第03話:テレビゲームのお時間

「お義兄様、この後、お時間宜しいですか? もしお義兄様がお疲れでなくて、もしお嫌でなければで良いのですが、ルナと一緒にテレビゲームというものをやりませんか?」


「テレビやスマートフォンのゲームに対して健康被害などのネガティブなイメージを持つ方もいるそうですが、容量・用法を守ってゲームで遊ぶ分には気分転換の効果があり、ストレス解消にもつながるそうです。お義兄様はお体もお疲れのようですが、心の方もお疲れのように見えます。ルナと一緒にゲームをすることでお義兄様の心を少しでも癒すことができたらと思うのですが、いかがですか?」


「実は、私も前々からテレビゲームをやってみたいとは思っていたのですが、なかなか機会に恵まれず、できればこの機会にお義兄様と一緒にテレビゲームを出来たらと思ったのですが、ダメですか?」


「……やってもいい? わあ、ありがとうございます! えへへ、嬉しいです」


 テレビの前に座る月。肩を並べるようにして座る僕。


「それでは早速遊びたいと思うのですが……、これってどうやって遊ぶものなのでしょうか? お恥ずかしながら、こういった殺し屋に関係のない類の機械にはあまり触ったことが無く、どのように遊べばよいのか分からないのです。お手数ですが、お義兄様に教えて欲しいです」


「……ふむふむ、ほうほう、なるほどなるほど。要はこのキャラクターを動かして、敵をジェノサイドすれば良いんですね」


「このコントローラーのこのボタンを押すとテレビの中でキャラクターがこう動いて、こっちのボタンを押すとキャラクターがこう動くんですね」


「えいっ」とか「とーっ」とか小さく声を上げながらゲームのコントローラーを動かす月。


「……むぅ、なんですか。ルナのことを見て笑っていましたよね。……え、画面の中のキャラクターに合わせて、ルナの体も動いちゃっているんですか? むむぅ、本当ですか? 恥ずかしいです」


「……そうは言われても、ルナも動かしたくて動かしている訳じゃないですから、そんな簡単に直せませんよぅ。……そうだ、良いことを思いつきました」


 月は立ち上がると僕の膝の上に座り込んだ。


「こうしてお義兄様の膝の上に座ってゲームをすれば解決です。もしまたルナが体を動かそうとしたら、お義兄様がルナのことをギュッと抱きしめてくださいね。そうすれば万事解決なのです」


「え、そんなの上手くいくはずがない、ですか? そんなことないですよ。絶対に上手くいきます。……そんなに言うのなら、試してみましょう。論より証拠です。これからルナが声を上げて体を動かしますので、その度にお義兄様はルナが動かないようにギュッと抱きしめてください。それではいきますね。よーい、はじめっ」


「えいっ」


 ぎゅっ。


「とーっ」


 ぎゅっ。


「やーっ」


 ぎゅっ。


「それっ」


 ぎゅっ。


「ほらほら、お義兄様。なかなか良い感じだと思いませんか?」


「……ルナが声をあげるたびに抱きしめるのではなくて、ずっと抱きしめていた方が効率が良いのではないか……ですか? そ、そ、それは、お義兄様はルナのことをずっと抱きしめていたいということですか? お義兄様がしたいのであれば、ルナは一向にかまわないというかむしろ嬉しいというか……。むぅ、ダメですか」


 ルナは少し落胆した様子で「残念です」と呟いてから、気を取り直すように続ける。


「それでは、当初の計画通り、ルナが声をあげて体を動かそうとする度に、お義兄様がルナを抱きしめてルナの体が動くのを阻止してください」


 そう言って、ルナはゲームを再開した。相変わらず「えいっ」とか「とーっ」とか声をあげながら体を飛び跳ねさせている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る