第04話:お風呂のお時間


「お義兄様、お風呂の湯加減はいかがですか?」


 お風呂場の擦りガラスドア越しに月が尋ねてきた。


「少しぬるめのお湯に長く浸かるのが健康に良いそうです。お義兄様の健康を考えて絶妙な温度をお湯を張れるように精進しますので、気になることがあれば今後の参考のためにルナに教えてくださいね」


「ところでお義兄様、ひとつお願いがあるのですが、ルナにお義兄様のお背中を流させてほしいのです。日頃の感謝とねぎらいを込めて背中をゴシゴシと洗わせていただけると嬉しいです。いかがでしょうか? ……よろしいのですか? ありがとうございます!」


「それでは失礼しますね」


 擦りガラスのドアを開けてルナがお風呂場に入ってきた。


「ふふふっ。濡れても良いように水着を着てきました。ほらほら、旧デザインのスクール水着ですよ。ルナの調べでは、お義兄様が94%の確率で旧デザインのスクール水着をお好きだと調査結果がでております。ふふっ、どうですか、似合っていますか?」


「それに、安心して欲しいのですが、この水着はただの水着のように見えてちゃんと武器を隠し持っております。ですので、いつお義兄様をたぶらかそうと沢山の豚どもがやってこようと、いとも容易くジェノサイドできるのです」


「ささっ、それではお背中をお流しいたしますので、お手数ですが湯船から上がり洗い場の方へいらしていただけますか?」


 僕は、タオルで前を隠しながら湯船を上がると、ルナに背中を向けるようにして風呂椅子に腰をかけた。


「では、誠心誠意たっぷりと愛情をこめてお背中をお流しいたしますね」


 スポンジの上下に合わせて月が「ゴシ、ゴシ」と声をあげる。


「いかがですか、お義兄様? 痒いところはありませんか? 気になるところはありませんか? ……ふふっ、これではまるで美容室の洗髪みたいですね」


「それにしてもお義兄様の背中は広いですね。ルナの背中の倍以上はありそうです。なんだかキャンバスみたいに見えてきました。泡で絵をかいてみても良いですか?」


 僕の返事を聞く前に、月は鼻歌を歌いながら僕の背中に絵を描き始めた。


「ここをこうしてっと。描けました。さて、お義兄様、急ですがクイズです。ルナがお義兄様の背中に描いた絵は何の絵でしょうか? シンキングターイム。……10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……0。さて、お義兄様のご回答は? ……ブッブー。不正解です。正解は、消音器を付けたブローニング・バックマークのキャンパーモデルです。アメリカのブローニングアームズ社製の自動拳銃なのです。……え? 難しすぎましたか? むむぅ。それでは、次は絵ではなくて文字にしましょうか」


 再びルカが鼻歌交じりに僕の背中に何かを書いていく。


「……はい、書けました。今度はなんて書いたか分かりましたか? 難しかったですか? 思っていたよりも長文でしたか? ヒントですか? そうですね、答えは16文字の言葉です。それでは再びシンキングターイム。……10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……0。さて、お義兄様のご回答は? ……ブッブー。不正解です。正解は――」


 そこで月は僕の耳元で囁くように言う。


「『ルナはお義兄様のことが大好きです』と書きました。お義兄様の背中も大きいですが、ルナのお義兄様に対する愛情は、お義兄様の背中よりももっともーっと何倍も大きいのです。……ふふっ、照れてますか? そういうお義兄様も可愛くて大好きですよ。お義兄様もルナのこと好きですか?」

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