3.不安、後悔

 しかし、楽しい時間を続けるのには努力が必要なのである。そして、3人グループというのは調和が難しい。彼女とMちゃんの仲が深まったのだ。喜ぶべきことなのに、私はひとり取り残された不安感に苛まれ、二人と共に行動をしていても常に孤独が拭えなくなってしまった。それから私は、「このまま彼女に依存をしてはいけない」という考えに至った。そして、よくわからない冗談などを口走ってしまう、道化を演じるようになってしまったのだ。


 その頃からである。私が執拗に彼女に「私の事、好き?」と尋ねるようになってしまったのは。冗談を言えるようになってから、彼女の他にも友達ができ、少しだけ友好関係を広げることができた。しかし本当は、彼女にまた私を、私だけを見て欲しかったのである。


 ある日の放課後、誰もいない教室。私は、またいつものように彼女に言った。不安で胸が押しつぶされそうだったから。



「私の事、好き?」



 普段はその言葉を聞いても笑って受け流していた彼女だったのだが、幾度も同じ言葉を投げかけられ、うんざりしていたのだろう。私の目をしっかりと見てこう言ったのだ。



「ごめん。正直に言うね。今の私ちゃんは嫌い」



 ショックだった。私は、そっか、としか言えずに教室を去ることしかできなかった。私のどこが嫌いなのか、一人で何度も考えた。何が駄目だったのだろう。道化を演じていた事?メンタル不調を理由に学校を休みがちになった事?それとも、私の事を好きかどうかをしつこく訊き過ぎた事?三人の輪から外れそうな事?私は、私は、どうすれば。


 私には勇気がなく、「嫌い」と言われた事実を有耶無耶にしてしまった。


 それから私の精神面は更に悪化していった。手首に赤い線を引き、家の薬箱を漁っては手当たり次第に飲み込む。それを隠しながら道化を演じて、週に2日は学校を休んだ。そのような精神状態に陥っている事は、最愛であった筈の彼女にも言えなかったのだ。

 そんなしこりを残したままのある日、私は彼女の前でぽつりと呟いた。



「なんでも話せる人がいない」



彼女は、そっか、と一言だけ残して、去ってしまった。以前見たことがある光景。放課後、ポツンとひとり残された私。


 数日後、私はひとりの男に呼び出された。彼女が片思いしている"彼"だ。片思いといっても、お互いに告白をする勇気がないだけで、両思いであった。私が周りに言い触らすまでもなく、歯痒い思いをしながらも、早く付き合っちゃえば良いのに、とこっそり茶化す程に。

 彼はなんでもないふうに私に聞いた。



「彼女ちゃんのこと、どう思ってるの?」



 私は、どうしてこんなことを聞かれたのかが理解できなかったし、少しだけ憤りを覚えた。何故、この男にそんなこと話す必要があるのかと。



「……どうって?大切な友達だと思っているよ」



 平静を装いながら、彼の目を見つめて言った筈なのに、彼は蛇のように目付きを鋭くして「本当に?」と再度尋ねた。本当だよ、と答えることしかできなかった。

 彼の言い分はこうである。私が「なんでも話せる人がいない」と呟いたその日、彼女が静かに一人涙を流しているところを目撃したそうだ。そこで、彼女の話を聞いたのち、私に真意を確かめようと呼び出したのだった。こんなに友達思いで、素敵で、真っ直ぐな子に何を言っているんだろう、と。もし、私が不誠実な態度を取ったら、殴ろうと思ったとも。私は、脳内で浮かんだ、吐き出したかったぐちゃぐちゃとした感情・言葉を全て呑み込み、「そんな訳ないじゃん」としか言えなかったのだ。私の、彼女に対する誰にも触れられたくない部分、想いを全て否定された気分だった。


 それから、私は、ここ最近の出来事を全て、何もかも無かった事にして、彼女とMちゃん3人で仲良くする事を選んだのだった。ただ、道化を辞めることは出来なかった。



 私達は別々の高校に進学した。彼女は推薦で地元ではそこそこ優秀だとされている学校に進学した。結局、彼女と陸上部の彼は結ばれる事はなかった。彼女は中学校在籍時代、卒業間際に「彼への想いは恋愛感情ではなく、憧れだった」と私にこっそり教えてくれたのだ。

 ただ、後で知ったのは、陸上部の彼は彼女を追って同じ学校に進学したとの事であった。



 それからは、私と彼女の関係は少し疎遠になり、時々連絡を取り合う仲程度の仲になっていった。

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