第13話 一国一城の主
「ゴゴゴ……」
地響きを立てながら、部屋の床がゆっくりと隆起していく。何事かと眺めているとそこに現れたのは巨大な鐘だった。
「リーダーがそれを鳴らせばダンジョンクリアだ」
イーオンにそう促される。俺は軽く頷いて鐘の側に設置してある大きなレバーを下におろした。
「カラン、カラン、カラン……」
耳を
鐘は数分のあいだ鳴り続いていたが、やがて鳴り止んだ。そして鐘自身の姿すらも変形させていく。一体なにに変わるのだろう? と興味深く眺めているとやがて、鐘は黄金色の玉座へと変貌した。
部屋にはいつの間にか窓が備え付けられているので、俺は窓から外の景色を眺めた。どうやら夜のようだが、赤い色をした不思議な明かりが揺らめいている。あの明かりは恐らく低緯度オーロラだろう。実物を見るのは初めてだが、以前に動画配信サイトで見たことがある。
「公爵閣下、サハリン公爵級ダンジョンのクリアおめでとうございます。今後は何なりと我々にご命令ください」
ルシウスの声が聞こえたので、俺は思わず身構える。声の方には執事服を着たルシウスとカシウスが胸に手を置いてうやうやしく頭を垂れている。
そうか。ダンジョンをクリアしたから彼らは俺の配下になったのか……。非常に厄介な敵だったが、味方としてはこれ以上無いと言うぐらい頼もしい。
<そうだな……まずは領土名をサハリンから樺太に変えてくれ>
本来であれば、日本領で然るべき場所に位置する島なのになぜかロシア領となっていたが、これからは日本人を大勢呼び寄せて開拓しよう。
「御意。今後、この領域は樺太公爵領とします」
ルシウスがそう答えると同時に、大量の情報が殺到して脳がパンクする。
「ファーック!」
思わず大声で叫んでから、情報を整理する。まずは音信不通となっていた、化身『人間伊東3号』 以外の接続をシャットアウトした。
幸いなことに彼はまだ生きているのだが、俺が転移してからは痴呆老人のような状態になっていたようだ。双子姉妹の妹である歌が甲斐甲斐しく世話してくれたのでなんとか生活することができていた。
俺の預かり知らないところで化身は勝手に成長するようで、近頃は自分ひとりでトイレに行けるようになったらしい。とてもではないがダンジョンの探索に同行できる状態ではないので、阿佐ヶ谷のマンションで歌と2人で暮らしているようだ。
メグ姉はすでにアウストレイアの手引ですでに進化していた。晶もいま『進化のコクーン』に入っている。どうやらガラガエルが約束をまもったらしい。
とりあえず、主要メンバーのレベル制限問題は解決した。みなそれぞれ東京で手下を増やしているのだが、とりわけ詩織の躍進ぶりが凄まじい。1万人を超える規模の『詩織親衛隊』が誕生していて、その中には星屋豊も含まれている。
詩織が東京に進出すると、星屋に率いられた高レベル者数名が神楽を見限り詩織の配下になった。彼らの手引で詩織は代々木城を苦もなく落として、現在では彼女が代々木男爵の地位についている。そして城の守備を晶と白姫に任せ現在は久我山ダンジョンに潜っているという。
詩織の活躍はすばらしいのだが、どうも他のメンバーとはいまいちうまく行っていないようだ。小太郎とメグ姉は別行動を取っており、独自に東京近郊に跋扈するならず者たちを叩いているようだ。まぁ、無理に一緒に行動する必要もないだろうから、事後承諾を与える。
『千人ほど選抜して樺太に送ってくれ』
俺は詩織に念話でそう伝える。
「ふぅ……」
連絡が途切れていたメンバー達にひととおり指示を出したところで、ようやく一息つくことができた。しばし玉座に座ってぼーっとしていたが、尻が痛い。正直言ってあまり座り心地が良い椅子ではない。
ふかふかのベッドが備え付けられた寝室もいくつか用意されており、共に戦った仲間たちはすでに爆睡している。俺も一眠りしよう、と思って立ち上がったところでルシウスに声をかけられた。
「正天使ガラガエル様がお見えになっております」
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