第6話 夢

「チュー、チュー」

「やめろよ」

「何だ、怖いのか?」

「ばか言え。気持ち悪いんだよ」


 昼休みの教室で、ネズミのおもちゃで遊ぶ男子生徒がいた。

 ルナがそっと立ち上げり、外に出て行った。

 ヨッシーが慌ててあとを追う。


「ルナちゃん、どこ行くの?」

「う~ん、どこ行こう。うさぎでも見に行こうかな」

「ぼくも付き合う」


 校庭の片隅にうさぎ小屋が置かれていた。


「あれ? うさぎさん、いない」

「ああ、暑いから校舎の中に入れたんだ」


 箒を持った校長先生が応えた。


「見たいか?」

「はい」


 うさぎたちは以前用務員室に使われていた、緩くエアコンのかかった部屋にいた。


「わあ、涼しい」

「まあ、ゆっくりとしていきなさい」


 そう言って校長先生は出て行った。


「ルナちゃん、大丈夫か? あいつら殴ってやろうか?」

「ヨッシー、やめて。気にならないと言ったらウソになるけど大丈夫だから」

「ルナちゃんでも何でも手に入るわけではないんだな」


 ルナは目を大きく見開いた。


「何、それ? 手に入らないものだらけだよ」

「たとえば何?」

「うちは家族が多いからクッキーの詰め合わせをもらったとしても、1個ずつしかもらえないの。ママが内緒で2個くれるときもあるけど」

「何だ、そんなことか」

「ルナね、夢があるんだ」

「どんな?」


 ルナは一呼吸おいた。


「チョコレートの詰め合わせを買って、中に入っている写真と照らし合わせながらゆっくりと楽しむの」

「ハハハッ、そんなことか。ぼくバイト出来るようになったらプレゼントするよ」

「本当、うれしい」






「おやじ、俺ね、この年になって借金の申し出をよう断れなくて、いつもナオさんに断ってもらうんだ。情けないだろう」

「ハハハッ、ナオさんが断るのか。しっかりとしているな」

「巨万の富を得て少しくらいならと、面倒くさいのが先に立ってしまって、言い寄ってくる女の子も、それが目的なのか見分けがつかなくなって」


 哲之介は哲平を見つめた。


「騙されるかもしれないと思っているうちはだめだな。この女性には騙されてもいい、と言うより、そんな考えが吹っ飛ぶくらいに夢中にならなければ」


 哲平は哲之介の口から、そんな情熱的な言葉が出たことに驚いた。

 瑠璃さんになら騙されてもいいと哲之介は思ったのだろうか。


 いつまでも暑い日が続くので、誰かが秋泥棒と言っていたが、庭の芝生から鈴虫の鳴き声が涼を運んで来た。



             【了】




『🏠瑠璃子の休日』に最後までお付き合いくださいましてありがとうございます。

今回は事件も起きずミステリー要素も少なかったです。

またすぐにお目にかかることになるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いし

ます🎵



『🏠遼平の快進撃』に続きます。よろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330664698686894/episodes/16817330664698785905



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11🏠瑠璃子の休日 オカン🐷 @magarikado

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