第14話【第5章完結】貞操の危機
「約束を果たしてもらおう」
開口一番、ガラガエルはそう言った。なかったことにしたいのだが……。
<疲れているんだ。一眠りした後にしてくれ……>
確かに約束したのは事実だが、現実逃避したい気持ちでいっぱいだ。せめて先送りしたい。
「化身を作った後で本体は寝ていればよいだろう」
ガラガエルは譲らない。
不承不承、俺は同意して化身づくりを開始した――。ルシウスにより全面鏡張りの部屋が用意され、そこでガラガエルの要望に従って化身を作っているのだ。どうやら彼は特定の誰かに瓜二つの化身を作らせたがっているようだ。
「違う! ウェストが3mm太い! 左の乳房の内側にほくろを付けるのを忘れるなと何度も言っているだろう」
何度もダメ出しされ、作っては消すという行為を繰り返している。20体目ぐらいまでは数えていたが、もう何回繰り返しているのかわからない。
「ちょっと時間がかかりそうだから、先に眠らせてくれないか?」
化身の口を使って俺は告げる。化身とはいえずっとマッパな状態でガラガエルに観察されているのも不愉快だった。言うまでもないことだが、声質も彼の指示に従って作成している。自分で喋っておいてなんだが、とても優美でセクシーな声だ。
「休んだら容姿の詳細を忘れてしまうだろう。後少しなんだから我慢しろ!」
ガラガエルに叱咤され、更に化身の生成を繰り返す。
「まぁ、だいたいこんなものだろう」
更に数十回繰り返したところで、彼はついに満足した。
「だいたい? ミリ単位でサイズを指定しておいてよく言うよ」
「生意気な口を叩くな! 従順に振る舞わんか」
「チッ、面倒くさいやつだな。さっさと終わらせるぞ」
そのような会話をしつつも、実のところ俺自身も鏡に写った自分の姿に興奮していた。自分だけでキャラクリをしていたらこんな超絶美人の化身を作るのは難しかっただろう。悔しいが、美的センスについては認めざるを得ない。
「いったいこれは誰なんだ?」
「なんのことだ?」
「特定の誰かを再現しようとしていただろう」
「……お前には関係のないことだ。さっさと服を着ろ」
ガラガエルにすけすけのピンク色の下着を渡され、俺は唖然としながらショーツとブラを眺めた。なんというのだろう……裸でいるよりも却って恥ずかしいような下着だ。
「いろいろな服を用意しておいたぞ」
ガラガエルはそう言い残すと部屋を出ていった。いちど服を着せた上で脱がすというのだろうか、いちいち手間のかかるやつだ。
「やれやれ面倒くさいやつだ」
俺はそう呟きながらウォークイン・クローゼットに入って行き、紫色のタイトなドレスを試着してみた。上品なドレスで肌の露出はそれほどないが、抜群のプロポーションがはっきりと分かる。俺は鏡に映る自分の姿にうっとりとしていた。
「すごい美人だな。これが俺なのか……」
そう呟きながら鏡に向かってウィンクをしてみたり、セクシーなポーズを取ったりしているうちに楽しくなってきた。
クローゼットにある服を次から次へと試して、鏡の前でポーズを取る。気がつくと鼻歌を歌っていた。ルンルンである。こんなに気分が良いのはいつ以来だろうか?
「こんな嫁が欲しかった」
純白のウェディングドレスを着て鏡の前でうっとりとしていると、部屋の扉が開いた。まずい。ウェディングドレスを着て上機嫌で鼻歌を歌っている姿をガラガエルに見られてしまった。
「いや、これは……」
そう言いかけて俺は振り返る。
そこには『大魔王ガーマの全身鎧』を着込んだガラガエルがいた。いつの間にか俺の本体が着ていたのを脱がせて自分で着ているらしい。本体のほうに意識を切り替えて様子を確認しようとするが、うまく行かない。
「お前の本体は熟睡しているファック。疲れていたようだからな」
久しぶりに聞く奴のFワード。懐かしすらもある。
「な、なぜ、それを着ているんだ? 辛いから俺に押し付けたんだろ……」
ただならぬ雰囲気を感じて、俺は後退りしながら言った。
「なぜ? そんなことは決まってるファック」
ガラガエルはそう言うと俺を指差す。俺自身が何度も使ってきた技だ。何をされるのかすぐに分かった。動機が激しくなり、顔が紅潮する。
「盛りがついたメスになった気分はどうファック? これが欲しいのなら頑張って私を誘惑してみろ」
ガラガエルはそう言いながら屹立した巨大なモノを露出する。
「ばっ、バカを言うな……!」
そう強がってみたが、心の中ではすでに自分の負けを悟っていた。
**** 第5章了 ****
ここまでお付き合いいただきまして、どうもありがとうございます。時間が掛かってしまい申し訳ございません。なるべく早く次章を書き上げたいと思います。
裏庭ダンジョン~ブラック企業で燃え尽きて世捨て人になったおっさんは先行者利益で無双する~ 笑パイ @transhiro
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