10 新たな『賢者』
アイリスがヴィジェルに嫁いでから数日後魔術師協会の執務室。クティノスから届いた書状に目を通したアレイスターは、それを握りつぶした。
デスクで書類にペンを走らせていたコルヴァイが、手を止めて彼を見やる。
「いいのか、陛下に見せる必要があるだろう」
「……見せられるか、このようなもの」
アレイスターは皺になった書状を破り、ゴミ箱へと放り投げる。
「魔女を運んでいた魔術師が死んだ。下手人は蜥蜴族のならず者だそうだ。ハッ、銀狼王は嘘が下手らしいな。狐の爺の方がまだマシだった」
「アイリスは?」
「そこが一番面白いところだよ、コルヴァイ」
腕を組んで壁にもたれ、アレイスターは眉を上げる。
「彼奴はまた、魔道具を作っているそうだ」
「……何? 杖は没収したはずだろう」
「クティノスが用意したか、別の絡繰があるのか。まったく、やってくれるわ」
アレイスターの舌打ちを最後に、執務室に重苦しい沈黙が流れた。
コルヴァイはペンを置き、眉間を揉んで背もたれに体を預ける。
「空白の『賢者』の件、予定を早めるか」
「ああ。獣人に与する国逆の友を誅するべく起った第二の魔女といえば、民衆の聞こえもいいだろう」
ほくそ笑んで、アレイスターは扉の方を一瞥した。
「良いな、クレア・リューベック?」
「――畏れながら、殿下。一つだけ訂正がございます」
静かに開いた扉の向こうから、二つ結いだった赤毛を頭の後ろで一つに括った少女が現れる。
「だって私、アイリスを友だと思っていたことなんて、一度としてないんですもの」
恭しく跪いたクレアは、そう言って妖しく目を細めた。
――第一章・了――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。筆者の雨愁軒経です。
『嫁入りからのセカンドライフ』中編コンテスト応募作のため、本作は一度区切りとさせていただきます。
自分が魔法を扱う居場所を見つけ、生き生きと(時にオタ化して)邁進していくアイリスと、
夫として、そして元首として頼もしく支えてくれながらも、ちょっぴり嫉妬深いオオカミさんのヴィジェル。
さらなる陰謀が動き出す中、二人は種族間の垣根を取り払うことができるのか!
まだ魔人の国もあるけれど大丈夫!?
……というところで、今回はこの辺で。
いずれまた、お会いできれば幸いです。
ではではーノシ
虹色の魔女、獣人の国から『布教』を始めます!~し、信じてください。だんな様への愛と推しへの愛は別モノなんです!~ 雨愁軒経 @h_hihumi
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