定食屋・とと子

津多 時ロウ

定食屋・とと子

 私の名前はとと子。

 西園寺とと子。

 ピチピチの十六歳よ。

 太平洋を臨む明るい総合リゾート宿泊施設、ヴィラ西園寺のオーナーをしているの。

 五年前の開業から部屋は常に満員御礼、業績もうなぎ登りなの。


 え? 実に素晴らしいって?

 大した事ないわ。

 この西園寺とと子の才能ならね。


 そして今日もまた、ヴィラ西園寺に楽園を求めて訪れたお客様が一人。


「ちわー! 夏の日替わり一つ!」

「ぃらっしゃーせぇー!」


 ――🐟――🐠――


 ……ずびばぜんでじだぁ!!

 私、嘘つきました!!


 鶴田とと子は今を時めく三十二歳。

 活気ある港町で、三年前から屈強な海の男たち向けの大衆食堂、定食屋とと子を営んでるわ。

 オーナーっていうは本当よ? 私一人で切り盛りしてるから、オーナーシェフとも言えるわ。カッコイイでしょ?

 ヴィラよりもビラを撒く機会の方が多いけどね。

 だけど、定食屋の仕事もなかなか気に入っているのよ?

 だって素敵じゃない、鍛え抜かれた上腕二頭筋って。ムチムチよ、ムチムチなのよ! あなたにも分かるでしょ?


 それにね、私にはもう一つ楽しみがあるの。


 それはマッチョ。

 鍛え抜かれた海の男と何が違うのかと言いたいんでしょう?

 マッチョはマッチョでもただのマッチョじゃないわ。

 未来のマッチョよ。

 光り輝く人類の希望。

 それが未来のマッチョ。

 まあ、一般的な言い方に置き換えるなら、男の子ってところね。


「ちわー」

「こんにちはー」


 ふふふふふ、噂をすればさっそく来たわ。

 今日の獲物……、げふんげふん。特級観察対象、半袖半ズボンの上物が!

 あ、いけない。ヨダレを拭かないと変態のお姉さんだと思われちゃう。


 ――🐟――🐠――


「まぁー、いらっしゃいまーせー」

「日替わり一つ」

「はい、日替わり一つ。そっちのボクちゃんは何にしまちゅかー?」

「こいつにはお子ちゃま魚定食を出してくれ」

「お子ちゃま魚定食ですねー。でも、お姉ちゃんはボクちゃんから直接聞きたかったなー。ねえ、お姉ちゃんのお願い、聞いてくれるぅ?」

「……」


 あら、あらあらあら、あらあらあらあらあら。

 ちょっと大人の女の魅力を出しすぎちゃったかしらね?

 ボクちゃん目を合わせてくれなくなっちゃったわぁー。

 もう恥ずかしがり屋さんなんだからぁ。

 カワイイぜ。


「はぁい、お・待・た・せ」


 私は手早く盛り付けて、お父さんと未来マッチョ、今はまだ貧弱なカワイイ男の子に料理を出した。少しずつお姉さんビームを出しながら。

 そして光の速さで観察ポイントに戻るの。すべては私が作った、もはや私の分身と言っても、いや、もしかしたら私そのものと言っても過言ではない料理を、カワイイ男の子が美味しそうに食べる顔を眺めるため。


 最初はシジミのお味噌汁、次にホウレン草の胡麻和え。

 この子、出来るわ。よく訓練されている。

 そして次はイボダイの煮付けに箸を付け……、あ、ダメ。ダメよそんなに乱暴にしたら!

 焦っちゃダ・メ。

 もっとゆっくりと、傷つけないように優しく、そう、そう、そうそうそう、いいわ。

 とってもいい。その調子、その調子よ。

 はい、カワイイお口をあーんして……、やればできるじゃない。


「ぐぼ! げほー、げほげほ!」


 たたた大変だ! 男の子が激しくむせ始めてる!

 これは大事件だわ!

 骨が喉に刺さっちゃったのね!

 いいわ!

 お姉さんが取ってあげる!

 お姉さんがすぐに吸い取ってあげるからちょっと待ってて!

 あなたの初チッスは私のものよ!


「おい、大丈夫か?」

「うん、ちょっと噛まずに飲み込んじゃっただけ」

「そうか」


 ……ちっ。


 おっといけない、いけない。

 またヨダレが垂れてたぜ。

 まあ、いい。気長に待とうじゃないか。

 私が定食屋を続ける限り、いずれ機会は訪れるのだから。


「こんちわ!」

「にんにちは!」

「いらっしゃーまーせー!」


 そして私の定食屋に未来のマッチョが飛び込んでくる。

 ここが男の子の初チッスを奪うための罠だとも知らずに。


 私の名前は鶴田とと子。

 今日も定食屋で上腕二頭筋と僧帽筋と大胸筋と男の子に目を光らせる。



『定食屋とと子』 ―完―


※魚の骨が喉に刺さったら、近くの病院に駆け込むか救急車を呼んでね🐟

※イボダイ食べたい。

※勢いで書いた。勢いでしか書けなかった弱い私を許して欲しい。

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定食屋・とと子 津多 時ロウ @tsuda_jiro

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