1.彼女と出会うまで


彼女と仲良くなれたのは、ほんの偶然であった。


 小学2年生まで宮城県に住んでいた私は、父の仕事がうまくいかず、家計が苦しくなったのを原因に母の実家である新潟県に引越し、小学3年生から転校生になった。転入先は1学年2組しかない程の小さな小学校だった。3年2組。私が自己紹介として教壇に立った時、いままで転校生なんて滅多にいなかったのだろう、先程私を職員室から教室まで先導した先生を含めて、教室内にいる全員が好奇な目で私を見つめていた。震える声で名乗ったのを覚えている。そんな雰囲気の中、私は晴れて3年2組の仲間入りをしたのであった。

 転入後、私の学校生活は実に順風満帆であった。クラスの全員とは行かずとも、5、6人の仲良しグループに入れたのだ。充実した日々、優しく愉快な仲間に囲まれて明日が待ちきれない、そんな毎日。


 問題が起こったのは、5年生に進級の際。なぜか、本当にどうしてなのか、誰かしらの思惑が働いた結果なのか、はたまた偶然なのか、3、4年生で仲の良かった"私以外"のメンバーが"全員"同じクラスになったのだ。私の友好関係はリセットされてしまった。転校を含めれば二度目である。

 それから、私の学校生活は一転した。小学3年生以前の友好関係がない私は、本当にまっさらな状態からのスタートで、新しい絆を結ばなければならなかった。しかし、小学5年生、10歳という年齢はたいへん多感な時期であり、私は、皆の輪に入ろうとそれなりに努力をしたつもりだったが、後から現れた余所者である私は受け入れてもらえなかったのだ。まあ、もしかしたら私の努力不足だったのかもしれないが。

 誰も友達がいない、独りぼっち。そして時々イジメのような嫌がらせや陰口を言われる、そんな、実によくある、そして、つまらない毎日を送っていた頃、転機は訪れたのである。先生との二者面談だ。放課後に実施されるそれは、成績や友人関係含め、近況を報告するものである。二者面談を受ける生徒は、実施される教室の前で名簿順に待機することになっていた。


 その時である、彼女と出会ったのは。


 彼女の苗字の頭文字が「さ」で、私の頭文字が「す」だったため、偶然にも名簿が隣同士だったのである(「し」の生徒はいなかった)。待機している間、彼女とは色々な話をした。「えっと、○○さんだよね?」から始まり、好きな趣味・特技、キャラクターなど、たいへん盛り上がったのである。初めて話したとは思えない程に。

 ふたりの二者面談が終わった後、彼女は言ってくれたのだ。




「先生に『仲良い友達はいますか?』って訊かれたとき、『私ちゃんです』って言ったよ」




「私も」

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