第4話 百合

キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン


授業が終わる音が学校に響き渡る。

「よし、今日はここまで。夏休みだからって羽目外し過ぎるなよ〜。」

各自が片付けをはじめる中、担任の土田つちだの声が響き渡る。


「やっと終わった〜。明日から夏休みだな、朝陽!」

超絶元気な声で俺に声をかけてきたのは、小学校からの親友でもある、久田ひさだ とおるだ。


「そうだな。って言っても、透は部活三昧なんだろ?」


「引退試合も近いからな。朝陽だって、沢渡さんと沢山会えるから嬉しいだろう?」


「沢山会えるって言っても、昨日もその前も会ったし、なんなら今日も会うんだぜ?いつもと変わらないだろ。」


「またまた、そんなこと言っちゃって。本当は嬉しい癖に。」


透はからかうように、朝陽の髪をくしゃくしゃにする。


「うっうるさい!!ほら!部活のやつが迎えに来てるぞ!!早く言ってこいよ!」


「あっはは、怖い怖い。それじゃあ部活に行きますかね。また連絡するな。」


「おう、頑張れよ。」

嵐のようにやってきた透は、瞬く間に仲間に囲まれ、去っていった。


「さて、俺も行くかな。メールに、明日はおばあちゃんのところって入ってたな。」

百貴の言うおばあちゃんのところは、村に1つだけある駄菓子屋のことだ。俺の家から少し距離があるから、急がなくてはいけない。

「約束は15時、今は13時。う〜ん、ギリお昼は食べれるな。」

家に昨日の残り物があったはず。なんて、考えながら、俺は学校をでた。



ガラガラッ

「よっばあちゃん、邪魔するぜ。」


「あら、朝陽くんじゃないか。いらっしゃい。今日は百貴ちゃんと一緒じゃないんだね。」


「その口振りだと、百貴はまだ来てないみたいだな。今日はここで待ち合わせてるんだ。ってことで、少し待たせてもらうよ。」


「そうかい、そうかい。本当に2人は仲良しさんだねぇ。ほら、ここの椅子に座って待ってると良いさ。」


ばあちゃんはそう言うと、レジ横に置いてある椅子を貸してくれる。


「ありがとう、ばあちゃん。」

駄菓子屋の時計を見ると14時50分をさしている。

「とりあえず待つか。」





カチカチカチカチ




カチカチカチカチ




時計の音だけが店に響き渡る。


「遅い。さすがに遅すぎる。」

時計はすでに16時をさしている。

「あいつが理由もなしにドタキャンするなんてありえないしな。大丈夫か?なんか事故にでもあったか?」

いつもの百貴ならありえないことが起きて、俺は動揺を隠せなかった。

「とりあえず電話かけるか。」


プルルルッ

プルルルッ

ツーツーッ


「繋がらん。んー、とりあえず留守電はいれたし、気づけば折り返してくるか。」

はあっとため息をつきながら立ち上がる。


「ばあちゃんありがとな、いったん外出るよ。」


「おや、百貴ちゃん来てないけど良いのかい?」


「なんか連絡つかなくてさ、とりあえず海岸の方でも歩きながら待つことにするよ。」


「そうかい、なら良いんだけど。暗くなると危ないから気をつけるんだよ。」


「わかってるよ。んじゃ、ありがとな、ばあちゃん。」


ガラガラッ

店の扉を閉め、俺は海岸に向かって歩き出す。


「そういえば、何も買わずに出てきちまったな。今度沢山買わないとな。」


ペタペタとサンダルを鳴らしながら歩いていると海岸にでる。今朝来た砂浜とは違い、こちらはゴツゴツとした岩に囲まれている。海が岩に叩きつけられ、大きなしぶきをあげている。


「こっちも潮の匂い凄いなぁ。海だから、あたりまえか。」


1人でノリツッコミを繰り広げながら深呼吸をする。鼻いっぱいに潮の香りと、百合の香りが入ってくる。

「ん......?百合の香り...?こんなとこに百合なんて咲いてたか?」

不思議に思い、辺りを見回すがそれらしいものは見当たらない。匂いの強さからして、近くに、しかも大量に咲いてないとありえない程の匂いの強さだ。

「いったいどこから.........」

もう一度、鼻で深く息を吸う。

「あっちからか??」

風上の方に顔を向ける。どうやら、海岸沿いに進んだ崖上の方からきているようだ。

「まさか...な...」

百合の香り、昨日の百貴の事を思い出すと、どうしても結びつけられずにはいられなかった。これは何かの勘だったのか、はたまた、俺にも実は特殊な力があったのかは分からないが、とにかくそこに百貴がいる。そんな確信があった。

俺は焦るように走り出し、崖上に繋がる坂道を駆け上がる。


「はぁっ、はぁっ」


息が上がる。喉がいたくて、心臓がうるさい。

そんなことお構いなしに、崖の近くに進んでいく。深く息を吸わなくてもわかる、鼻を突き刺す程に強い百合の香りと崖際がけぎわに広がる血溜ちだまりまり。そして、その中央には靴がある。

何度も見てきた。見間違えるはずがない。


そう、、、百貴の靴だった。


「は...?嘘だろ?」


脳が混乱する。百合の香りが。目の前に広がる赤色が。百貴の靴が。朝陽の思考を埋めつくし、停止させる。


「はっ...はっ......嘘だ...嫌だ。ゆき...いやだ。」


涙が滲み、上手く呼吸が出来ない。足から力が抜け、その場に座り込む。そして、そのまま俺の意識は途切れた。


バタンッ。












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残香の先に 蓬田凪紗 @Yomogi110714

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