最終話 滅ぶ世界に鳴り響くピアノの音
目覚めると、隠れ家のベッドにいた。
魔王様のバカ、私を本当において行っちゃうなんて。
私をなめないで。
私は隠れ家にあった食料をバッグに詰めると、外に出た。
そしてフードを目深にかぶって、人里へ行った。
宿に泊まり、しばらく情報収集していると、ある話が耳に入った。
どうやら、魔王軍と人類の戦争が始まっているらしい。
人間側が優勢で、このままだと魔王軍は負けるという情勢のようだ。
私は魔王様が心配だった。
人間のくせに私は魔王軍を応援してしまっていた。
だって、私にとって大事なのはもはや、魔王様だけなんですもの。
日に日に、人間側の勝利を伝える話が耳に届いてきた。
魔王軍の敗北は目前だという情報が届いて、数日後のことだ。
世界に突如、大量の隕石が降り注いだ。
人間の町が、村が、つぎつぎと滅んでいく。世界中から人々の悲鳴が聞こえてくる。
だけど、不思議なことに、私にはまったく隕石が当たらなかった。
私は魔王様のことが心配になり、魔王城へ急いで向かった。
魔王城には誰もいなくて、すんなりと最上階まで行けた。
普通、警備の兵士とかがいるものじゃない?
まるで招かれてるようだわ。
最上階の一番奥の部屋の扉を開けると、細長い道の先に、魔王様がいた。傍らには大きなピアノ二つと柔らかそうな椅子が二つある。
ゆっくりと魔王様の元へ向かうと、魔王様は悪役然とした表情を浮かべた。
もう以前のような顔を私に向けてくれないのでしょうか。
「久しぶりだな」
「魔王様……体、ぼろぼろじゃないですか」
「勇者たちが思った以上に強くてな」
「倒したんですよね?」
「ああ、ギリギリだがな……」
「魔王様、今、世界中に隕石が降り注いでいます、これは……」
「ああ、世界がこうなっているのは、俺がやったことなんだ」
「……そうだろうと思っていました」
「そうか、なら俺を始末するか? だが残念だったな、俺を殺したところでもう世界の破滅は覆らない」
「いいえ、あなたを始末しに来たんじゃないんです」
「なら何しに来た?」
「あなたとピアノを弾きに来たんです」
「……どういうつもりだ?」
「深い意図なんてないです、ただあなたとピアノを弾きたい、本当にそれだけなんです」
魔王様はそれを聞いて、目を伏せ、何かを考えこむような顔をした後、私を真っすぐ見つめた。
「そうか、ならともに弾こう」
彼が差し出してきた手を握った。
魔王様に手を引かれてピアノのほうまでゆっくりと歩く。
椅子に隣り合って座ると、彼は秘めた想いを吐露してくれた。
「本当は、君に殺されるつもりだったんだ」
「え? どうして」
「君になら、殺されてもいいと思った」
「……まったく、殺すわけないじゃないですか」
「そうか……君はそういうやつだったな」
「ええ、そういうやつです、ねぇ、魔王様、早く弾きましょう?」
「ああ、そうだな」
そして、私と彼は同じタイミングで鍵盤を叩いた。
世界が終わるというのに、私の演奏も彼の演奏もとても明るいものだった。
崩壊する世界に、場違いな音が流れる。
私と彼の音は世界のどこまでも響いていく――
永遠に――
ピアノを弾く魔王は私に恋をする 桜森よなが @yoshinosomei
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