第30話(最終回) 新たな冒険へ
「カルナリアさま!」
きびしい声が飛びました。
「あら、見つかっちゃった。やっぱりレントの目はごまかせないわね」
「おりてきてくださいませ! そのようなかっこうで、きのぼりなど!」
カラント王国の、みやこの、宮殿の、裏庭です。
枝を広くのばした木の上に、明るい色のドレスを着た女の子がいました。
「だって、つかれたんだもの。ずっとずっと、おべんきょう、かいぎ、しょるい、おべんきょう、かいぎ。息がつまってしんでしまうわ」
「みはりの目をぬすんで抜け出したと思ったら、こんなところで、そんなまねを!」
そしてレントは言いました。
「それが、女王さまのなさることですか!」
「はぁい」
くる、くる、くるとまわりながら、カルナリア姫――いえ、女王さまは、おりてきました。
「ああ、うわ、そんな、ひえっ! あぶない!」
レントばかりか、後を追ってきた
「王女の時はそんなに言われなかったのに、王さまになってしまうと、きゅうくつったらありゃしない」
「仕方ありません! 今や、カルナリアさまがゆいいつの、この国の王さまたる方なのですから!」
「レイマールお兄さまがご無事だったらよかったのに……」
第一王子ガルディスが起こしたむほんをしずめるために、たまたまおもむいていた隣の国から戻ってきた第二王子レイマールは、たくさんの騎士たちをあつめてガルディスとはげしく戦ったはてに、ガルディスと
他の王子さま、王女さまたちはすでにむほんで討たれてしまっており、残っていたのはカルナリアさまだけだったのです。
したがって、カルナリアさまは女王さまとなりました。
乱れたカラント王国をたてなおすのは、とてもたいへんです。
「ああ、まさか、女王さまが、このようなおてんばだったとは。いえあのとき、侯爵を投げられたときに気づいておくべきでした。エリーレアさまがおられた時は、あちらに目を引かれて、気づけなかったのですね」
「うふふ。わたくしとエリーは、とてもよく似ているのよ。だからあんなに気が合ったの」
「エリーレアさまがおられれば、姫さまいえ女王さまが逃げ出しても、すぐに捕まえることができましたでしょうに……」
レントはふと気がついてきょろきょろしました。
「そういえば、このところ、エリーレアさまをお見かけしませんね。どちらに? またふるさとにお戻りなのでしょうか?」
「いいえ」
カルナリアさまは言いました。
「エリーには、旅に出てもらっているの」
「旅、でございますか?」
「エリーの目は、わたくしの目だもの。女王になってしまって、この王宮を出るわけにはいかなくなったわたくしの代わりに、あちこちに行って、たくさんのものを見てきて、たくさんのことをしてきて、戻ってきてわたくしにたくさんお話をしてくれるように、お願いしたの」
カルナリアさまは頬に手をあて、どこかを歩いているだろう大好きな女騎士のことを思って、とても優しい顔をしました。
「まずは、助けてくださったのにお礼をいうこともできないままいなくなってしまわれた、『剣聖』フィン・シャンドレンさまを見つけて、わたくしからのお礼を伝えてってお願いしたわ。そのあとは、まあエリーのことだから、とにかく何か、とんでもないことをたくさんやって、大冒険をしてくるにちがいないわ。帰ってきたエリーから、その話を聞くのがとっても楽しみ!」
カルナリアさまは小さな花を
花びらがいちまい、かろやかに飛んで、風にのって空へ舞い上がってゆきました。
「……待っていますよ、わたくしの騎士」
「あら、迷ってしまったわ」
前にも後ろにも道のない、草むらと岩ばかりの広々とした場所で、エリーレアは困っていました。
旅じたくはしていますが、ひとりきりです。
「さて、どちらに行けば人がいるかしら。………………あら?」
かろやかな風が吹き、花びらがいちまい、エリーレアをみちびくように、ひら、ひらとある方向へ舞ってゆきました。
「あっちへ行ってみましょうか。きっと何かあるでしょう」
馬を進めながら、エリーレアは空を見上げました。
どこまでも広がる青空に、ふわふわ浮かぶ白い雲。
そのひとつが、大好きなひとの姿になったように思えました。
「『剣聖』さまを見つけたら、さらにたくさん旅をして、それから必ずあなたのところへ戻りますよ、カルナリアさま」
エリーレアはほほえんで、風の流れるままに旅を続けてゆくのでした。
そのゆくさきざきで、またしても色々なことがおき、エリーレアはたいへんな目にあうのですが、それはまた別なお話。
「エリーレアの冒険」 完
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あとがき
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これにて完結です。
読んでくださってありがとうございました。
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騎士令嬢エリーレアの冒険 シルバーブルーメ @SilberBlume
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