第5話

 目を覚ますと、窓の外がうっすらと明るくなってきていた。

 隣の高田の可愛い寝顔を見つめる。

 起こさないように、そっと動いて、ゴミ箱のゴムの残骸を見る。

 ――何回したかな。

 初めてそれを覚えたときのように、快楽に押し寄せられては、それにあらがうことができずに、抱いた。

 それでも、高田は応えてくれる。

 泣きそうに頭を横に振ったり、嫌がってみせる仕草に、動きを緩めると、「もっと」という言葉が聞こえてバカみたいに動き続けた。

 ――好きだ。

 この気持ちを、どうしたら伝わるのか、それを言うだけじゃなくて、もっと伝わる方法を。

 静かに寝息を立てる恋人の体をぎゅっと抱きしめた。

「苦しいです……この絶倫が」

「ごめん」そう言って、啄むように、口付ける。

「しつこい」

「ごめん」それでも止められない。

 高田の指が唇に触れて制止された。

「いつから、俺のこと好きになったの?」

「それは、撮影スタジオで怒られた時かな」

「なにそれ? Mかよ」

 笑っている高田を抱き寄せ、頬や首に口付ける。

 ――もっと昔にも、怒られたような気がする。

 何か思い出せそうな……。なんだっただろう……。


 ◇ ◇ ◇


 営業部とデザイン部では、階も違うが、ほとんど仕事で絡むこともないので、ほぼ高田と会うことはない。

 部長から、デザイン部に届けてくれ。と後輩が受け取った書類を「俺が行く」と横取りしデザイン部を訪れた。

 外では毎日のように会っているが、社内にいる高田は、凛々しくて格好良い。

 心が躍るというのは、こういうことか。

 足元軽く、1つ上のフロアー目指して階段を駆け上った。

「失礼します」声をかけてはいる。

 席に高田の姿はなかった。

 フロアーを見渡しても居ない。

 小さなため息が漏れると、他の社員が、声をかけてきた。

 仕方なしに、部長からの書類を渡す。

 フロアーから出る前に、高田の席の前を通って出入口に向かうこととした。

 机の上は、デスクトップのパソコンのみ。綺麗に片づけられている。

 パソコン画面に少し隠れたように写真が置かれているのを見つけた。

 ――入社式の同期と社長が写っている写真。

 固い表情の俺と高田は薄っすら微笑んでいる。

 

 入社式、自信をもって自己紹介の挨拶をした後、先輩から、「図体でかくて、使い物にならなかったら目立つぞ」と揶揄からかわれた。

 その言葉に萎縮して、ぼうっと突っ立ていたら、高田から「邪魔」と言われて、場所をどかされた。

 刺すように睨まれたが、次の瞬間、みんなの前に立った彼は、表情や姿勢が洗練されていて、皆を虜にしているように見えた。

 同じくらいの年齢で、臆することなく自分をアピールできる人を、羨ましく思った。

 

 昔から、背が大きいだけで、女性にはモテた。友達からは頼られた。

 それが自信に繋がっていたが、実はとても薄っぺらいもので、ふたを開けると空っぽだ。

 先輩に揶揄われた言葉は、近い将来訪れるものだと思って怖くなった。

 自分の本当の自信となるものをみつけないと。

 自己紹介の挨拶をしている高田の横顔をみて、決心をした。

 この人のように、本当の自信を表せるようになろう。

 見た目の大きさに負けないくらい、心に大きなうつわを身に付けることを目指した。

 先輩にくっついて学んで、人を観察して、尊敬した。

 今では、やりすぎなところもあるが、客先にも好かれているし、社内でも信頼があるほうだ。

 それが営業成績にも繋がっている。


「邪魔」

 ――デジャブ!

 振り返ると、高田が笑っていた。

「人の席の前で、何、にやにやしてんだ」

「あ、ごめん」

 おもいっきりわざとらしく猫背になって謝った。

「おっ? 少し小さくなったか……って、変わらねぇよ」

 楽しそうに笑う高田を見て、この人と出会えて良かったと思った。

 大事なことを思い出せて良かった。

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