最終回転

 私、唐廻からまわり静子しずこの思考はいつも空回ってばかり。


 カラカラカラ。


 どれだけ回してもキミに伝えるべき言葉の一つすら見つからない。くだらない考えばかりがあふれては消えてゆく、この繰り返し。


  けれど、空回るのはその気持ちが強いから、私はそのことを知っている。どれだけ空回ってもいい、どれだけ繰り返してもいい。最終的に目指す先を忘れなければ、いつかきっとたどり着ける。


 そして今日も回り始める。



「なーんて考えてたんですけどねー!」


 いやぁ、友達にボコボコにされました。


「何一つ伝えてないのに、なんで伝えた気になってんの?」


 言葉もありません。まったくもってその通りです。


 はじめて空回りせずにいられて舞い上がっていた私ですが、その言葉は頭の中から一歩も出ておりませんでした! それでも進歩だとは思うんですよね。私としては


「私らは付き合いが長いから、めっちゃ考えた末に静子しずこの言葉が出てることがわかるけど、普通の人はわからないからね? まずは考えを口に出すことからはじめてみたら?」


 それもその通りです。反論する余地はゼロです。

 伝える練習もしてないのに気持ちを伝えるなんてできるはずがありません。

 当然のことです。


 ですけどね! 正論は時に人を殺すんですよ!? 私のグラスハートなんて一発なんですからね!! もっと加減してくれてもいいじゃないですか! おばあちゃんが優しく起こしてくれるみたいに! あぁ、友情が重すぎです。


 傷つきながらも反省した私は、放課後の教室で気持ちを言葉にすることにしたのです。


 誰もいない教室は雰囲気があります。カーテンの隙間から差し込むオレンジの夕焼けが、風にあわせてゆらゆら揺れます。遠くから聞こえるのは部活動のボールが跳ねる音だけ、まるで世界に一人だけのような感覚。そんな雰囲気に身を委ねて言葉を探します。


 思えば、どうしてキミのことが好きになったんでしょうね?


 今考えると不思議です。最初は好きな本が同じだったからみたいな些細ささいな理由だった気がします。


 それで気にして見ていたら、笑顔が素敵だったり、不器用だけど優しかったり、どんどん良いところが見えてくるようになって、いつの間にか好きになってました。


 最初のきっかけがなければ、良いところを見つけていくこともなかったわけですが、最初のあまりに些細ささいなきっかけを恋と呼ぶのは違うような気がします。実際、最初はそこまで好きではありませんでしたし


 最初の小さな引力から生まれた、一連の流れ。好きな気持ちがさらなる好きを生む正のスパイラル。最終的には私の心を一変させてしまったエネルギーの奔流ほんりゅうのようなもの。それが私の恋なのかもしれません。


 まぁ、今はそのエネルギーに全力で振り回されているんですけどね!!


 もともと考えすぎるわりに言葉少ないタイプでクールキャラと勘違いされてましたが、ここまで悪化するとは思いませんでした。10分近くも考えて、口に出せたのは一言ですよ? たったの一言! 我ながらびっくりです。


 口下手がここまで悪化したのには、困りながらも空回りしてる自分を楽しんでいる部分があったのだと思います。「うわぁ、こんなに暴走するほど好きになっちゃってるんだ私……」と、ニヤニヤしている私が心の隅にいる、そんな感じです。


 けれど、そろそろ前に進もうと思います。

 私の気持ちをちゃんと伝えたいからです。


 今までの私と別れることに、さびしい気持ちも少しありますが、あまり気にしてはいません。


 たった一歩進んだところで、とっても大変なこの恋心は、これからも私を空回りさせることが目に見えてるからです。恥ずかしいところもたくさん見せちゃうと思います。どうにかしたい気持ちもありますが、これが私です。なので最後まで付き合う覚悟を決めて、前に進もうと思います。


 聞いてください。


 キミのことが大好きです!

 こんなに空回りする言葉があふれるくらいに!



 ……最初から口に出してみたら、結構簡単に言えちゃいましたね。


 自分でもびっくりです。今までは頭の中でふくれあがった思いを、無理やりまとめて言葉にしようとしていたから、失敗していたのでしょうか?


 だから最初から思いを口にして、少しずつガスを抜いていくようにすれば、最後まで自然に話せる、そういうことでしょうか。よし、これなら少しずつキミと話していくことだってできるかも……


 ガタン


 え、えええっ! キミは、どうしてここに!?

 いえ、どこから私の話を聞いてました??


「なーんて考えてたんですけどねー!」から、って最初からじゃないですか! あああぁぁ!どうしよう!どうしよう!どうしよう!もう誤魔化すことなんて、無理!!無理っ!!!


 ぷつん、と私の中で何かが切れる音がしました。


 あぁぁぁ!もうっ!! ここまで見せちゃったんです。開き直るしかないじゃないですか!! もう! キミが見たのが悪いんですからね! 覚悟してください!!


 いいですか!私はクールなように見えて、とっても変な女の子なんです!変なことも沢山言います!一人で空回って奇行もします!でもキミのことが好きな女の子で、沢山伝えたいことがあるんです!今までの言葉にも見えていなかった部分がびっくりするほどあるんです!だから!どうか!


「空回りする私の話を聞いてくれませんか──?」


(終)

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大回転!?エアスピンガール!! ~唐廻静子は止まらない~ 片銀太郎 @akio44

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