瞼の前
みにぱぷる
瞼の前
私は瞼を閉じている。そして、私の瞼の前には”何か”がある。”何か”が瞼に触れているという感覚は確かにあるのだが、その正体はわからない。しかし、目を開ければ”何か”が一気に私の両眼球に押し寄せてくることは推測できる。だから、私は瞼を開けない。
瞼を開けれないため、私は視覚が使えないので、触覚にて判断するしかない。手探りで、今私の置かれている状況を確認していく。
後頭部に何か...これは、海水浴などで着用するようなゴーグルのようなものが。
そういえば、確かにゴーグルを装着させられている感覚もする。
私はそのゴーグルを脱いでみようと両手で引っ張った。しかし、妙にきつく頭に嵌っていて脱げない。何度も試みたがどうやら難しそうだ。
さて、困ったことになった。視覚が使えない以上、周囲に何があるのか、私は今どこにいるのか、は分かりようがない。手探りで前に進んでみるのも一つの手だが危険は当然伴う。
悩んだ挙句、私は瞼を開くことにした。もうそれしかないのだ。パッと開いて、パッと閉じれば”何か”が両眼球を破壊することはないだろう。ほんの一瞬、瞬きするぐらいの時間だけ、瞼を開けよう。
一瞬、一瞬だけ眼球に痛みが走るだろうけれど、それで終わりだから。
そう決意して私は瞼を開けた。
「うわぁ」
私は愚かにも情けない悲鳴をあげて、慌てて瞼を閉じようとした。砂利だ、砂利がなだれ込んでくる。私はすぐに瞼を閉じようとしたのだが。
「ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
閉まらない。完全に両眼球を砂利に占拠されてしまった。私は力一杯瞼を閉じようとするが、痛みで力も入らず、そして、瞼を閉じることはできない。目が燃えるように痛い。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
私は悲痛に叫んだ。叫び続けた。しかし痛みは治らない、治るわけがない。そして、私が痛みに体を捩らせると、砂利が体内に入ってくる。眼球と表皮との僅かな隙間を伝って体内に体内に、砂利の軍団が行進をしていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
私は絶叫し続ける。そして、どんどん砂利が体内に入っていく。そうしているうちに段々ゴーグルの中の砂利が減っていくことに気がついた。ちょっとずつだが着実に減ってはいる。
激しい痛みはあるものの、体内に取り込むことで、少しずつ。
どれだけ格闘したかわからない。ついに、両ゴーグル一杯に詰まっていた砂利が体内に消えた。左右両方とも、ゴーグルは空になった。眼球はヒリヒリと痛む。左右どちらも同じぐらい、いや、両方が痛んでいるのかもわからないぐらい。
だが、何より私を絶望させたのは、遂に解放された私の視界に広がっていたものだった。
暗黒。真っ暗で、真っ黒。何もない。本当に暗黒そのものだ。幼い頃に想像していた宇宙の色そのままのような。
私は何故暗黒が広がっているのか必死で推測する。
真っ黒のゴーグルを装着させられていたのか。
眼球が麻痺して視覚が死んだのか。
あるいは、そもそもこの世界に光がないのか。
「夢かぁ」
わたしは目を覚ましてため息をついた。なんともおかしな夢を見たものだ。私は手元の電気スタンドに手を伸ばす。
カチッ。
スイッチを入れた。
だが、明かりがつかない。何度も繰り返すが明かりはつかない、はてどうしてだろうか。
瞼の前 みにぱぷる @mistery-ramune
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