赤セーターの亡霊
こんにゃくは美味しい
赤セーターの亡霊
ただいまの時刻は午後6時…私たちは今から学校で肝試しを開始する。
私(朋子)を含め、りこぴんとまりりんとゆーたんと城之内の5人で私たちの学校に伝わる七不思議を解明する予定だ。
学校の七不思議
1、礼拝堂の自動エレベーター
2、中高講堂の控室の女の子
3、教室を覗く生首
4、ロッカー室から響く謎の音
5、駐車場に届く非通知電話
6、体育館の女の子たち
七不思議という割には6個しかないのが最大の謎である。他の友達は六不思議で終わっていることが7個目の不思議だという人もいる。
「やっぱり夜の学校って雰囲気あるよね…」
「わかる!まじで中に入らなくても雰囲気だけで怖い。」
まだ校門を通ったばかりで校舎にすら入っていないのに。
「りこぴんと城之内今からビビってどうするの。」
「みんな体育館行こうよ。」
「そうだね!行こ行こ。」
私たちが向かうと体育館は誰もいない静かな空間だった。私たちの声が変によく響いた。しかも暗いからなのか、いつも使っている体育館とはずいぶん違って見えた。
「やっぱりデタラメじゃない?七不思議なんて」
まりりんはどうも疑っているみたい。
「女の子たちはプールにいるんだよ。」
「そういえばプールに出るんだっけ?」
「あー確かに、プールで自殺した人がいるとか聞いたことあるし。」
ゆーたんがそういうとギィーとドアの開く音がした。続け様に今度はピチャピチャという音がだんだんと私たちの方に近づいてくる。
「な、何が起きてるのよ!」
城之内はパニックになってゆーたんの腕にしがみつく。私も近くにいたりこぴんの手を握る。
「きゃあああ!」
りこぴんが悲鳴をあげて私の手を振り払ってまりりんに抱きついた。その目線の先にはびしょ濡れで仲良く手を繋ぐ女の子たちがいた。その顔は青白いのを通り越して紫色になり、全身がパンパンに膨れ上がっていた。明らかに異質なものを目の前にした私たちは、大急ぎで体育館を後にした。
りこぴん視点
歩きながら、みんなは体育館で見た女の子たちの話で持ちきりだったが、私はさっき触れた冷たい“ナニカ”のことで頭がいっぱいだった。
そのことを考えていたら少し怖くなってきたので考えることをやめにした。私たちは、七不思議にある生首の正体を調べるために3-Eの教室へ向かった。昼間の明るい雰囲気はどこへいったのか分からないほどの恐怖を感じながらも、私たちは暗い教室の中へと入っていった。少し話をしながら生首が出るのを待っていたが、いくら待っても生首は現れず私たちは、段々重苦しい雰囲気からいつもと変わらないテンションで談笑していた。その時不意に視線を感じた。後ろを振り向いてみればそこにあるのは窓だけ。この教室は3階だから、誰かが覗けるはずはない。
「誰かに見られている気がしたんだけど気のせいだったみたい。」
と、冗談混じりに言った。
「気のせいなんかじゃない。」
とまりりんは低い声で言った。
その時、月明かりのせいか、まりりんの顔が少し青ざめて見えた気がした。いつの間にか皆も話をやめて息を潜めて黙っている。その時、どこからか生暖かい風を感じて私はとっさに後ろを振り返った。すると窓の外に女の子の頭だけが宙に浮かんでいた。私はその女の子と目があった瞬間、身動きが取れなくなっていた。やばいと感じているのに身体がいうことを聞かないのだ。顔がだんだん私に近づいてくる。
もうだめかと思った瞬間、
「りこぴん!」
と、ゆーたんの声がして私の腕を引っ張り、教室から無事抜け出すことができた。ロッカールームからはバタバタと扉を開け閉めする音やガチャガチャと鍵を無理やり開ける音が鳴り響いている。私たちは恐怖を感じながら走った。私はあの顔が目に焼きついたまま教室を後にしたのである。
まりりん視点
私たちは怯えながら礼拝堂に向かっていた。さっきみんなは生首の方を見て怖がっていたけれど、私には見えていた。りこぴんの後ろに立つ赤セーターの女の子を…みんなには見えていなかったみたいだけれど、あれは何だったのだろうか。今思い返すと謎が深まるばかりだ。そんな気持ちを抱えたまま礼拝堂の中にあるエレベーター前に到着した。
「礼拝堂のエレベーターが夜な夜な動くっていう噂だよね。」
ゆーたんが言う。りこぴんの顔は青ざめてさっきの出来事をまだ引きずっているようだった。
「エレベーターが勝手に動くとかありえなくない?」
少し強がって言ってみたけれど、本当に動いたらどうしよう。
「え…ねぇ見て。文字盤のところ…」
急にゆーたんが言い、私たちがエレベーターの文字盤のところを恐る恐る見てみると、誰もボタンを押していないエレベーターはさっきまで1階で止まっていたはずなのに1階、3階、2階…と上下しているのだ。
「はぁ!?何が起きてるの!?」
「ねぇ、もう帰ろうよ。やばいって…」
みんなが口を揃えて言い始めた時だった。
「私、このエレベーター乗りたい!」
そう口を開いたのは城之内だった。自分が言ってることを分かっているのか、と私は城之内の発言をすぐには理解できなかった。
「え、城之内それ本気で言ってる?!」
りこぴんがそう聞いた。
私は城之内が何かに取り憑かれたのかと思ったその時だった。私たちのいる1階にエレベーターが戻ってきて、ギィーといいながらエレベーターが開いたのだ。そこから大量の手が伸びてきた。城之内がその手を掴もうとする。私は反射的に城之内の手を引いて走っていた。
城之内視点
私はどちらかというと活発な女の子という性格ではない。お母さんがお父さんと離婚して、母の旧姓である「城之内」に変わった時から、なんとなく自分が自分ではないような感覚があり、同じように謎にまみれたオカルトにのめりこんでいった。
この学校への進学に反対していたお母さんから、最近になってようやく打ち明けられた話がある。
私には一つ後悔があるの。友達を救えなかった事。
今までは言わなかったけど、お母さんも、この学校の卒業生なの。
七不思議の一つにあるエレベーターの怪異。その内容は曖昧で、あの子は詳しい現象を知りたがっていた。
「怖いから私乗らない!」
そう言って私はあの子と一緒にエレベーターには乗らなかった。その選択は間違いだった。降りてきたあの子はもうおかしくなっていた。急いで走って礼拝堂を出て、講堂に向かって行った。私は一生懸命追いかけたけど追いつけなかった。私が講堂に着いた時、あの子は照明室から飛び降りていた。今でもその光景は忘れない。それから娘が生まれて、その娘は私の母校に進むことを望んだ。しかもオカルトが大好きで、私に学校の七不思議のことを聞いてくるのだから堪らない。私は話したくなんてなかった。あの子のことを思い出してしまうから。
私は真相を知りたかった。
「私このエレベーターに乗りたい!」
私は宣言するように言った。
「城之内本気で言ってるの?」
みんなは私を止めていたけれどもう私の心はもう決まっていた。私はエレベーターに向かって歩き出す。中にはお母さんに似た学生が手招きしていた。私はその手を取ろうとした。でも私の手を掴んだのはまりりんだった。
その子の手を取れなかった私の心の中には、「中高講堂に行かなければならない」という決意があった。中高講堂に向かって歩く。みんなついてきてくれるけど、どこか不安そうだった。
「待って城之内。止まって。」
ゆーたんがそう言う。
「中高講堂の女の子のことと、七不思議の7個目を教えてあげる。」
その言葉を聞いて私は歩みを止めた。
「ねぇ、教えて。この七不思議について知りたいの。」
朋子視点
私でも知らなかった七不思議の最後の1個をゆーたんは知っている?
「最後の七不思議と講堂の女の子は同一人物なの。」
「待って、言わないで。」
なぜか私は聞きたくなかった。
「この学校で七不思議を探しにくると人数が1人増える。それが講堂の赤セーターを着た女の子。」
「どういうこと?」
「私たちは今4人でしょ?でも今ここにはもう1人いる。」
4人?ゆーたんは何を言っているの。私たちは5人でしょ?
「ちょっとゆーたんふざけてるの?」
「いるよ。りこぴんの後ろに。」
りこぴんは逃げるようにゆーたんのそばに行ってしまった。全員が私の方を見る。城之内が口を開く。「何もいないじゃん、ゆーたんには何が見えてるわけ?」
なんで…?なんで私が見えないの?りこぴんは震えながら声を絞り出して言った。「もしかして体育館で急に誰かに手を握られたのもその5人目のせいなの?」
まりりんも青ざめながら
「私が教室で見た赤セーターの女の子もその5人目だったの?」
と言った。ゆーたんは一呼吸おいてこう答えた。
「そうだよ。」
うそうそ
ウソウソウソウソ
チガウチガウチガウ
ワタシハココニイルヨ
ワタシタチハトモダチダヨネ
ゆーたん視点
5人目の存在を指摘した途端、重力で地面に引っ張られるように体が重くなった。急に黒板に文字が浮き出す。
ワタシタチハトモダチダヨ
このままじゃ引き込まれる。そう思った瞬間「逃げろ」私はそう叫んだ。
みんな驚きながらも全力で走った。背後からは、もうこの世のものではない“ナニカ”が追いかけてきていた。
オマエラワタシヲオイテイクノカ
地を這うような低い声が響く。怖い。死ぬかもしれない。
私たちは必死に走り、気づいた時には正門を出ていた。
あの出来事についてお母さんに話し、お母さんは「あの子だ」と泣き崩れた。「救う方法はなかったのか」と自問自答しながら、数日が経ったある日のことだ。私は駐車場で迎えを待っていた。携帯が鳴り、画面を見ると、非通知からの電話だった。私は七不思議の一つ、駐車場の非通知電話を思い出した。電話に出るとあの声で「ワタシタチハトモダチダヨネ」と聞こえてきた。
「あなたはもう死んでるんだよ。あなたはもう天国に行きなよ」
さようなら
空を見上げると一筋の光がさしていた
赤セーターの亡霊 こんにゃくは美味しい @konnyakuoishi
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