4.2月14日

 高校1年生の冬、2月14日。バレンタインデーの日。クラスのみんなに渾身の手作りチョコレートを振る舞い、少し軽くなった学生鞄を持って、今日は楽しかったな、なんて軽快な足取りで下校していた時。突然、携帯電話の呼び出し音が騒がしくひっきりなしに鳴り響き、大量のメールが届いたのだ。メールの内容は、何故か私を心配をするものばかりであった。何が何だか分からなくて慌てながらも、母親からの電話に出てみると、酷く興奮したような声で



「彼女ちゃんが…!!Yahoo!ニュース見て!」






 彼女は死んだ。




 殺されたのだ。陸上部の彼に。




 当時、進学した彼女は彼への想いを振り切り、初めての彼氏ができていた。中学生時代の彼女はとびきりな容姿端麗ではあったものの、ファッションなどのお洒落には疎く、少年のようなショートカットで、いつもボーイッシュな服装を好んでいた。しかし、進学してからというものの、彼氏ができたのをきっかけに、髪を伸ばし、あれほど嫌っていたスカートを履き、どんどん綺麗になっていったのだろう。陸上部の彼はそれを側で見ていたのだ。とてもじゃないが耐えられなかった。


 バレンタインデーの日に何も知らない彼女を呼び出したのち、包丁を使い、彼女に30数箇所以上もの傷を負わせ、自らの腹を刺し、彼女と共に教室の窓から飛び降りたのであった。




 結果。彼女は死に、彼は意識不明の重体となった。






 バレンタインデーになると今でも思い出す。彼女との楽しかった出来事、「嫌い」と言った唇、彼の冷たい目線。葬式で異常に綺麗にされた顔、砕けた顎を隠す白いマスク。






 彼女は最期まで私の事が嫌いだったのだろうか。

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