第三話 火あぶり

 走って、走って、走って、ほとんど休まず、何とかして、自分の住んでいる町に着いたとき、町の入り口になぜか騎士が大勢いるのを見た。

 騎士たちがこちらにゆっくりと近づいてくる。


「あの、どうしたんですか? 何か町であったんですか?」

「いや、町には何も起こっていないよ、君に、魔王とつながっているという疑惑が出ていてね」

「え?」

「ちょっと場所を移そうか」

「いや、やめて、なにするの!」


 騎士団たちに私は捕らえられ、縄で縛られ、目隠しをされ、どこかに連れていかれた。

 馬車に乗せられ、数時間後、目隠しをようやく外されたかと思ったらそこは監獄で、私は牢屋に入れられた。


「ここからだして!」

「処罰が決まったら、出してやるよ」


 と言い残し、騎士たちは去っていく。


 処罰? どういうこと?

 私はなにをされるっていうの?


 私はそれからびくびくとおびえながら五日間を過ごした。

 しゃべり相手もいない、食事は固いパン一切れと豆が入っただけのスープを一日二回提供されるだけ。

 気が狂いそうになった。


 五日目の朝、ひとりの騎士が牢屋の前に現れた。

 牢屋のカギを開けて、言う。


「お前の処分が決まったぞ。火あぶりの刑だ」

「火あぶり!? なんで、いやよ、わたしがなにをしたっていうの!」

「うるさい、おとなしくついてこい!」

「いやぁぁああ!」


 引きずられ、強制的に連れていかれた場所は、町の大広場。

 そこで木の棒に括り付けられた。

 観客が大勢いて、興味深そうに私のことを見つめている。


「へぇ、あれが魔王の手先といわれてるやつか」

「一見、普通の女に見えるな」

「騙されるな、悪魔は優しい人間のふりをするらしいぜ」

「あの女の正体も悪魔と言うことか」


 観衆の心ない声が私のところに次々と届いてくる。

 いや、私、このまま死んじゃうの、どうして……


「今から、この人間のふりをした悪魔を、火あぶりの刑に処す!」


 処刑人がそう叫ぶと、私の足元に火をつけた。

 おおおおおっと盛り上がる人々。


「いやぁぁぁ、だれかぁぁあ、熱い、熱いよぉぉ、誰かぁぁ!」


こんな悲惨な死に方いや、誰か助けて、誰か、魔王様……


「助けて、魔王様ぁぁぁー-」


 私のその声が届いたのかもしれない、

 禍々しい羽を羽ばたかせて、空から何かがやってきた。


「誰だ!」


と処刑人が叫ぶ。空から来たものは不敵な笑みを浮かべた。


「魔王だ」


 威圧感たっぷりにそう言うと、辺りがざわつきだした。


「ま、魔王、あれが!」

「に、にげろぉぉぉ!」


 パニックになる観衆。

 処刑人はその場でおろおろと慌てふためていた。


「助けるのが遅れてすまない」

「魔王様……いいえ、嬉しいです、来てくれて」


 魔王が地に降り立ち、燃え盛っている私の元へ来ると、私を縛っていた縄をほどいてくれた。

 そして私を抱きかかえると、再び空を飛んだ。


「しっかりつかまっていろよ」

「は、はい……きゃぁああ!」


 こんな高いところから地上を見下ろすのは初めてだ。

 別段、私は高所恐怖症ではないのだけど、それでも空高くにいるこの状態は怖い。

 下を見ないように顔を上げていると、魔王様と目が合った。


 改めて、きれいな顔だと思った。

 睫毛が長くて、鋭い目だけど、瞳が透き通るようで……


 お互い、じろじろと見つめ合っていて、なんだか気恥ずかしくなって、私も魔王様も目をそらした。

 数十分くらい空を飛んだあと、魔王様はどこかの森の中に降り立った。

 目の前には地味な木造の家が建ててあった。


「ここは俺の隠れ家だ、ここにしばらく隠れていてくれ、大丈夫、ここならだれにも見つからない」


 そう言って、魔王様は再び飛び立とうとした。


「どこへ行くんですか?」

「君がそれを知る必要はない」


 むかっとした。

 大事にされているからこその対応なのかもしれない。でも、私を侮らないでよ、あなたとともに死地に赴く覚悟だって出来てるんだから。

 私は彼の背中を一発グーで殴った。そして背中に抱き着く。


「行かないでください、あなたとずっと一緒にいたいです! 一緒にいることでどんな危険な目にあってもいいから……」

「どうしてそこまで……君は勇者が好きだったんだろう?」

「昔の話です。勇者様はとても美しい人だと思います。でも、私にとってあの人はただそれだけなんです、それに気づかせてくれたのは、魔王様、あなたです」

「よくわからないな」

「ふふ、女心は男の人にはわかりませんよ」

「わかってほしくないのか?」

「もちろんわかってほしいです」

「ふっ、やっかいだな、女というものは」

「幻滅しましたか?」

「いや、まったく、ますます好きになったよ」

「それなら、私と一緒にいてくれますよね?」

「だめだ、俺にはやらないといけないことがある、だから……ごめんな」


 魔王様は抱き着いていた私を引き離すと、何やら呪文を唱えた。

 魔王様の手から何かオーラのようなものが私に向けて放たれる。

 突然、私は強烈な眠気に襲われた。

 これは、たぶん、さっき食らった魔法の効果……、

 いけない、このままだと……魔王様が……私を置いて……。


「すまない、しばらく眠っていてくれ、だが安心してほしい、君が起きるころには、全て終わっているだろうから……」

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