8-11

「大丈夫だよ」


 それこそが、真実の答えだった。


 ――とはいえ、心配事が全くない訳ではない。


「お父さんは……嫌がるかな。猫、嫌いみたいだし」


『……そのことなら、きっと平気だと思うわ』


「えっ、どういうこと?」


『だって、あの子の里親を探そうって言い出したのは、あの人なんだもの』


「……えっ?」


 そのことを、彩音は全く知らなかった。どうしてだろうと、父のことを疑問に思うより、何も知らなかった自分自身を恥じる。


 ああ――やはり自分の目は、今まで曇っていたのだ、と彩音は笑う。最も身近だった家族のことさえ、見えていなかったなんて。


『本当は秘密だったの。私がバラしちゃったの、お父さんには内緒よ』


「ふふっ……うん、わかった」


 それから、二、三言ほど言葉を交わし、彩音はスマートフォンの通話を切った。


 ――あの不思議な場所で、彩音は失った《希望》を取り戻した。


 いいや――それだけではない。あの場所で彩音は、目には見えない、数え切れないたくさんのモノを貰ったのだ。


「…………」


 後ろを、ゆっくりと振り向いてみる。


 万魔殿への扉は――もう、どこにもない。


 だけど、その向こう側――雨上がりの空には――


「……あっ」


 ――鮮やかな虹の橋が、架かっていた。

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