すばらしい物語世界

 物語と小説のちがいは何だろうかと問われれば、「桃太郎」は物語だか、小説ではないと答えたい。
 「桃太郎」で、桃太郎やおじいさんの心理描写が描かれることはない。風景の描写はそもそもない場合が多いが、描かれたとしても、そこに何かしらの意味を込めることはない。
 ある意味、研ぎ澄まされているのだ。物(出来事)を語ること以外のすべてが削ぎ落とされている。本来、そういう物語は、幾人もの人を経て、磨かれるものだか、この作者は、ひとりで成し遂げている観がある。
 作品としては、星新一の最晩年のそれを連想させる筆致である。ただ、物を語る。その難しさに挑戦したおもしろさが、この作品にはある。