第07話:添い寝のお時間

「夜も更けてきましたし、そろそろお休みしましょう。今日は特別にルナが添い寝をして差し上げます」


 促されるままに僕が布団に潜り込むと、ルナが部屋の電気を消してから僕の布団に潜り込んできた。

 月の囁く声が僕に届く。


「こんなに顔が近いと少しだけ恥ずかしいです。ルナも目を閉じるので、お義兄様も目を閉じてもらっても良いですか?」


「……重ね重ねのお願いで申し訳ないのですが、ルナのこと、ギュッと抱きしめてもらっても良いですか? ……ありがとうございます。失礼してルナもお義兄様のことをギュッとさせてもらいますね」


「お義兄様のお体、温かいですね。心臓の音もトクン、トクンと聞こえる気がします」


「……聞いても良いですか? 今日のルナはいかがでしたか? お義兄様に喜んでもらえるように精一杯頑張ってみましたが、少しはお義兄様のお役に立てましたか?」


「お義兄様はご存じの通り、ルナは元殺し屋です。誰かを殺すことはあっても、誰かを大切に思ったり守りたいと思うことはありませんでした。お義兄様に救ってもらうまでは」


「殺し屋の世界で居場所を失ったルナに、お義兄様は新しい居場所を作ってくださいました。その新しい居場所を失ってしまうのがルナは怖いのです」


「ルナは、ルナが世間一般から少しズレているのは自覚しています。そのせいでお義兄様に捨てられてしまわないか心配なのです」


「……ルナが少しズレているのもルナの魅力ですか? ……ふぇ、そんなこと言われると、すごく嬉しいのに、何だか涙が出てきてしまいそうになります。少しだけお義兄様の胸をお貸しください」


 ルナが僕の胸に顔をうずめる。何度か鼻をすするような音が聞こえた。


「ありがとうございます、お義兄様。ルナ、これからもお義兄様に嫌われないように色々なことを頑張りますね。 お料理も、ゲームも、お背中流しも、マッサージも、耳かきも。……え? ジェノサイドは頑張らないで欲しい? それはお義兄様の心がけ次第だと思うのです。ふふっ」


「お義兄様の心臓、すごくドキドキしています。……ルナの心臓の音もお義兄様に聞こえますか? 実はルナも心臓がすごくドキドキしています。これではお互い眠れそうもないですね」


「……深呼吸してみましょうか? すこしはドキドキが収まるかもしれません」


 月が深呼吸を始める。僕もそれに合わせるようにして呼吸を整える。


「ふぇ、ダメです。深呼吸の度にお義兄様の香りを吸い込んでしまって、ドキドキが収まりません。なんでお義兄様はそんなに平気そうにしていられるのですか? 不公平です」


「……眠るときは楽しいことを考えると良いのですか? なるほど」


「今日は初めての体験ばかりですごく楽しかったですよ。お義兄様はいかがでしたか? ……ふふっ、お義兄様も同じ気持ちだったようで嬉しいです」


「次は、お家の中だけじゃなくて、外でもお義兄様と色々なことがしてみたいです。そ、その……、デ、デートというやつというかなんというか……。ダメ、でしょうか? ……オッケーですか? やった、嬉しいです!」


「ルナはこれからもお義兄様とずっと一緒ですからね。そしてこれからもたくさんの楽しいことを一緒に経験していきましょう。ふふっ、楽しみなことがたくさんあり過ぎて考えが追い付かないです」


「……お義兄様の言う通り、楽しいことを考えていたら、段々と眠くなってきました。また明日もルナは、おはようから、おやすみまで、お義兄様のことが大好きです……」


 そこで月は眠りに落ちて寝息を立て始める。

 月の呼吸の音を聞きながら僕も眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元殺し屋の女の子が義妹を自称する話 ペーンネームはまだ無い @rice-steamer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ