ほの暗い過去を抱えた恵(めぐみ)は、日課の散歩をしている海浜公園で、絵描きの憬(きょう)と偶然出会う。
実はその前の日、恵は憬を見かけていて――
恵の一人称で語られる情景は、とても詩的で色彩豊か。なのに恵自身は、対人コミュニケーションを避け、人付き合いもせず、機械のように仕事を繰り返す毎日。
その内面と外面のギャップに惹き付けられ、また、心を貝のように閉じている恵の隙間にヒョイッと入ってしまう憬という存在の軽妙さ、そのバランスが絶妙です。
おそらく、恵は、初めて自身の感情を表に出して人にぶつけたのではないでしょうか。
それぐらい、出会うということは、熱量を伴うものだ、と胸に刺さります。
キーワードである「月が綺麗ですね」を巧みに使ったリーディングもお見事で、ずぶりと夜の闇(あるいは自身の心の奥底)にはまり込む、そんな魅力的なお話でした。
是非、読んでみませんか。おすすめです。
田舎町の美しい景色を舞台に物語は始まります。主人公の恵は、受け身。一歩間違えると、主体性に欠けると映る女性だ。彼女は、どこか世間と切り離されている。そんな主人公視点で物語は進行してゆく。
大人しいからと言って何も感じないわけではない。恵もそれは同じだ。彼女の視点は、白昼夢のように儚く美しい。
恵はある日、モネの絵が好きだと言う青年に出会う。同じ苗字、名前は憬。彼のコミュニケーションもとり方が独特だ。
周囲の輪に上手く馴染めない二人は、出会った時から惹かれあう。
恵には辛い過去があった。
彼女は閉ざす事で自分を守ろうとしてきたのだ。けれども、憬との出会いが彼女の日常に変化をもたらす。心境の変化が非常に丁寧で、読む者を魅了する。
恵の選択と、憬の受け止め方が何とも二人らしい。
短編でここまでグッと引き込んで、ラストにもたらされるカタルシスは、流石は津多さんと言った所だろう。
満月の下で笑う二人を見てみたい
出会えて、良かったね
そんな風に思った。