8-12 第八幕ラスト

「綺麗――」


 虹の架け橋を眺めていた彩音の視界が、微かに溢れる涙で滲む。


 ああ、もしかしたらあの日々は、本当に夢か幻だったのかもしれない。今にして思えば、何もかもが非現実的だったではないか。


 それこそ本当に、寝て起きてから朧気になっていく夢のように、記憶がいく。


 ああ、だとしても――それは、優しい夢だった、暖かい幻だった。


「……ふふっ」


 軽く笑った彩音が、スマートフォンをスカートのポケットへと入れ直す。


 ――と、その時、スカートへと仕舞いこんだスマートフォンに、何かがぶつかる。


「……? なにかしら……えっ?」


 スカートから出てきたのは――あの場所で少年から貰った、金色の美しい鍵だった。


 装飾のアメジストは、ああ、この場所では――青い空を反射するように、アクアマリンに変わっていた。透き通った藍緑色の輝きは、見ているだけで心が晴れ渡るようだ。


 あの不思議な日々は――夢なんかではなかった。彼らと出会ったのは、共に過ごした日々は、紛れもない真実だったのだ。


「………ありがとう」


 ほとんど無意識に、彩音の口から、漏れ出た言葉は。


 想いは、溢れて、止まることもなく――大切なに、届きますようにと。


「――ありがとう――本当に、ありがとう――」


 あの場所で彼から貰った、その小さな鍵を胸に抱き、彩音はひっそりと、こう誓う。




 ――ああ、万魔殿で過ごした時を――私は決して忘れないよ、と――

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