第12話 良い話を聞いた! 

「『三代美姫』に初日から……?」


 入学初日って……入学式からってことだよな。どんなことしたら、そんなに早く「三大美姫」に名を連ねることになるんだ。


「ほら、君も耳にしなかったかい? 入学してから初めの頃『A練の美女』を探せって騒がしかったでしょ?」


「あぁ! あれか」


 たしか、俺がまだ「本当に美形しかいないじゃん!」って感嘆してた入学まもない日だったか、生徒たちが「始業式の美女!」とか言って、血眼になりながら走り回ってたんだよな。


 顔がいいといっても、あの表情で人探しは流石に怖かったな。行動の狂気をあの顔でも隠しきれてなかった。


 俺はイケメンたちの狂気に染まった顔を思い出し、軽く身震いする。


「明智原では顔が整っている人が多いけれど、彼女は別格。美しすぎて、彼女を見たものは一瞬でとりこになってしまい、彼女に尽くすようになる」


「……へ、へぇ」


 顔が良すぎて、ひと目見ただけで尽くすようになってしまう……めちゃくちゃ面白いじゃないか! 少しは盛っているだろうが、それほどの美少女ということは間違いない。


 明智原……美形しか入れない学校でも別格の美少女とフツメンのラブアンドコメディ……いいね。


「どこにいるんだ、そのヒロインは! 教えてくれ!」


 俺が前のめりに右京に聞くと、右京は困ったように言った。


「ひ、ヒロイン?わからないけど。ごめん……教えるのは無理かな」


「え、なんで? ――はっ!」


 もしかして、右京君もその「消失の美姫」に惚れてる……?  ま、まずい。この神聖イケメン相手だと俺も厳しくなってしまうぞ……


「『消失の』って言ったでしょ。彼女、入学式以来、学校に姿を見せていないんだ」


 全然違った、早とちり。「消失』のこと、すっぽりと頭の中から抜けちゃってたな。いやーうっかりうっかり。まぁでもよかった。右京が敵にならなくて。 


「学校に在学しているのかすら怪しい人だから、紹介できないんだよね。ごめんね」


「そういうことならしょうがないな」


 ……ん? しかし、


 俺の中に一つの疑問が生じる。


 入学式以来、来ていないって。相当な時間、学校に通ってないよな。それなのにどうして……こういうのは聞いたほうがはやいな。


「そいつ、入学式以降、学校に来てないんだろう? 生徒会長になりたいかなんてわかるわけないのに、どうして候補者として名が出てるんだ?」


 俺がそう聞くと、右京は少し考え込んで「これは話していいよね」と小声で呟くと、


「まずね生徒会長に立候補するには二つの物がいるんだよ。一つ目が先生の認可、これは当たり前として。もう一つが。要するに、生徒がその人を応援するよって言う意思表示になるもののこと。まず、それぞれの学年で候補者が選出される第一選挙では、それが最低三十枚いるんだけど……」


 一クラス分の票か……普通に大変そうだな。


「『消失の美姫』はそれを持っている。」


「え、百枚?!」

 

「ははっ、生徒会長の第一選挙としては異例だよね」


 百枚って言ったら、二学年の三分の一はあるじゃないか。学校にいないも同じなのに……そこまでの美女なのか?! 


 俺があまりの数字に驚愕きょうがくしていると、右京は俺の顔を見て、苦笑い気味に理由を説明し出した。


「彼女には熱心なファンたちがいてね。名前は忘れたけどファンクラブがあって、その部員たちはもっぱら入学式をA練でした人たちが入ってるんだ」


「A練……? 俺はB練でしたが、それが何か……あっ」


 たしか「A練の美女」って呼ばれて探されてたんだったよな。それで『消失の美姫』は始業式にはいた。だとすると……


「始業式の日、A練にその『消失の美姫』がいたってことか」


「そういうこと。A練で『消失の美姫』を見た生徒ら全員が彼女のファンになってしまったんだ。そして、A練で始業式をしていた生徒数は百人」


『消失の美姫』のファンクラブ会員数も百人。要するに、A練で彼女と一緒にいた生徒全員が……


「そいつら全員が、未だに始業式以外来ていない『消失の美姫』に生徒票をやってるのか?」


 右京は無言でこくりと頷いた。


 いやいや、マジか。さっきの″ひと目見ただけで″っていうの少しも盛ってないのか。……そこまで行くと流石に怖いな。


 一回しか見ていない相手、しかも一年間ずっと見ることすらできてないのに、彼女に尽くすって正気じゃない。


 もうそこまで行くと、『消失の美姫』のせいももちろんあるんだろうけども、生徒側にも問題がある気がする……


「そうなってくると、だいぶぶっちぎりなんじゃないか? その『消失の美姫』さんが」


「いや、そうでもない」


「そうなのか? 百票だぞ? 他の有力候補が四人だとして一人最低三十票だから、合計百二十は既になくなっている。残りはたったの八十枚。ほぼ全部独占しないと『消失の美姫』には勝てないだろ」


「なにも生徒票がすべてじゃないんだ。生徒票以外にももう一つ、先生の認可が必要だからね。ほぼ学校に来ていない彼女に先生が認可をおろすと思うかい?」


「それは……たしかに」


 入学式以来、学校に来ていないやつを多忙で責任重大な″生徒会長″なんて任せられるわけない……か。


 すると、右京がパンっと手を叩いて、


「はい! これで生徒会の話は終わり。ほとんど『消失の美姫』の話だけだったけど……どう? 参考になった?」


「あぁ、すげえ参考になった。ありがとう」


 俺は右京に感謝を述べると、教えてもらった『消失の美姫』情報を手帳に書き記していった。


『王様』『才知姫』については、教室でも生徒同士の話題でよく出てくるからな。信憑性はないとしても情報量には事欠かなかったが、『消失の美姫』の情報、これは聞いたことないものだらけだった。


 おまけに、生徒会狙ってる『王子様』からのソースだ。ライバルである人の情報をあやまるはずもなし、信憑性しんぴょうせいは高いと言えるだろう。


 ラブコメのような恋をするには、兎にも角にもまず情報。これがなければ達成など不可能だからな。へへ。話を聞いてもっと会いたくなったぜ。『消失の美姫』に!


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美形しか入れない学校になぜか入れた俺。ブス認定されて冷遇されてますが、どうにかラブコメをしてみせます。 わをん @asahaiiyo

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