物は僕ミハル・カザハナ。

 データは主流登場人物を参照。


 一人称視点。


 薄暗く、宙に浮くモニターだけが明るい部屋にいて、先ほどまで見ていた26世紀初頭の世界の混乱の感想を、溜め息を吐きながら漏らす。

 西暦3341年の地球環境と世界情勢、人類協力会議HCCの説明。

 自分がやっている記憶採掘官RSの仕事の説明、記憶監理委員会RSCの説明。

 コード:サクラという謎の単語を疑問に思いながら、すぐに忘れること。

 最後にファル助の古臭い電子合成音声での廃棄確認メッセージ。

 終わり。



【第二章 西暦2500年 エレナ】

 食糧事情が急激に悪化している世界を、イタリア半島からの移民の姉妹が懸命に生きる姿を通して描く。


 登場人物は姉エレナ(16歳)と妹ルフィナ・カレッリ(平均的な10歳の体格)、姉妹の叔母で独身一人暮らしのレンカ・クデラ、近所の中年女性おばちゃん、配給所の気の弱そうなお爺さんマクシム、裏で人身売買を行なっている商売人で巨漢中年男性ヨナシュ。


 三人称視点。


 食糧事情が悪化の一途をたどるイタリアから、両親はイタリアに残り、姉妹だけでマケドニア連合共和国に母の妹レンカ(一人暮らし、独身女性)を訪ねにきたが、到着した地方都市の一軒家にはエマはおろか誰も住んでいなかった。生活の気配も全く感じられない。

 家の前で困り果てていると、近所の中年女性が声を掛けてくれて、エマが見つかるまで移民登録をして、この一軒家に住めばいいという。

 住み始めるも収入はなく、お金は減る一方だった。

 食料の配給も移民には少なく、都市部のため近くに畑も農園もない。

 飲食店でも配給は少なく、エレナが経験したことがある給仕や調理の仕事は見つからなかった。

 そこへ丁度、移民急増による配給所の増強で募集が出て、エレナは盛り付け係として働くことになる。

 仕事に慣れた頃、連合共和国民の横柄な中年男性ヨナシュに愛人関係を迫られてエレナは拒絶する。

 ヨナシュはしつこく迫るが、実は配給所の所長だったお爺さんマクシムの説得もあって、ヨナシュは引き下がる。

 翌日、ヨナシュは変死体で発見され、エレナは混乱する配給所でなんとか仕事をこなす。

 帰宅すると、いつも元気に迎えてくれるルフィナが出てこない。家のどこを探してもいない。

 おばちゃんに聞けばいいと閃いておばちゃんを訪ねると、昼間、レンカの夫を名乗る男性が来て、連れ去ったという。

 絶望にふらふらしながら家に戻ると、郵便受けの手紙の中にヨナシュからの脅迫文があることが分かった。

 脅迫文の内容は「明日の夜、一人で俺の店へ来い。愛人になったら妹は返してやる」。

 眩暈を起こしながらもエレナは盛り付け係の仕事をどうにかこなし、謎の人物と接触する。

 夜、指定されたヨナシュの店へ行くと、薄暗い店の中で、ヨナシュによって頭に拳銃を突き付けられてなきじゃくるルフィナがいた。

 他にも体格のいい手下が3名いた。

 私はどうなってもいいから、ルフィナを解放するよう、エレナは懇願する。

 最後はレンカが率いる特務警察部隊が、ヨナシュの拳銃を吹き飛ばし、鎮圧・逮捕に至る。

 ラストシーンは、アンドロイドのエレナにレンカが声を掛けるところ。


 最後はいつも通りファル助の廃棄確認。



【第三章 西暦2519年 タデアシュ・メテルカ】


 長年戦争をしつつも、停戦に向けて努力する若手外交官の男性と敵国のベテラン外務官僚の男性の話。しかし、世論や首相、大統領、軍務大臣などの強硬姿勢に翻弄される。最後は大使館の核シェルターに避難して生き残るが、高濃度放射線が残留している影響により、外に出ることが叶わず、シェルター内で国を非難しながら一生を終える話。

 登場人物。マケドニア連合共和国・若手外交官タデアシュ・メテルカ、高性能AIチトー、北部アフリカ同盟NAEMAの元軍人の外務官僚ザーヒル・ザイヤート、マケドニア連合共和国の自信たっぷりの大統領、同国外務大臣。


 一人称視点。


 2510年に勃発したアメリカと中国の争いは、瞬く間に世界を巻き込む第5次世界大戦に発展した。

 NATOと協力関係にあるマケドニアと、中国と関係が深いNAEMAは小競り合いを繰り返してきたが、第5次世界大戦の余波により、2512年から本格的な戦争に突入した。

 戦争終結の糸口が掴めないまま5年が過ぎた2517年、その時点で大戦に参加していなかった汎アラブ連合のブライダにあるマケドニアの大使館にタデアシュが大使として赴任した。

 汎アラブ連合のブライダにあるNAEMA事務所の外務官僚サリームと停戦交渉を模索するためである。

 タデアシュもサリームも、顔合わせで交渉を行なうが、マケドニアとNAEMAからの指示は、領地を手に入れられなければ、停戦には応じないというものだった。

 それからも数度、サリームと交渉を持つが、やはり停戦には至らず平行線だった。

 そんなときにタデアシュがサリームを招いて食事会を開き、上等なワインを二人で飲み干すと、停戦したいと本音を漏らし合う。

 さらにサリームは停戦後、マケドニアとNAEMA、そして汎アラブ連合を加えた相互協力同盟を築きたいと自身の夢をタデアシュに聞かせる。

 また、イアン・ケンドールが見つけたという楽園があればとも零す。

 翌日、タデアシュは高官権限を使って、マケドニアの意思決定を行なう高性能AIチトーに対して、相互に大戦前の領地に戻すことを条件とする停戦案を進めてよいか確認する。

 チトーは一刻も早い停戦がマケドニアの利益になること、NAEMAが受け入れる可能性が高いことなどを理由に了承するが、いつもは追認するだけのマケドニア大統領が、戦争継続を望む世論を理由に認めなかった。

 タデアシュは、大統領の任期が伸びたことを思い出し、チトーに政策の是非を諮問していないのではないかと疑問を抱くようになる。

 タデアシュは内務省の知人に内密に調査を依頼する。

 調査の結果を待っている間にも、サリームと交渉を行なうが、やはり進展はない。

 そして知人から調査結果が知らされるはずの日の正午には、外務大臣からの緊急入電が3個あった。

 1つめは、汎アラブ連合が中国・パキスタンと協力してインドに宣戦布告したこと。

 2つ目は、これから2時間後にミサイルによる大規模核攻撃をNAEMA構成国に対して行うよう、NAEMA側に通告するようにとの指示。

 3つ目は、速やかにマケドニア本国へ帰還しろとの指示。


 タデアシュは歯を食いしばってサリームに通告するが、サリームからも2時間後にミサイルによる大規模核攻撃を行なうとの通告があった。

 絶望するタデアシュに追い打ちをかけるように、ブライダに警報が鳴り響き、携帯端末には2時間後にインドが射出した核ミサイルが着弾する予定であると、表示される。

 大使館職員と家族を急いで地下シェルターに避難させる。

 シェルターのお陰で生き延びることが出来たが、地上の放射線量が人体にほとんど影響がないレベルになるまで、食料の備蓄が持つかどうか分からない。


 放射線量の低下と人体への影響の資料

 https://www.rerf.or.jp/faq/


 放射線副読本

 https://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1409776.htm


 結局、線量計が0.01Gy(グレイ)を下回り、タデアシュたちが外に出られたのは1ヶ月後のことだった。

 その間に、1人の大使館職員が発狂したため已む無く射殺し、妻と娘もうつ気味になってしまった。

 また、地中から伸ばしたアンテナによる非常通信で、サリームが自殺したことを知る。

 ラストシーンは荒廃したブライダを見て、タデアシュは空に向かって大声で「くそったれ」と叫ぶ。


 最後はいつも通りファル助の廃棄確認。



【第四章 西暦2548年 アメノミハシラ】

 フランス中央高地アヴェロン県エスタン村の農村牧畜集落に試験的にクレイドルが導入される話を、数名の村人の視点で描く。


 エスタン村の資料  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3_(%E3%82%A2%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%9C%8C)



 導入前に村を二分して揉め、ラヴクラフト財団の職員(職員に成りすましたアトランティエ本人)が訪れた際も反対派の妨害にあう。しかし、渋々納得させて、アメノミハシラを立て、傘が周辺を覆うと、反対派はいなくなった。

 登場人物。ラブクラフト財団のエンジニアネージュ・アイコウ(偽名。アトランティエ・ラヴクラフト。50歳)、フランス政府の若い男性職員マチュー・ドリーブ、お付きの財団職員の中年男女、お婆さん村長(賛成派)バルバラ・コルニュ、中年男性猟師(反対派)ドナ・ブコー、若い男性木こり(賛成派)ヴィクトル・ボージョン、羊飼いの若い女性(反対派)アンナ・マレ。


 登場人物それぞれの一人称視点。ネージュの視点はなし。


 ラヴクラフト財団がフランス政府に働きかけ、クレイドルの実地試験を行なうことになり、かつてフランスで一番美しい村と言われたエスタン村で行なわれることになった。

 エスタン村は氷期になっても気温が大きくは低下せず、ブドウと小麦の栽培、羊の牧畜などで質素に生きてきた。そこにフランス政府が目を付け、クレイドルがうまくいけば、農場を開発し、都市部の職にあぶれた人たちを移住させようと目論んでいた。


 到着1日目。バルバラ視点。

 5月。マチュー、ネージュ、財団職員2名と村役場で挨拶。

 歓迎ムードで和やかに進むが、予定している説明会については、これまでも反対派が怒鳴り散らすなどしていた。到着1日目も反対派が暴れるのではないかとバルバラは心配する。

 マチューとネージュは心配ないと型通りの返事をする。

 その日の説明会、初めてネージュが説明を行なった。

 多くの住民は静かに聞いていたが、反対派のドナがネージュを大声で嘘つき呼ばわりし始め、マチューの判断で説明会が中止された。

 説明会後、バルバラがドナを叱ると、ドナは悄然として逃げ去った。


 到着1日目ヴィクトル視点。

 森へ巡回に出かけた帰り道、今日のクレイドルの説明会のことを考える。

 過去3回の説明会は要領を得なかったが、村の発展になるならと、一応は導入に賛成していた。

 帰路、これまでの説明会で見かけたマチューと村のドナが立ち話をしているところを見かけたが、ドナはこれまでも表立ってクレイドルに反対を表明してきたことから、マチューが説得でもしているのだろうと思った。

 そろそろ説明会へ出かけようと思ったとき、ヴィクトルの家にアンナが訪ねてきて、反対するよう軽く促されたが、断って説明会に出かける。

 説明会ではネージュの説明がとても分かり易いと、いつも以上に集中して聞いた。

 そして、説明会を大声を出してぶち壊しにしたドナに、憎しみにも似た感情を抱いた。


 到着2日目、3日目。アンナ視点。

 説明会がない日。

 ネージュがマチュー、バルバラと職員と一緒にエスタンのあちこちを見て回る。

 アンナは何か落ち度がないかと、すぐ後を歩く。

 マチューに見とがめられるが、ネージュとバルバラは気にせずについてくるように言う。

 エスタン橋、城館跡、サン・フルーレの泉、郊外の丘などを巡ったが、特に疑わしい様子は見られなかった。

 途中、森へ行くヴィクトルとすれ違い、気まずい思いをしたことと、遠くからドナが見ていたことが印象に残った。

 そして3日目。ネージュとしては2回目になる説明会に、ケチを付けてやろうと意気込むが、結局、アンナの知識で揚げ足をとれる内容ではなく、賛成の方に気持ちが傾いた。


 到着1日目から3日目。マチュー視点。

 到着1日目、初めて会ったネージュに恋心にも似た印象を抱く。

 反対派のドナがネージュに危害を加えないか心配になり、彼のところへ説得に向かう。

 説明会も手放しで褒め称え、うっとりとした表情で聞く。

 しかし、ドナが大声をあげ始め、ネージュのことが心配になったマチューは早めに中止を決定する。

 叱られるドナを横目にネージュと財団職員の二人を集会所から退出させるが、そのときに、これを繰り返せばネージュと良い仲になれるのではないかと、下卑た考えを思い付く。

 1日目の夜、マチューはこっそりドナを訪ね、2日目にエスタン村内と周辺を案内するので、隙があったらネージュを襲撃し、自分が庇ったら逃げて欲しいと持ちかける。


 2日目、ネージュを眺めながらバルバラと一緒にエスタンを案内する。

 ドナがいつ襲撃するのかそわそわしていたが、近くにきたのはアンナだけで、計画に支障が出ると思いアンナを遠ざけようとしたが、ネージュとバルバラがついてくるよう促したため、遠ざけられなかった。

 ドナは結局、遠くから見ているだけだった。


 3日目。いつものようにネージュに見惚れながら、粛々と説明会の準備と進行を務める。

 アンナが険しい顔をしていたために警戒していたが、説明会が終わるとアンナはすっきりした顔をしていた。


 1日目、2日目、5日目、7日目。ドナ視点。

 1日目。

 ドナは、政府の嘘から、村の皆を守らなければならないと、クレイドルの試験導入に反対していた。

 説明会の前、マチューが説得に来て、怒鳴りはしなかったが不快感を露わにする。

 説明会でネージュの話を聞くと分かり易い説明に納得しかけたが、頑固に反対を貫こうとして、大声をあげて騒ぎ立てた。

 中止後、バルバラに叱られ、俺は悪くない、俺は正しいと呟きながら悄然として帰宅する。

 その夜、マチューが訪ねてきた。

 また、説得かと思ったが、ネージュへの襲撃計画だった。

 政府の役人の言う通りにするのは癪な性分のため、表面的に乗ったふりをした。


 2日目。マチューの計画に乗ったふりをして、ネージュたち一行を観察していたが、真剣な表情であちこちを見て回るネージュを見て、気持ちが少し賛成側に傾いた。また、アンナと目が合った。


 5日目。同じ反対派のアンナと3日目の説明会の話をし、アンナが賛成に傾いていることを知る。そして、アンナから賛成に回るように説得され、ドナの心は揺らいだ。


 7日目。最後の住民説明会で、ドナは心を空っぽにしてネージュの説明に耳を傾け、8日目に開かれる住民投票で賛成に回ろうと決意した。


 14日目。バルバラ視点。

 クレイドルの基幹システムであるアメノミハシラの建設式典を執り行ないながら、住民投票の結果を思い出す。

 住民投票ではぎりぎり住民の3分の2の賛成があり、どうにか導入まで漕ぎつけられた。

 あれほど反対していたドナも、投票後に賛成したことをわざわざバルバラに言いに来て、バルバラは嬉し泣きをした。

 成人の背丈ほどの樹脂製のような棒をネージュが丘の頂上の土に深く差し込むと、見ているそばから幹回りも含めてぐんぐんと大きくなっていった。

 アメノミハシラは1週間ほどで直径600メートル、高さ3000メートルの大きさになり、テンイを広げ、毎日成長を楽しみにしていたバルバラは、大きさと半透明の美しさに感動する。

 テンイがエスタン村を覆うと、少し暖かくなり、過ごしやすくなった。

 マチューが少しがっかりしているような表情を浮かべる中、ネージュにお礼をいうと、もっと沢山のクレイドルを建設して、罪を償わなければならないと返事をした。


 最後はいつも通りファル助の廃棄確認。

 それからコード:サクラが混ざっていたこと。



【第五章 西暦3000年 シモダ】

 間氷期が終わり氷期が続く世界。文明は後退し、小さな共同体が乱立する。そんな状況の旧・静岡県伊豆半島下田市の沿岸部で、原始的な狩猟採集生活を営む家族の姿を描く。

 それと対比して、アメノミハシラと虹色のカーテンがいくつか見えることと、HCCの施設周辺のごく限られた地域では、近現代的な建物や未来的な機械があることも書く。


 三人称視点。


 登場人物。

 シモダの沿岸集落に暮らす8人家族。祖母ツル、父トラ、母フジ、長女ナベ、長男エイヌ、次男オトクマ、三男オトサル、次女ハシ。

 村長、鍛冶屋など。

 トラ、エイヌ、オトクマは狩り、ツル、フジ、ナベ、オトサルは木の実、野草、海藻の採集、ハシはナベに背負われて行動する。

 狩り組はアスファルトが残る道路を横断し、山に入って猪、鹿、熊を狩り、肉、毛皮、骨などを手に入れる。

 採集組は、石の階段を行き来しながら木の実や野草を採りに山や森に入ったり、防潮堤の残る海辺に行って打ち上げられた海藻を採集する。

 余分なもの、使わないものは集落で物々交換などに使用して、生きてきた。

 ところが、ある時期から、ひときわ巨大なヒグマが集落の近くで頻繁に目撃されるようになった。

 集落の人間はそのヒグマをヌシと呼び、集落の外へ出るときは必ず集団で移動するようにしていたが、あるとき、皆で集落そばの高台の森に採集へ出ていたツルたちが襲われ、ツルだけが大量の血を流しながら森の奥へ引きずり込まれてしまう。

 その情報に、集落では山狩りをしてヌシを駆除しなければならないという意見で一致した。

 トラ、エイヌ、オトクマも加わった集落の討伐隊は50名ほど。

 だが、3日間探してもツルの体の一部と思われるものしか見つからなかった。

 そんなとき、集落の別の高齢者がまたヌシと思われるヒグマに襲われ、集落では再び山狩りを行なうが、そのときも見つけることが出来なかった。

 諦めきれないトラ、エイヌ、オトクマの三人が単独でヌシを探し続ける。

 沿岸部でヌシを発見するが、槍も折られ、ナイフも深手を負わせることはできず、トラはヌシに組み敷かれてしまう。

 もうダメかと思ったときに、ヌシが突然倒れた。

 辺りを見ると、試験中のホバーバイクに乗るラブクラフト財団の女性職員がトラたちを見ていた。

 流ちょうな日本語で話しかけてきた彼女の隣には宙に浮く、小さな丸い物体があり、それでヌシを気絶させたという。

 お礼を言い、とどめをさしたトラは、遠くに渦巻く吹雪を見ながら、心の中でツルに仇を討った報告をした。


 最後はいつも通りファル助の廃棄確認。

 今回もコード:サクラが混ざっていたことをミハルがこぼす。



【第六章 西暦2510年】


 第五次世界大戦勃発の直前、大戦へと向かう時代の緊張感を、小競り合いをする国境警備隊の隊長の日常生活とともに描く。

 マケドニア連合共和国(URM)と北部アフリカ同盟(NAEMA)がクレタ島南西のガヴドス島(33平方キロメートル)の領有を巡って小競り合いを繰り返していた。

 戦争の主役は実弾ミサイル+レーザー兵器搭載の航空艦と実弾搭載+レーザーによる実弾ミサイル迎撃システム搭載の航空機。


 ディスマスの一人称視点。


 登場人物。

・URMのギリシャステイト軍国境警備隊クレタ島駐留軍ガヴドス分隊。ギリシャ系の名前の参考。https://cuty.jp/77687

 クレタ島駐留軍司令官ソフォクレス(賢い者)・ガラニス(淡い青い目)。ディスマスの同期。

 ガヴドス分隊長ディスマス(夕焼け)・サノスアキス(不滅+クレタ島の名字)30代後半。

 ディスマスの副官カリトン(親切な者)

 部下たち。ボアネルジェス(男)、ユニス(女)、ビオン(男)


・ディスマスの家族

 アネーシャ(妻)30代前半、ニキアス(息子10歳)、ネリダ(娘8歳)


・NAEMAのリビア国軍北部国境警備隊。アラビア語圏の名前の参考。https://alarabiyah.sakura.ne.jp/words/name/arabicname-male/

 分隊長ザーヒル・ザイヤート(第三章と同一人物)


 ガヴドス島守備隊の1日は、いつものコースで周辺海域をパトロールし、了解付近で敵艦を見つけると、挨拶代わりにわざと的を外したレーザーを打ち合い、場合によっては手を振りあったり、非合法に音声通信で世間話をすることすらあった。昔はガヴドス島を巡って本格的な戦争もしたが、現在ではたまに偶発的な戦闘が起きるくらいで、ここ三十年はケガ人も出ていない状況だった。

 ディスマスは部下の話を聞くのが好きだった。

 ディスマス・サノスアキスの分隊も一ヶ月ごとに交代しては、家族との時間がくることが当たり前だと思っていた。ある休暇のとき、娘のネリダが自分のことを嫌いといい、そのまま国境警備隊任務に戻ってしまう。

 そんなときにザーヒルと非合法音声通信の挨拶程度の会話でうっかり漏らすと、ザーヒルも娘に言われたことがあるが、プレゼントを贈って機嫌をとったことがあると返事が来た。それからも非合法音声通信を使って度々、家族の話などをして、二人はすっかり意気投合する。イアン・ケンドールの手記の話を、ディスマスからする。

 そして次の一ヶ月の休暇、アメリカと中国が太平洋上で戦闘になり、多数の艦船が大破した。

 家族とともにディスマスにも広がる不安。

 それでも通常通りの警備任務に、しかし気を引き締めて当たるように部下に促すと、リビアの艦隊がいつもと異なる動きをしていた。

 ついにリビア艦隊から高出力の光の照射(レーザー砲の直前動作)を確認し、水蒸気とチャフの混ざった煙幕をはって一時着水退避し、迎撃戦闘態勢を命じ、クレタ島駐留軍へも通信を入れるよう確認する。

 浮揚しつつ後ろに下がりながらディスマスの艦隊は散開し、リビアの艦隊を囲むように移動しながら、撃破するための攻撃ではなく、粘り強く守るための攻撃を加える。

 やり辛さを感じながら、ザーヒルにどういうつもりか聞こうと非合法音声通信を開くよう指示すると、その前にクレタ島駐留軍総司令のソフォクレス・ガラニスからの緊急電文が届き、非合法音声通信を中止。電文はNAEMAがイタリアとURMに宣戦布告したことと、クレタ島駐留軍にもリビア本土のベンガジを攻撃するよう通達が来たことを告げる内容だった。

 同時に、沢山の航空艦がディスマスの船を抜かしてリビア艦隊に、本格的な攻撃を加え始めた。

 ディスマスは非合法音声通信を開き、ザーヒルと話す。

 長期戦を嫌ったザーヒルは撤退を開始し、ディスマスに別れを告げた。


 最後はいつも通りファル助の廃棄確認。



【第七章 西暦3341年 ミハル・カザハナ 救済片】


あらすじ

 断片的な資料を基にコード:サクラを外部から停止させるアルカスプログラム(sakura⇔arukas)の起動を目指し、RRFの妨害や困難の末に成功させる。

 コード:サクラは大気の他に時空も歪めていたため、コード:サクラの停止と共に、地球の時間は巻き戻された。

 エピローグは温暖な3334年の長野県の高校に通う風花美春が、同級生の高原百代と妹の高原六花に挨拶をして、不思議と涙を流すシーンで終わる。


登場人物

・ミハル・カザハナ 設定参照。

・ファル助 設定参照。

・オリアナ・マンディス(イタリア系)

 二級記憶採掘官。女性。一人称・私。普段はキリっとしているが、語尾にござるを付ける癖がある。

 身長170センチ。焦げ茶のサラサラストレートヘアー。柳眉の美人。

 ミハルが勤務するRSCカルイザワブランチの施設長。面倒見がよい。薄い本が好きだが、採掘官規則で記憶の私的利用を禁じられているため、ファルが掘りあてられるたびに葛藤している。

 正体は、アヴァロンの末裔(DoA)の三女マゾエであり、採掘される記憶のうち、コード:サクラに関する情報を、自身の頭蓋内拡張記憶デバイスに視覚聴覚情報から不正にコピーしてDoAに横流ししていた。


・アンセルム・フレーリン(オランダ系)

 三級記憶採掘官。男性。一人称・俺。

 食糧難の時代に身長190センチ。筋肉質。坊主頭。

 ミハルの三年先輩。勤務中は規則に厳格であり、ふざけているオリアナやミハルに説教をすることもある。


・アヴァロンの末裔の幹部のうち、四女から九女まで

 四女グリテン(Gliten)、五女グリトネア(Glitonea)、六女グリトン(Gliton)、七女テュロノエ(Tyronoe)、双子の八女と九女ティテン(Thiten)とティトン(Thiton)。


・マイルズ・サトウ(サトウは西スラヴ系の名字satow)

 七人しかいない記憶監理官の一人。旧東アジア地域の統括。

 身長180センチ。茶髪七三分け黒目。すらっとした体格。四角い眼鏡を掛けている。



・アトランティエ・ラヴクラフト

 設定参照。

 ミハルがトウキョウ周辺の記憶採掘に出かけた際、クレイドルのメンテナンスに来ていたアトランティエと偶然出会う。

 記憶採掘官の仕事についてアトランティエと話をしている際に、オリアナからリーフィに音声通話でコード:サクラについて問われた。

 それを聞いていたアトランティエもコード:サクラについて、ミハルに質問する。

 ミハルは何も知らないため答えられるはずもなく、アトランティエからリーフィの直通アドレスを示され、あとで連絡をするよう言われる。

 こうして二人は出会い、アトランティエはミハルのニライカナイ到達とアルカスプログラムの解析を支援するようになる。

 最後はアルカスプログラムの起動により消えゆく世界で、モモヨと再会する。


 ミハル・カザハナは人類協力会議HCCの記憶監理委員会に在籍する三級記憶採掘官だった。

 ミハル・カザハナは過去の人類の遺産である成人向けの本や動画、薄い本を閲覧するために記憶採掘官になった。

 今日もミハルは通常業務をこなし、最後に業務中に見つけた成人向けの本を再検査する。

 そこをオリアナ・マンディスに見つかり、薄い本もろとも彼女の直接検査にもっていかれてしまう。

 オリアナはそれを奇声をあげて興奮しながら見る。

 その声を聞きながらミハルは若干の不満を募らせるが、そこでアンセルム・フレーリンがオリアナに注意をしにいき、ミハルも呼び出されてまとめて説教され、ミハルはオリアナと二人でしょんぼりする。


 それから何日か後、オリアナの機嫌を取るために、一番は自分の願望を果たすために、オリアナに申請を出して、ハルミにかつて存在した薄い本の聖地トウキョウビッグサイトへ、ファル助を連れて露天採掘に出かける。

 移動の足はソリッドトイ丙型スノウビートル。車体にはHCCとRSCの文字あり。ミハルは護身用に散弾式スタンガンを携帯。

 カルイザワブランチの前では、邪魔にならないところに5人の記憶平等協議会(Records Equality Council)の会員が全ての記憶の開放をと書かれたプラカードを掲げて無言で立っていた。路上には10人の記憶奪還戦線(Records Recapture Front)の戦士(団体内部での呼称。武装はしていない)たちが、同じようにプラカードを掲げながら、ミハルに大声で罵詈雑言を浴びせる。

 カルイザワのテンイを抜け、グンマのフジオカクレイドル、サイタマのクマガヤクレイドル、カワゴエクレイドル、サイタマクレイドル、トウキョウのジョウホククレイドルと次々に抜けていく。

 最後はトウキョウセントラルクレイドルのテンイの端にあるハルミの東京ビッグサイト跡地に到着。

 うきうきしてうろうろしながらトウキョウビッグサイトでファル助の発掘が終わるのを待っていると、女性にRSCの方ですかという感じで声を掛けられた。

 誰だろうと思っていると、女性はアトランティエ・ラヴクラフトと名乗り、びっくりして思わず死なずの魔女などと口走るなど、しどろもどろになりながらミハルも自己紹介をする。

 RSCへの影響力も知っているミハルはとても緊張しながら、アトランティエと世間話をする。

 そのときミハルのリーフィにオリアナから音声通話の着信があった。

 着信の際、アトランティエは気を遣って離れようとするが、なぜかミハルが引き留めてしまう。

 オリアナはミハルが提出していた業務報告書のコード:サクラについて聞き、分からないと答える。

 すぐそばでその会話を聞いていたアトランティエも、通話終了後、コード:サクラのことを問い詰めるようにミハルに聞くが、やはりミハルには答えられない。

 我に返ったアトランティエは、問い詰めるような聞き方をして悪かったとミハルとリーフィの直通アドレスを交換し、仕事が終わった後に連絡をくれるように言い残して去っていった。


 カルイザワブランチに帰還したミハルがハルミでのことをオリアナに報告する。

 アトランティエのリーフィのアドレスについては、「個人的に教えたものだろう。面倒事には巻き込まれたくない。薄い本だけ見られればそれでいいでござる」と、閲覧を拒否した。

 夜、RSCの職員寮(戸建て。1人1棟)でアトランティエにリーフィを発信すると、しばらく呼び出し中と混雑中なのでお待ちくださいの文字が流れた後に、アトランティエが応答した。

 アトランティエの用件は、財団でも独自にコード:サクラの情報を集めていて、コード:サクラ、モグサ・プラトー、ニライカナイ、イアン・ケンドールというキーワードを含む記憶が見つかった場合、RSCに提出せずに、どんなものでもいいからラヴクラフト財団に送信して欲しいというものだった。

 ミハルが上の許可が、と言うと既に記憶監理官マイルズ・サトウの許可はあるという。具体的にはミハル、財団、マイルズ・サトウという記憶の提出になる。

 なぜ、RSCを通さないのかとミハルが訪ねると、記憶奪還戦線の背後にあるアヴァロンの末裔の信者が、規模は分からないがRSC内部にいるという可能性を明かした。

 さらに、なぜコード:サクラを調べているのかと聞くと、人類の犯した罪を償わなければならない、と返事があり、その後は有無を言わせない勢いで依頼されて通信を切断された。


 翌日、ミハルがカルイザワブランチに出勤すると、オリアナが神妙な面持ちで待ち構えており、「マイルズ・サトウ記憶監理官から漠然とした話は聞いていること。薄い本の献上は絶対に忘れるな」と、キリっとした顔で言い残す。

 ミハルは自分の作業部屋に入り、いつも通りに選別業務を始め、業務の合間にファル助に並列処理でRSCが保有しているレコードへ検索をかけさせる。

 検索の結果はコード:サクラ以外は膨大な数に上り、今度は二つ以上のワードを含むものとして検索したところ、シモダで発掘されたレコードの中にコード:サクラとニライカナイが出てきた。

 そのレコードを参照したところ、ラヴクラフト財団の職員がトラたちを助けたあとにシモダの集落で、その言葉を聞きこんでいたことが分かった。手掛かりにはならなかったが、そのレコードに映り込んでいたネージュ・アイコウと名乗る職員が、最近見たアトランティエと同じ容姿であることが分かり、また、エスタン村のクレイドル実地運用試験の財団職員と同じ名前で違う外見であることから、ミハルは混乱する。

 気を取り直して、他の資料をあたるとヨコスカの旧海洋研究開発機構の跡地から発掘されたレコードに、モグサ・プラトーとイアン・ケンドールの名前が見つかる。

 天才科学者モグサ・プラトーと探検家イアン・ケンドールは二人とも有名であるが、分野も住んでいた拠点も違うことから、同じ記憶に登場することは珍しかった。モグサ・プラトーがヨコスカに当時、住んでいたことも分かった。

 レコードの内容はイアン・ケンドールの処分についての機構の報告文書だった。ニライカナイへの立ち入りに関するものだったが、一級機密実験施設と表現されており、イアン・ケンドールが楽園(ニライカナイ)に侵入したとは分からなかった。


 このままオフィスで記憶を漁っていてもしょうがないと薄い本のレコードと共にオリアナに申請を出し、翌日、ヨコスカ港跡地に露天採掘に出かける。

 記憶開放派のデモを横目にスノウビートルに乗り込み、ヨコスカ港に到着。

 早速ファル助に調査をお願いすると、遠くからフードを被った小柄な女性が二人近づいてきて「カザハナさん」と声を掛けられた。顔の下半分を覆うフェイスマスクも装着していて、表情は分かり辛い。二人はそれぞれテンとトンと偽名を名乗り、見学しても良いかと尋ね、ミハルは簡単に承諾する。

 二人は何もせずにミハルとファル助を眺めていたが、1時間ほどでファル助がミハルのもとへ戻ってくると、雪上とは思えないほど身軽に走り、ファル助を捕まえようとする。

 ミハルによって強化されていたファル助は、ひらりと躱して、ミハルとともにすかさず散弾式スタンガンによる迎撃を試みるが、ひらひらと動き回って照準を合わせられず、あっという間に逃げられてしまった。


 翌日、カルイザワブランチに出勤して、ヨコスカ港の件をオリアナに報告。オリアナは大して興味がない様子だったが、ミハルが興味がないかどうか聞くと、上のマイルズ・サトウと財団の扱いだからとふてくされた様子を見せる

 報告の後、ミハルはすぐにレコードの精査に取り掛かる。

 ほとんどのレコードは財団の依頼とは関係のないものだったが、一つだけ、モグサ・プラトーの私生活に関する雑誌の記事があり、養子にリクギ・プラトーという人物がいて、そのパートナーの名前がハルカ・アイコウだということが分かった。

 ミハルはアイコウという名字にエスタン村のネージュ・アイコウに関するレコードを思い出し、財団への報告書に入力する。

 夜、自宅で次はどこを調べるかカスミガセキ周辺を検討していたところ、アトランティエからリーフィにテキストメッセージが届き、ヨコスカ港とした目の付け所を褒められた、怪しい二人組についての見解と注意喚起、ヨコスカ港との関係でカスミガセキやタケシバサンバシ周辺なども採掘してみてはどうかと提案される。

 ミハルは翌日、カルイザワブランチで露天採掘の申請書をオリアナに提出し、早速、採掘に出かける。

 かつてビルが立ち並んでいたカスミガセキは今では何も無い雪原で、周辺の採掘では行政文書や国会答弁などのレコードが大量に発掘されたが、未発掘のレコードはごくわずかしかなかった。

 それをカルイザワブランチの自分のサーバー領域に送信保管して、立ち去ろうとしたとき、再びテンとトンが襲い掛かってきた。

 前回の反省を踏まえ、磁場ネットを用意していたことから、ファル助と連携してトンを捕獲する事に成功する。テンは逃走した。

 トンを拘束してスノウビートルに乗り込み、PwFへの通報とカルイザワブランチのオリアナに報告を行なう。

 平和監視軍(PwF)トウキョウ屯所に向かいながら、車内でPwF隊員の遠隔立ち合いのもとにトンの聴取を行なうも口を割らず、彼女の持ち物に対するファル助のレコードスキャニングをかける。

 すると海と巨大なリンゴの木をあらわす紋章に「玖」(大字の漢数字)の文字が入ったデータが見つかり、アヴァロンの末裔の関係者であることが明らかになった。


 PwFトウキョウ屯所への移動中、女の子と思われる人影が道沿いに倒れていた。

 ミハルは救助しようとするが、ファル助はすぐにテンだと断定し、罠かも知れないので磁場ネットで捕獲するようミハルに提案する。

 提案を採用したミハルは、倒れていたふりをしたテンを易々と捕らえて、トンと同じように素性や目的を話さないため、ファル助のスキャニングを行ない、結果、海と巨大なリンゴの木をあらわす紋章に「捌」の文字が入ったデータが見つかって、アヴァロンの末裔の関係者であることが分かった。

 PwFトウキョウ屯所に二人を引き渡したあと、オリアナに再度報告をすると「二人が可愛い女の子だからって、手を出していないでしょうね。ぐふふふふ」と言っただけだった。


 翌日、今度はタケシバサンバシ周辺で、巨大な吹雪の竜巻を見ながら露天採掘を実行。

 襲撃してきた犯人二人は逮捕されたから大丈夫だろうと甘く考えていた。

 今度は名前を名乗らないおっとりとした女性(テュノエ)が、この辺りで眼鏡を失くしたみたいなので探すのを手伝ってほしいとお願いしてきた。

 おっとりした女性と楽しく話していたミハルのもとに、予定範囲の採掘を終えたファル助が戻ってきた。

 ミハルがお帰りと眼鏡らしきものはあったかとだけ、ファル助に確認すると、それらしいものは何件かあったが、いずれも深い層のものであるという。

 そのように返事をすると「ファル助は優秀なんですね」と言い残して立ち去り、ミハルは残念がるが、ファル助は教団関係者であった可能性を示唆する。

 カルイザワブランチに戻って、オリアナに報告。「最近、女性に恵まれている。これも私の薫陶のたまものかしら」

 その翌日の朝からカスミガセキとタケシバサンバシのレコード解析開始。

 アトランティエが提示した言葉に関連した新しい情報はほぼなかったが、イアン・ケンドールの処分に関する行政文書について、国土交通省の機密文書にもほぼ同じものが存在することが分かった。

 また、別の国土交通省の機密文書には一級機密実験施設の場所(西之島)と停止プログラム(アルカス)の不具合による放棄の決定もさらりと書かれていた。

 この一級機密実験施設が、タケシバサンバシからも見える巨大な吹雪の渦=未踏領域であるとして、この場所がニライカナイではないかと、ミハルは推測して財団に報告書とデータを送信する。

 その夜、アトランティエからリーフィに音声通話の着信があり、財団の見解と一致したことから、今度は未踏領域のそばで採掘を実施してみて欲しいと依頼された。

 海面水位の低下により火山列島がすべて海面より高い位置にあり、山の尾根のような雪原を伝って陸路で行くことは可能だが、未踏領域の名前の通り、暴力的な雪の風が西之島への進入を阻んでいた。

 アトランティエもどうすれば吹雪の中に入れるのか分からないという。

 翌日、オリアナに西之島そばでの露天採掘を行なう予定だけを話し、ルート決めと準備を始めたところ、民間の空中カーゴシップを手配すれば良いと提案を受けた。

 資金面の心配を口にするとどうせ財団関係の採掘なのだろうから財団に相談してみなさいと言われ、素直に返事をしてしまう。

 早速、カルイザワブランチの自分の部屋の中でリーフィでアトランティエにメッセージを送信すると、スノウビートルに乗ったまま搭乗できる財団のカーゴを手配できると返事があり、希望を持つ。


 自宅での準備が終わり、カルイザワブランチでスノウビートルとファル助、電磁ネット、散弾式スタンガンを調達して、財団指定のだだっ広い雪原に行くと、サンタの恰好をした大男が待ち構えており、車から降りて挨拶した途端、鈍い音とともに気を失った。

 目を覚ますとスノウビートルの運転席にいて、ファル助から別の合成音声で、財団の空中カーゴシップの中だと説明される。

 ミハルたちはクレイドルに保護された父島で降ろされた。

 西之島まではおよそ135キロメートルの距離。

 ほぼ西に見える吹雪の渦がとても大きくて圧倒される。

 これ以上近くには空中カーゴシップで着陸できる場所がないため、海面水位が下がって地続きになっている部分と海面が凍っている部分を通って、スノウビートルで西之島を目指す。財団は通信の中継だけ協力する。

 ちょうど中間地点で、PwFが採用しているホバーバイク、パンテラ・シニェズナ4(チタリー)2台が跡を付けてきていることに気付くが無視した。

 自分の生命維持とファル助の活動限界温度を踏まえた未踏領域の暴風圏にぎりぎりまで近づいた。

 チタリーは見えない。


 あまりの寒さにミハルは車内で待機。ファル助の採掘結果は芳しくなかったが、スキャニングの結果、地中に未知の巨大なエネルギージェネレーターと思われる巨大構造物が存在していることに気が付いた。

 また、ケンドール社の刻印がある小型ナイフも見つけ、探検記との一致から、アトランティエの提示したニライカナイが、イアン・ケンドールが見つけた楽園であると確信を抱く。

 さらにアルカスプログラムという単語が含まれるレコードも見つかった。

 念のために、すぐに財団へのデータ送信を試みるが、暴風圏の影響でうまくいかない。


 父島へ移動しながら送信を試行していると、送信が終わるかどうかのところで、チタリー2台と武装したPwF隊員と思われるマシンガンやライフルで武装している人物が道を封鎖していた。

 話を聞こうとそのままスノウビートルで近づくと、実弾で一斉に攻撃された。

 しかし、銃撃の音が止み、ミハルが恐る恐る目を開くと、ガラスは割れておらず、車体の不具合もない。

 そこへデータ送信が終わったファル助がスノウビートルと接続詞て猛スピードを出してチタリーに体当たりし、切り抜ける。

 ミハルがどういうことか確認すると、気絶して運ばれている間に、カルイザワブランチ所有のものと瓜二つに偽装した特別仕様のスノウビートルにすり替えられていたという。

 それでも後ろから追ってくるチタリー2台に対して、ファル助は目くらまし用の泡の散布を行なう。

 1台は凍った泡でバランスを崩して転倒したが、もう1台は健在。

 今度は車体後方にあるゴム弾の発射をミハルに提案。

 ゴム弾なら生け捕りにできるとファル助の管制のもと気軽にスイッチを押すが、命中したチタリーは大破した。


 そのまま父島へ帰還しようとするファル助を制止し、襲ってきた隊員たちの身柄の確保に動く。

 気絶や怪我はしているものの命に別状はなく、電磁ネットで捕獲して故障したチタリーとともにスノウビートルで曳航した。捕らえた際に「全てはマゾエ様のために……」と呟く。

 父島まで連行し、呼び出したPwFトウキョウ屯所の隊員に引き渡した。

 その際、連行された隊員は偽物の隊員証を所持していたことが分かった。

 ミハルが彼らはアヴァロンの末裔の関係者ではないかとファル助に相談すると、ファル助も同意する。


 引き渡しが一段落した後、アトランティエにリーフィの音声通信で連絡を取り、今日の出来事の全てを報告する。

 スノウビートルの交換と偽PwF隊員の襲撃については「準備しておいて良かった」。

 巨大エネルギージェネレーター施設、ケンドール社製ナイフ、アルカスプログラムについては、受信済みでとても興味深いという。

 これについて、ケンドルが発見した楽園はニライカナイで、ニライカナイはあの吹雪の壁の向こう側にあるのではないかと主張する。

 しかし、モグサ・プラトーについてのレコードは? と聞かれると新しい発見はなかったと答えるしかなかった。

 アトランティエも唸るしかなかったが、モグサ・プラトーはヒノに研究室を持っていたはずだから、その周辺を調べてみたら良いのではないかと提案された。


 翌朝、例によってサンタ装束の大男に待ち伏せされて気絶する。

 目が覚めたときも同様にスノウビートルの運転席にいた。

 外を見回すと針葉樹林だけが見え、ファル助に聞くとヒノの小高い丘の上に降ろされたとのことだった。テンイの独特な虹色の波は見えない。

 ファル助を露天採掘に出し、ミハルはスノウビートルの屋根であぐらをかく。カルイザワブランチにリーフィで連絡をしようとしたが、圏外でもないのにつながらなかった。

 やむなく、景色を眺めながらファル助の結果を待つ。

 三時間ほどで露天採掘が終了し、結果を車内で聞くと、新発見の研究資料の中にモグサ・プラトーの手記が見つかる。

 その手記には、リクギ・プラトーの働きぶり、二人目の孫が生まれた喜び、一人目の孫が命を落とした悲しみ、動植物と一緒にコード:サクラ内部の環境計測媒体として、一人目の孫に似せたアンドロイドなどを投入したこと、一人目の孫の楽園のためにアルカスプログラムをわざと失敗した罪の意識などが書かれていた。

 どこか遠くでぎゃあぎゃあと鳥が鳴いた。

 採掘が終わるといつも襲われていたため、周囲を警戒するが、襲撃はなかった。


 それ以外のレコードはカルイザワブランチの設備がないと復元が難しいため、ファル助は財団にデータ送信、ミハルはアトランティエにカルイザワブランチまで送って欲しいと連絡をする。

 一時間後、空中機動自動車が上空に現れたかと思うと、大きな白い袋に包まれて視界を遮られ、そのまま空中カーゴシップまで連れ去られた。

 その船内で、ファル助のスピーカーを使ってアトランティエから音声通信が入った。

 内容は、カルイザワブランチが暴徒に襲われているとのこと。

 今戻るのは危険だと説得されるがオリアナとアンセルムの姿が脳裏に浮かび、すぐに助けに行きたいという。

 アトランティエはPwFが急行しているけど気を付けるようにと言い、空中カーゴシップを急がせる。


 ミハルが辿り着いた頃、カルイザワブランチの外には鎮圧されて縄で拘束された暴徒たちが、PwFの兵士が監視する中で固まらされており、その外には息をしていなさそうな者も何名かいた。

 カルイザワブランチの入口にいたPwFの隊員に身分証を見せて中に入ると、中は荒らされ破壊され、ひどい状況だった。

 ミハルは怪我の応急手当てを受けていたアンセルムを見つけて駆け寄る。

 アンセルムは開口一番、オリアナが裏切ったという。

 どういうことかと聞くと、記憶奪還戦線(Records Recapture Front)の暴徒が何名か進入してきた際、隔壁を降ろしてPwFが来るまで後続を食い止めようとしたが、オリアナが隔壁を操作して開けてしまったという。

 俄かには信じられず、気を紛らわすために、ヒノで採掘した記憶の再生を試みるも、やはりダメで、労わるはずのアンセルムに逆に労わられて帰宅することにした。

 臨時的にファル助と一緒に帰宅後、アトランティエにカルイザワブランチの機材が破壊されて、レコードの復元・閲覧ができない旨を連絡すると財団で解析を進めているから、問題ないという。

 またオリアナの件はアトランティエの耳にも届いており、リーフィの記録から海路で父島に向かっているようだと話す。

 アトランティエはすぐに追いかけたいというミハルを落ち着かせ、解析のために財団の施設に招聘する。

 その晩、指定された時間に家の外に出ると、運転席以外の窓が装甲板で潰された大きな車(ソリッドトイ甲型)が止まっていた。

 緑色のスーツを着た男性に促されて後部座席に座る。

 一切外が見えないまま、緑色のスーツの男が言う施設に到着し、そのままRSCの施設とほぼ同じ機材が置いてある部屋に案内され、ファル助を機材に接続した。RSCのサーバーにある情報も利用できるようだった。

 早速、最新のデータを解析しようとしたとき、ファル助を経由したアトランティエからの動画通話がホログラムモニターに映し出された。


 アトランティエが話す内容は、

 ・西之島の吹雪の渦は年々強く、大きくなっており、いずれクレイドルでも人間の文明を維持できなくなるという予測。

 ・アルカスプログラムの本体は以前に見つかっており、使い方が分かった今、吹雪の渦を止められるかも知れないという。そして、アルカスプログラムに不具合があることは、モグサ・プラトーの手記から分かっているが、巧妙に隠されていて、どこに不具合があるのか分からず直す方法が見つからない。

 ・ファル助にアルカスプログラムを入れた。

 ・オリアナは教団の幹部と考えて間違いないだろう。楽園を手に入れるために、教団がなりふり構わず、行動に出る可能性がある。

 ・地下の巨大構造物を調べれば、吹雪の渦の内側に出られるかも知れない。財団が調査する。


 その上で、ミハルには最近採掘したレコードの確認と、これまでに採掘されたレコードとの関連付けに力を注いでほしいと話す。

 カルイザワブランチの事が気になりながらも、言われた通りに確認と関連付けを進める。

 二日後、地下の巨大構造物への入口が見つかる。

 三日後、吹雪の渦が急激に大きくなる兆候が見え始め、ミハルとファル助に緊急で出動要請がかかる。これ以上大きくなると、地下の巨大構造物へ入れなくなるおそれがあったため。

 簡単な作戦会議の後、空中カーゴシップに財団のソリッドトイ甲型と一緒に詰め込まれるようにして乗り込んだ。調査班とは現地で落ち合う。


 一度父島で降ろされ。ソリッドトイ甲型で西之島に飛行して移動する。風が強くなったところで陸路に切り替える。

 しかし、巨大構造物の入り口付近に調査班の姿はなく、武装した一団が陣取っていた。

 すかさずソリッドトイ甲型を運転していた緑スーツの男は、ソリッドトイ甲型を突撃モードにして、武装集団に攻撃を加えつつ、巨大構造物の入口に辿り着き、ミハルとファル助を降ろした。

 ソリッドトイ甲型は入口の外の武装集団と戦闘を継続。


 ミハルはファル助に内部構造の探知をさせながら、地上への通路を探す。

 結果、吹雪の渦の内側へつながっているであろう地上への通路はいくつか見つかったものの、すべてロックされていたため、システムコンソールと思われる部分を探すことにした。

 途中、グリテン、グリトネア、グリトンと戦闘になりながらどうにか振り切って、中央部に巨大な空間があり、さらにその中央の大きな木の幹の周りの天井でも底でもない高い場所を通路が囲んでいた。その幹に埋め込まれた機材を発見する。

 ファル助がスキャンすると、管理用の端末であることと、バグフィックスがされていないアルカスプログラムがあることが分かった。

 早速ファル助に管理者権限の奪取とプログラムの解析とバグフィックス、実行を命令する。


 ファル助がリソースを全て解析とバグフィックスに割いている最中、オリアナこと教団のナンバー3・マゾエが旧世代の散弾銃を突き付けて、楽園への鍵を渡すように迫った。

 何も知らないミハルは分からないと答えるが、マゾエはそんなはずはないと激高し、散弾銃を放ってきた。幸い、機材、ミハル、ファル助には当たらなかった。

 ミハルはやむなく散弾式スタンガンを構えて、撤退するようマゾエを説得する。

 しかし、マゾエは退かず、お互いに銃の腕前がいまいちな中で銃を撃ち合った。

 撃ち合いの結果、マゾエが気絶した。

 その頃、ファル助から三つ、ミハルに連絡があった。

 一つ目は解析とバグフィックスが完了したこと。

 二つ目は通路の隔壁のロック解除にはパスワードが必要だが、ファル助の解析でパスワードが判明していることと、アルカスプログラムの実行にパスワードが必要なこと。

 三つ目は、地上へ出ている巨樹状の物体を解析した結果、著しく磁場が歪んでいて、アルカスプログラムの実行により、地球の時間が巻き戻る可能性があること。


 実行パスワードと時間逆行について悩んでいると、アトランティエ本人がやってきた。

 事情を説明すると、アトランティエの昔話が始まる。

 本名リッカ・アイコウ。モグサ・プラトーの孫。自分がオリジナルの感情と思考の癖と記憶をコピーしたアンドロイドであること。

 アトランティエが推測するに、祖母の孫を思う歪んだ愛情で今の状況があるのなら、たとえ、楽園の土地が広がろうとも、正しくしなければならないと、実行するようミハルを説得する。

 そのことで実行パスワードを閃き、アルカスプログラムの実行を開始する。

 プログラムの実行開始までは時間がかかり、中断するための方法も表示されていた。

 ミハルとアトランティエはカウントダウンを見守るが、突如、マゾエが目覚め、楽園が拡大するならプログラムを実行するべきではないと訴えながら、ミハルに殴りかかってきた。

 中止させないために必死に端末を守るミハルとアトランティエ。

 マゾエの執念はすさまじく、捨て身で挑んでくる。

 アトランティエが右腕を犠牲にして、なんとかマゾエを底まで突き落とすことに成功した。

 ミハルはショックで号泣する。

 そうしている間にカウントダウンは終わり、アルカスプログラムが開始された。

 アトランティエは、祖母が築いた楽園を一度見てみたいと、傷心のミハルを伴なってニライカナイへ出る。


 地上に出たときは温かく桜が咲き誇り、確かに楽園を思わせる光景が広がっていたが、歩いている内にどんどんと気温が下がり、楽園にもゆっくりと雪が舞い降りてきた。

 やがて二人に黒髪おかっぱの少女が近づいてきて、おばちゃんたち誰?と声を掛ける。

 アトランティエは姉のモモヨだと直感して、左腕で抱きしめた。


 そして地球を強い光が包み込み、ミハルは過去の自分にお礼を言いながら消えた。アトランティエもモモヨも、ムラクモ95式も何もかもが。


 桜が咲く季節、風花美春は高校への通学途中に幼馴染の高原百代と挨拶を交わし、遅れてやってきた高原六花とも挨拶をする。

 風花美春の頬をなぜか涙が伝う。


 最後に桜の花を見上げ、誰かが「春が、来る」と言う。


 完結。

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【SF未来ドラマ】廃棄された未来の記憶 津多 時ロウ @tsuda_jiro

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