第2話 気になるあの子とパルプンテ……?

 「――はっ!?」

「えー、であるからして。全ての魔法における基礎は、何よりも魔力にある。この魔力は、個人によって蓄積可能な量に限度があり、これを『基礎保有魔力』と言うが……――」


 教室。言い逃れも出来ないほどに、それだった。黒板に刻まれるチョークの音、ノートにメモを取る鉛筆の音。何だか妙に聞き慣れた音が周りを包む中、教師らしき人物が放つ言葉だけが、異物だった。


「――というわけだな。えー、では次に。この基礎保有魔力は、とある方法によって増加させることが出来る。それは一体何か、誰か答えられるか?」


 しかし誰も手を挙げない。周りに居る生徒らしき人々は、ただ黙ってうつむいているだけ。……ああ、この光景には見覚えがある。よく俺も学校とかで見ていた。答えがわかるかわからないかは、関係ない。彼らはただ、答えようとする自主性を持てないだけ。


「誰もわからんか? むう。それでは……紫藤!」

「はっ?」

「紫藤、答えてみろ。お前は何だと思う? 基礎保有魔力を増加させるためには、何が必要だ?」


 そうして白羽の矢が立ったというわけである。俺はわけも分からず立ち上がり、なんとな〜くの雰囲気をまとわせながらウンウンと唸る。


 しかし答えがわかるはずもないので。つい俺はいつもの癖で、適当に答えようとしてしまった。


「えーと……金っスかね?」

「ぶっ。……い、いや。あながち間違いではないかも知れんが。金で魔力は増えんぞ! 全く……この程度もわからんでどうする」

「いやあすんません……。わ、わけがわからんもんで」

「その調子では、竜騎士になるなど夢のまた夢だぞ! お前は竜騎士になりたいんだろう? ならちゃんとした教養を身につけることも、使命の一つだ。それを忘れるなよ」

「……は、はぁ……」


 竜騎士? 夢? なんのことを言っているのか。俺の夢は、死ぬまで楽して生きることなのに。なーんでそんなワケワカメな夢を……。


 まあいい。と、とりあえず……状況を整理しよう。一体何が起こったんだ? 確か俺は、空から落ちていたはずじゃ……。


「――フン。相変わらずね、カイリ。アンタのバカさ加減には呆れるわ」

「へ? そ、その声って……アレ?」


 ふと聴こえた声に釣られ、隣の席に目を向ける。するとそこに居たのは、見知らぬ美少女……。


 赤いウルフヘア、ボーイッシュな顔つき、スラリとしたスタイルの良さに、翡翠色の瞳……。


 見覚えのない美少女だ。見たことも考えたこともない。――だが、声には聞き覚えがある。この声は、確か……さっき『黒鉄の騎士』とやらと戦っていた……アイツだ。


「なあお前っ! 心臓は大丈夫なのか? 槍で貫かれたんじゃ」

「はぁ? 何よいきなり? 心臓って……何の話?」

「何の話って、お前心臓が……。……あ、あれ。無い……?」

「……どこ見て言ってんのよ、アンタ。喧嘩売ってんの?」


 胸を見渡せど、見つかるのはスリムな胸だけ。心臓を貫かれた跡なんて何処にもない。


 ……ああ、いや、まあそりゃよかった。とりあえず。別に何の関係もないけど、生きてるんなら御の字だ。うん。


「はぁー。……にしても、一体何が起こったんだ? ていうかここって、どこ……?」


 ふと、外を見渡す。そこに広がっていたのは、見知らぬレンガ色の町並み。いわゆる中世風のアレで……よくある異世界モノのテイスト。


 日本じゃない。少なくとも、俺の知っている場所ではないのは確かだ。なんだこれ、手のかかったドッキリ? トゥルーマンショー?


「カイリ。アンタね、授業くらいちゃんと聞きなさい。ただでさえ成績悪いんだから……」

「え? あ、うん。いやでもさ、それどころじゃないっていうか……」

「……あっそう。じゃあアンタは無かったことにするのね、アタシとの約束」

「約束?」


「二人で一緒に、絶対に竜騎士になるって約束したでしょ。あの時に。……まさか、忘れたなんて……言うつもりじゃないでしょうね」


 そうして美少女が俺を見た瞳は、どこか……憂いを秘めるかのような何かだった。まるで、俺が昔からの知り合いで。俺が昔にした約束を忘れているかのような。


 実際知らなかった。だからもう忘れているも同じ。とはいえ、こんな美少女を下手に悲しませることなんて出来ない。だから俺は、ついついその場しのぎで……嘘をついてしまう。


「お、覚えてるに決まってんだろ! なに言ってんだお前ェ。アホぅ。貧乳ゥ」

「次言ったら殺すわよ」

「は、はい……すみません……」

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