第3話 見に覚えのない人生
それから数分ほどした頃、授業終了の鐘が鳴り響いた。俺は机の上に広げられていた、見知らぬ教科書を……とりあえず机の中に押し込み、調査に乗り出す。
――どうやら俺は、この世界で生まれ育ったことになっているらしい。今この場にいる俺は、『日本出身の紫藤カイリ』ではなく。『竜騎士を目指す紫藤カイリ』なのだとか。
意味が分からなかった。俺はこの世界で生きた覚えなんてないし、ましてや竜騎士なんて目指した覚えもない。そもそもこの世界のことなんて、何も知らないんだ。
……だけどこの現象を、説明出来ることが一つだけある。――パルプンテ。あの時俺が使った、謎のスキル。何が起きるかわからないとは自覚してたけど、ま、まさかこれって……あのスキルのせいなのか?
「ほら。何してんのよ。次の講義に遅れるわよ」
「わっ! あ、ああお前か……」
「ボーッと空なんて見上げて。夢を見上げるだけじゃ夢は敵わないわよ。……わかってんでしょ」
「そりゃまあ……うん……?」
そうして俺は、その子に引っ張られる形で……次の講義へと向かう。見知らぬ校舎の中を、嫌にキョロキョロと見渡しながら。
気まずい。というかやりにくい。そもそも俺はこの女の子の名前すら知らないんだ。名前を聴きたい所だけど、絶対怪しまれる。
とりあえず俺は昔からの知り合いっぽいんだし、知ってるフリをしないと。まずは適当な雑談で、様子を見てみるか……。
「な、なあ。腹減ったな。昼飯何食べんの?」
「はぁ? 昼飯って、さっき食べたばかりじゃない。もう消化しちゃったわけ?」
「あ"」
「ったく。そんなんじゃ太るわよ。太った竜騎士なんて最低ね。カッコ悪いわ」
むう……なんか強気なキャラだな。嫌いじゃないけど。ていうか、アレだな。さっきから言ってる竜騎士って……、さっき空で見たアイツらのことか? 『碧の騎士』だの、『黒鉄の騎士』だの……。
わからんことが多すぎるな。と、とりあえず。色々覚えていかないと。でなきゃ取り残されちまうからな……。
「……でも。アタシは好きよ、アンタのそんなとこ」
「……えっ!?」
「昔からずっとそうだった。アンタがバカ食いしてる所見てると、何か色々どうでも良くなるのよね。……フフ」
ふとその子が見せた、ほのかな笑い顔……。それはまるで、なんていうか……一輪の花のようで。思わず俺は胸が高鳴ると同時に、申し訳なくなってしまう。
やっぱり正直に言おう。こういう子に嘘を付き続けるのは苦手なんだ。それに下手に嘘を長引かせて、一番傷つくのは……この子だろ。俺じゃない。受け入れてくれるかわからないけど、ダメで元々だ。
「な、なあ。俺さ」
「なに?」
「実はその、俺っ……――ぅぁぁあっっっ!?!? おおっ……おわぁぁぁっつっっっ!?!?」
「か、カイリっ……!? 何、どうしたの!?」
そうして俺が、全てを話そうとした瞬間。突然割れるような痛みが、俺の頭を襲った。思わず俺はうめき声を上げながら倒れてしまい、頭を抑えながら悶え苦しむ……。――そんな時だった。
『―――? ―――! ―――?』
「な、なんだぁ……? 声……? なんか、なんか言ってるのか? 神……?」
ふと頭の中に響く、謎の声……らしき音。いや、これは声なのだろうか? どちらかといえば、ただの物音のような……。
「ちょっと、大丈夫なのアンタ? とうとう頭でもおかしくなっちゃったわけ? もう、どうしたってのよ……」
「うえ……。だ、大丈夫……。ちょっとあの、食べ過ぎただけだ……」
……しばらくすると、段々と痛みが収まってくる。同時に声のような音も聴こえなくなって、少しずつ俺の体調は元通りへと戻ったので。俺は何事もなかったかのように装った。
「はぁ……。わ、悪い。ちょっと今朝から気分が悪くて。か、風邪かな?」
「馬鹿は風邪引かないわよ。……っとに、心配させんじゃないわよ……」
「なははは……。え、それマジ?」
なんだったんだ、今の。本当のことを話そうとした瞬間、頭が……。……い、いや。まあいい。もしかしたら、今は言わないほうがいい、っていう啓示なのかもしれないし……。
そうだ。あの神様……。神様のアドバイスって可能性もある。今は無理だけど、後でコンタクト取ってみよう。確か、なんか……バーゲンがどうの言ってたな。
とりあえず今は、普通にしていよう。またもう少し様子を見ていれば、何かわかるかも……。それからでも遅くはないはずだ。
「はぁー……。あ、そうだ。ていうかあの、次の講義って何だったっけ?」
「もう。だから言ったでしょ、竜騎士の講義だって。何度言わせるわけ?」
「い、いやあ。今日の俺は馬鹿なんだよ。いつになく。なははは……」
新米竜騎士のオレは、【パルプンテ】のスキルで星竜を相棒にして無双する! 〜伝説の竜の背中でするキャンプは、最高でした〜 空倉西小 @Ku-ra
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