第02話:お食事のお時間
僕が食卓に着くと、月が僕の目の前に料理を盛りつけた皿を並べてくれる。
「お待たせしました。今日のメインディッシュはルナ特製のロールキャベツです」
月は食卓を挟んだ向こう側ではなく、当たり前のように僕の隣の椅子に座った。
「なんですか、その『なんで当たり前のように隣に座るんだろう?』みたいな顔は。ルナが隣に座るのは当然でしょう。お義兄様はこれから熱々のロールキャベツをお召し上がりになるのです。ルナがお側にいなければ、もしもロールキャベツの熱々の汁が跳ねてお義兄様を襲った場合にとっさにお守りすることができないのです。ですから、こうしてすぐ隣で、すぐ側で、お義兄様のお食事を見守るのは自明の理なのです」
そういって月はさらに僕に密着する。
「こんなに近寄られたらご飯を食べづらいですか? ふふっ。しようがないですねー。では、僭越ながらルナがお食事のお手伝いをさせていただきますね。では、お義兄様のナイフとフォークをお借りして。まずはロールキャベツからで良いですか?」
「それでは、ロールキャベツを一口サイズに切り分けてっと。ほらほら見てください、切り口から肉汁がジュワーっと溢れ出してますよ。お義兄様がお口を火傷してしまわないように冷ましていきますね」
フォークで刺した一切れのロールキャベツに、月がフーフーと息を吹きかける。
「お待たせいたしました。それではお義兄様、はい、お口をアーン……って、なんでお口を開けてくれないんですか? ……恥ずかしい? ふふっ。そういうお義兄様も可愛らしくて大好きですよ」
「大丈夫です、ここにはルナたちふたりきりですから。誰も見ていませんし、誰も聞いていません。ルナの仕掛けたもの以外に、隠しカメラも盗聴器も設置されていないことは確認済みです。ほら、恥ずかしがる必要なんてないでしょう?」
「それでは気を取り直して、はい、お口をアーン……って、もう。どうしてお口を開けてくれないんですか? ……え? 聞き捨てならないことを聞いた? ルナが隠しカメラや盗聴器を設置したか……ですか? え、えーっと、あ、あははー。あ……明日天気が良いと嬉しいですね」
「そ、そんなことより、このままだとせっかく作った料理が冷めてしまいます。話はあとで伺いますから、今は観念してこのロールキャベツを食べてください。はい、お口をアーン!」
押し切られるままに月が差し出すロールキャベツを口に含んで咀嚼する。
「美味しいですか? ……えへへ、お口に合ったみたいで良かったです。お義兄様に喜んでもらえるように、沢山たーくさん愛情をこめて作った甲斐がありました。それじゃ、つぎはこっちのマッシュポテトも食べてみてください。はい、お口をアーン」
僕はしばらく月のされるがままに何度もアーンを繰り返し、なんとか食事を平らげる。
「ふふっ。完食御礼申し上げます。お粗末様でした。それでは、パパーッと洗い物を片付けてしまいますので、終わったらふたりでゲームでも――。……え、ルナが設置した隠しカメラと盗聴器の件ですか? むぅ、その話はもう良いじゃないですか」
「……え、ちゃんと説明しないとお義兄様に怒られる? むむぅ……。仕方がないですね、それでは説明いたします」
月が無念そうに答えた。
「ルナはこんな風ですが、お義兄様に救っていただくまでは裏の世界で名を知られた殺し屋でした。星の数ほど人から恨みを買っているでしょう。ですから、ルナの素性が知られてしまえば、ルナ自身だけでなくお義兄様にも危険が及ぶ可能性があります。隠しカメラも盗聴器も、そんな危機が迫った時の備えだと考えてください」
「……それって具体的にどんな危機なのか、ですか? それはもちろん、お義兄様がルナ以外の女を連れ込んだりとか、お義兄様がルナ以外の女と電話したりとか……って、なんですか、そのあきれ顔は? ルナにとっては重大で苛烈な危機で、まぎれもないジェノサイド案件なのですよっ!」
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