新米竜騎士のオレは、【パルプンテ】のスキルで星竜を相棒にして無双する! 〜伝説の竜の背中でするキャンプは、最高でした〜

空倉西小

第1話 空から降ってパルプンテ!

 ――月夜に火花を散らす、二人の竜騎士。雲を越えた天空にて、二匹の竜がすれ違う僅かな一瞬。竜の背に乗った二人の騎士が、互いの命を奪うべく槍を突き出す。


 槍の切っ先が触れ合う。見た目からは想像も出来ないほど大きな衝撃波が、周囲に轟く。その衝撃は雲をも散らし、カマイタチとなったそれが、騎士の鎧に鋭い爪痕を残す。


 そしてそれに感化されたのか、たまらず二匹の竜も“激流”を噴き出した。一匹は骨も残らぬほどの火炎を、また一匹は骨すら凍り付いてしまうほどの氷撃を。それらは空中で互いを打ち消し合い、侍が如く鍔迫り合った。


『――(我に抗うか、愚かな。凡庸なる貴様如きが、我を打ち砕こうなどと。愚かにも程度があることを知るがいい)』

「黙れッ!! 貴様らの戯言には聞き飽きた、今こそ貴様の首を天に返す時が来たのだと、貴様こそ知れッ!! 私は……私は!! この命に代えてでも貴様を殺すッ!!」


 竜が発した人ならざる言葉。それを理解する【碧の騎士】が、高らかに吠える。演舞がごとく槍を廻し、己の決意を示すように切っ先を喉首へと向ける。


 しかし対する【黒鉄の騎士】は、一寸たりとも動じる様子を見せない。むしろその挑発を受けたことによって、彼の放つ“殺気”がより一層深まり。彼はぬらりと、槍を構えた。


『――(来るぞ。かの者の一撃は、我らを一振りで粉と化す。心せよ。そして構えよ。貴様は比類なき我の背に立っているのだ)』

「わかってるッ! 『イェラフィム』、力を貸してッ……! この私に、貴方の力をッ……!!」


 両者の間に高まる殺気。それは次第にオーラとして可視化され、両者の体を包み込む。ひとつ、ふたつ、みっつと。確実に時が刻まれていき、やがてそれは解放された。


「はああぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

『ギャリィンッッッ……!!!!』


 ――勝者、黒鉄の騎士。かの者が放った一撃は、碧の騎士の鎧を打ち砕き、心臓をえぐり取る。


 黒鉄の騎士は、自身の槍の切っ先にぶら下がる……心臓を手に取る。僅かにドクン、ドクンを脈打つそれを、リンゴのように握り潰す。


「……かはッ……!?」


 碧の騎士がそれを悟ったのは、数秒ほど後のことだった。騎士は自身の胸元に刻まれた『穴』に手を入れ、自分が心臓を失ったことを認識。


 即座に”彼女”の全身に、形容しがたい痛みが広がる。手は血で濡れ、次第に立つことが不可能になり。彼女はそっと、風にあおられ……――竜の背から滑り落ちた。


 こうして彼女は、死に至る訳である。何をせずとも、彼女は死ぬだろう。仮に大地に激突せずとも、既に彼女は死に相応しい痛みと欠損を受けている。


 助かるはずがない。神の奇跡でも起こらない限りは。あるいは神をも超越する、何かが起きない限りは。――さて、貴様はどうする?


「貴様はどうするッ……(キリッ)? じゃねえよ馬鹿野郎ーーーッッ!!!! さっさと助けておくんなましゃァーーーッッッ!?!?」


 大地へ向かって落下する、碧の騎士。その彼女の横に、もう一人……見知らぬ男の『姿』があった。


 男の名は、『紫藤カイリ』。先の闘いとは何も関係がない、所謂異世界転生者。彼は転生するや否や、空に放り出されてしまい。こうして彼女と共に、死へと向かっているわけである。


「こんの……クソ神様がよォ!! 随分とYo!! やってくれるじゃねえかYo!! そりゃ俺も悪かったさ!? ふざけたお願いをして悪かったさ! だけどこの仕打ちは酷くない!? いきなり空に投げ出されて、知らねえ奴らの決闘見せられてさ! どうしろってんだアホンダラッッ!!」


 弱い犬ほど、よく泣くものだ。ああ、哀れ。あまりに、哀れ。


「絶対馬鹿にしてんだろお前ッッ……!! あ、ああもう……!! やるしかねえの!? 今更めっちゃ後悔してっけど、やるしかねえの!?」


 私は紫藤カイリに向けて、一つの贈り物をした。奴がこの世界で生きていくための、唯一の希望。彼が生き抜くために必要な力を、彼に授けた。


 そして彼は望んだ。――「パルプンテ」と。『どーせ何が起こるんかわからねえなら、もう何でもいいよ! アレだアレ。あのーなんだ? パルプンテでいいよ! 面白そうじゃんアレ、何が起きるかわからないってさ! 何か楽しそうじゃん!』と。


「いや、ほんッッッとにごめんなさいッッ!! マジで舐めた口聴いてすいませんでした!! だ、だからあのさ!! 今回ばかりは許してくんない!? 今回ばかりはちょっと助けてくれない!?!?」


 神に慈悲は無い。


「クソがァッッ!!」


 こうして彼は、神との決別を選んだ。彼は手のひらを全力で伸ばし、碧の騎士の体を自身の方へと引き寄せる。そして精神を集中させ……、スキルを発動した。


「このっ……! ぱ、"パルプンテ"ァッッッ……!!」


 次の瞬間、彼と、碧の騎士の肉体を、ほのかに青白い光が包み込む。それは粒子となって彼らの体の中へと侵入し、彼らの体を……”消滅”させる。


 パルプンテ。彼の望んだその力は、極めて危ういものだ。それを使えば、何かが起こる。しかし何が起こるかは一切わからない。唯一わかるのは、『何かが起きる』ということだけ。


 果たして彼らが、この世から消滅したのか。それとも別の場所へと転移したのか。それは神である私にしかわからない。――ただ、知る必要はない。なぜなら私は、これから……――近所のバーゲンセールに行かなくてはならないのだから。

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