潮騒の音、星空の彼方。全てに優しい愛はもういらない

ミステリー仕立て。
世知辛い世である。
男女の考え方の違いがよく書けている。

「一人の女性が、その細い腕には不相応に思われる大きめのキャリーケースを転がしながら電車を降りていた」とあり、のちに崖で出会うときは「死に装束のつもりなのか彼女は白いワンピースを着ていた」と印象に残る姿をしている。
でも電車を降りたときは「旅行者のような格好で降り立った女性」とある。
まったく服装が違うのだ。
ということは、彼女は着替えたということになる。
彼氏を殺してきた彼女は、目立たないよう旅行者の格好してやってきて、自殺の名所を訪れる際は、ふさわしい白装束に似た白いワンピースに着替えて崖にきた。
実に用意周到である。

女性は実にたくましい。
自分を振った彼氏を殺して捨てて、今度こそいい男と巡り合って新たな人生を生きようとしているのだろう。
対して主人公である男は、彼女に振られた悲しみから自殺をしようと名所までやってきた。

振った彼女も、目の前にいる彼女と同じような考え方、生き方をしていたはず。
ひょっとしたら、殺された男のように暴力を振るうこともあったかもしれない。
癒やすのは無理と思い、生きる気力も失ったからそのまま自殺したのかしらん。
もし前の彼女に暴力をふるっていたのなら、懺悔を込めての自殺だったかもしれない。