第12話 大逆転

「!?」


 敵はなにが起こったのか理解できていない。スプリーム・ソーマを使って回復する前からすでにアヤさんは【破転爪はてんそう】を繰り出していたのだが、状況の急激な変化に驚いて対応が遅れた。ルシウスは回避を諦めてブロックしたが、その脚にすかさずオカワリが噛みつく。そしてそのまま身体をドリルのように回転させて、傷口を大きく広げていった。


「ぐがぁっ!」

 今まで余裕綽々に振る舞っていたルシウスの顔が苦痛に歪むと、イーオンが放った巨大なファイヤーランスが水色の腹に突き刺さる。


「兄者!」

 カシウスが救援に駆けつけようとこちらに背を向ける。


 麗しき兄弟愛だが、そんな行為を見逃すほど俺はお人好しではない。こちらに向いた背中に【破荒突さすさづき】をお見舞いしてやる。流石にここでカシウスも冷静になったようだ。左右に躱すのも反転してブロックするのも不可能だと判断したのだろう。彼はそのまま前方に全速力でダッシュした。


 浅い。


 しかしアヤさんはこちらの状況も見逃していなかった。ふたたび【破転爪】を繰り出しカシウスに向かって突進する。強烈な衝撃によりカシウスが空中に投げ出される。カウンターで入った上に、付与属性を敵の弱点である氷に切り替えている。かなりのダメージが入ったはずだ。


「セイクリッド・アポカリプス!」

 復帰したダメスが光属性の大技を放つ。


 白く発光した剣で十文字形の2連撃でカシウスに斬りつけると、空中に巨大な光の十字が現れた。自分のHPとMPを半分以上消費して特大ダメージを叩き出す技だ。一気に相手を沈めてしまえるのならばよいが、敵を削りきれないと技を放った自分が窮地に立たされてしまうので使い所が難しい。話には聞いていたが、実際に目にするのは初めてだ。


「くっ、馬鹿な! 兄者……すまん……」


 HPが尽きたカシウスが塵となって虚空に消える。


 こうなるともはや掃討戦だ。残ったルシウスはすでに満身創痍だ。4方向から攻撃を受けて防戦一方になった。

 俺はダメスに回復魔法を掛けてから、大きく敵の頭上にジャンプする。新しい技がひらめいたのだ。


轟雷槍墜撃ごうらいそうついげき!>

 実際のところ雷属性はあまり通らないのだが、無効というわけではないので使い慣れた『天魔のハルバード』を使った。頭上に突き立てられた槍に全身を貫かれて、ルシウスはついに力尽きた。


<ふぅ。危ないところだった。俺の判断ミスでみんなを窮地に陥れてしまった。すまない>

 1億マカコインをアイテムボックスに入れておいて、いざというときはレベルアップで回復する――という俺が主張した安全策を逆手に取られて窮地に陥ってしまったのだ。あのまま全滅していたら確実に俺が戦犯だった。


「しかし、あれは一体何だったんだ?」

<スプリーム・ソーマだ>


 イーオンの問に俺はソフィアの声で応えた。


「そんなモノを持っているんならもっと早く使ってほしかったな。本気で死ぬかと思ったぜ――。いや。よくよく考えてみれば絶好のタイミングだったかもしれんな。勝利を確信した敵が油断していたからこその大逆転だった。大したものだ」


 イーオンはそう褒めてくれた。が、いろいろな意味で良いタイミングを狙っていたのはガラガエルだったのだから、内心は複雑である。だがこのあたりについては仲間には言いたくない。恥ずかしいし。


<イーオン・メロン=カモネギーがパーティリーダーの地位を譲渡しようとしています。受け入れますか?>

 次の瞬間、ソフィアの声が頭の中で響いた。


<どういうことだ?>

「当然だろ? ダンジョン開放によって得られる領土はリーダーのものになるのだからな。まぁ、これで貸し借りなしということにしてもらえるとありがたい」


 イーオンがそう言うので、俺はパーティリーダーの地位を受け入れることにした。これまで所領なしだったが、ついに俺も神聖支配権を手に入れて領主になるのだ。


「そうそう。今のは利子だった。借りた金も返さなければな」

 イーオンはウィンクしながらそう言うと、23マカ分のコインを差し出してきた。


 なかなか気持ちの良い奴だ。

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