終幕 今宵もまた、万魔殿は《魔》を迎える

(終)万魔殿は――

 絶望は、誰の上にも降りかかり得る。それは明日とも知れぬ。今日かも知れぬ。

 突然にやってきて――生きるための活力を、無情に攫っていくのだ。


 頭はうなだれ足取りは虚ろ。当て所なく彷徨う姿は、まるで生ける屍のよう。

 死人のように沈む瞳には、何も見えない、何も映らない。


 その瞳に《生》への渇望は見当たらない。その世界に留まる《理由》は、どこにもない。

 生きるための大切な《何か》を見失ったその瞳に、異界への扉が映る。



 ――ようこそ、万魔殿へ――



 迎えるは、《理性》を無くした大男。


 案内人は、数え切れぬ時を万魔殿で過ごした、《命》知らずな名無しの少年。


 見目麗しき使用人の美女は、すれ違いざま《心》なき微笑を浮かべる。


 万魔殿の頂に君臨するは、《大悪魔》と蔑まれし、百面相のアスモデウス。


 そこに住まう黒猫は、《小悪魔》のように客人をからかう。



 そこで起こる出来事は、全てがデタラメで、けれどその全てが《自由》


 住まうも自由、帰るも自由。大切な《モノ》を取り戻し、出ていくのもいいだろう。


 夢幻のようなその場所で、束縛するものは何も無い。



 全てが全て、アナタの自由。彼らの自由。

 なにもかも、なにもかもを受け入れて、万魔殿は其処にある。


 幾万の、新たなる《魔》を迎え入れ、永久なる夜を越えながら――




 ――万魔殿は眠らない――


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万魔殿(パンデモニウム)は眠らない 初美陽一 @hatsumi_youichi

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