故郷に帰ろう

やがて、周りが見えるようになった。

俺は、いつの間にか廃屋の中にいた。

足元には赤いかんざしが落ちている。

そして、廃屋の中には、二人の白骨死体が転がっていた。


これはいったい?

そして、この死体は誰?



俺は廃屋から出た。


周りにあった他の家も、すべて廃屋になっていた。

俺はしばらく、この村を歩いてみた。


誰にも会わなかった。


どの家も、ほとんど潰れかけている。

そして、あちらこちらに白骨の死体が転がっている。


長い夢でも見ていたのだろうか?

俺は数日間、この廃村で過ごしていたのだろうか?

狐につままれるとは、まさにこのことだ。



俺はミヨの家と思われる廃屋に戻った。

死体はおそらく、ミヨとその父であろう。

弥平の帰りを待っている間に、この村は合戦に巻き込まれ、滅びたのだ。


弥平の帰りを待つミヨの執念と、娘を心配する父の執念とが、この村の幻を作り出していたのだろう。

俺は、二人の死霊が作り出した幻影の中に迷い込んでいたのだった。


村の品が何一つ売れなかったのも合点がいった。

俺は幻を売っていたのだ。

他の人からは見えていなかったのだろう。


赤いかんざしには、サトの強い思いが込められていた。

その思いが、この幻影を打ち破ってくれたに違いない。



サト、ありがとう。

俺はサトのもとに帰ることにした。


俺は赤いかんざしを手に持ち、郷里へと急いだ。


かつて山賊に出会った山道を一人で歩いて行く。

今日は山賊に会いませんように……


そう思った途端、足元に縄がピンと張られ、俺は前のめりに倒れた。

手から赤いかんざしが離れ、転がっていく。


拾おうと四つん這いで前に進むと、目の前に人影が立ち、赤いかんざしは踏みつけられた。


また山賊か?


俺は恐る恐る、顔を上げた。


そこに立っていたのは、藤次郎だった。


「また、お会いしましたね」


藤次郎はニヤリと笑う。


「私を山賊に売りましたね? 今日はお代を回収させていただきます」


「な、何のことだ」


「与吉さん、今更何を言っているんですか。山賊たちは私の隠し財布の場所も知っていましたよ」


「いや、待て、すまん! 俺も命が惜しかったんだ」


「言い訳は無用です」



藤次郎は刀を振り下ろし、俺の首を斬り落とした。



俺の首は、赤いかんざしの元へと転がっていった。



< 了 >

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赤いかんざし 神楽堂 @haiho_

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