こちら復興課

浅賀ソルト

こちら復興課

補給物資の水を盗んだ奴を捕まえたと聞いて俺は現地に出た。コソ泥なら身内に任せるところだが、裏切り者の処分となるとそうはいかない。俺の手でやっておかないと真似する奴が出てくる。

俺たちが利用しているビルの前に車が止まると、手下がドアを開けた。俺は車を下り、手下たちを連れて中に入った。まだ昼間だった。

ビルの中にいた手下はこっちですとも言わずにただ身振りで奥の部屋を案内した。媚びた挨拶が嫌いでいつも俺が不機嫌になるので、いつのまにかうちはこんな感じになった。快適でよい。

部屋の中にはすでに縛られて痛めつけられたオーヤが鼻血を流して転がっていた。

オーヤは俺を見ると虚ろな目で俺を見た。

「誤解です。俺は裏切るつもりなんてありません。ただちょっと金が欲しかったんです」

俺は何も言わずに腹を蹴り、オーヤを黙らせた。周りにいた四人の手下たちが身を固くしたのが分かった。

部屋の外にも何人か部下がいるはずだった。そいつらもこの音は聞こえているはずだ。

もう何発か蹴り、疲れてきたので何か棒を探した。瓦礫やパイプはまだまだそこらへんに沢山ある。

パイプを手に取ると、オーヤが怯える様子を黙って見ていた。

「う、う」めそめそ泣き始めた。

「俺は裏切り者を許さない」

昔、まだまだ俺も若くてナメられがちだった頃、こんな風にとにかく徹底的に一人を痛めつけたことがあった。そんな必要はなかったが、効果は絶大で、組織は一気に引き締まった。

今はそんなことをする必要はない。足を折って逃げられないようにしたら、臓器売買の下取りに出すだけで済む。

俺は思い切りパイプをオーヤの足に振り下ろした。

「あああああああ!」

うるせえと思ったが、こういう悲鳴には効果もあるので、ビルの中で響くに任せた。街の遠くまで届いた。

反対側にまわりこむこともなく、そのまま次の足も折った。

「うーーーーっ。うーーーーーっ」オーヤは涎と鼻水を垂らしながら声にならない声を漏らしていた。

「よし。運んでいけ」

手下は猿ぐつわをかませて運び出した。車がどこかへ走っていった。

「で、あいつの水を買い取った奴はどこか分かっているのか?」

「はい。係長。アフメトって男です。この辺で若い者をまとめてきてます」

「取り返してこい。倍の値段で買い取らせてもいい」

「はい。分かりました」

会計係が四人ほどの部下を連れて出ていった。

水を持ってるだけじゃ意味がない。独占した上で、ちゃんと各所に卸すことで経済が回る。大事な仕事だ。

俺は市役所に戻り、今後の援助物資をチェックした。

課長からの連絡が直接スマホに入る。

「はい、課長」

「マザール、援助物資の割り当てが変更になりそうだ」

「え? どっちに流れるんです?」

「アンタキヤだ」

畜生。さすがに奪え返せない。アンタキヤじゃ無理だ。「なるほど。分かりました」

「いや、すぐに諦めるな」

「え?」

「最近、内部で分裂が広がってる。デマを流せばまだ取り返せるぞ」

これはデマを流して取り返せという命令の語尾変化である。「分かりました。さすがです」

「期待しているぞ、マザール」

「はい」

通話を切ると俺は給水器の水を一気に飲んだ。はー、染みる。

再び外に出る。まだ上下水道が直らず、あちこちで糞尿の臭いがする。

アンタキヤの補給物資を奪い、分裂している組織の一方になすりつければまだまだうちの復興の足掛かりになる。

水も電気もコンクリートも足りない。まったく復興事業は大変だぜ。

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