第5回転
私、
カラカラカラ。
どれだけ回してもキミに伝えるべき言葉の一つすら見つからない。くだらない考えばかりがあふれては消えてゆく、この繰り返し。
そして今日も回り始める。
ああああああああああああ!
うううううううううううう!
ええええええええええええ!
安心してください!
薬物は使われていません!
このハイテンションには理由がありまして!
帰り道、いつもの電車に乗って空いてる席に座ったんです。そしたらキミがとなりに座ってるじゃないですか!! 案の定、私の頭の中は空回りですよ! 何て話しかけたらいいかな、どうしようどうしようとグルグルしていたら──いつの間にか、私の肩が重くなって
見ればキミが私の肩にもたれかかって寝てるじゃないですか!? あわわわわわわわ、今日も空回りして頭の中はグルグル、何も話しかけられなかったんですよ私は!?
ゲームで言うならタイムアップ! ペナルティでなくこんなご褒美をもらっていいんでしょうか!?
詐欺!? 詐欺ですか!? 今の状態を続けたければお金を振り込めとかメールが送られてくるんですか!? レターパックでドンペリを送って、延長すればいいんですか!?
……はぁ、はぁ、落ち着きましょう。
落ち着くんです私。
幸いキミは寝てるんです。
考える時間はゆっくりあります。
今回は、慌てて空回る必要はないんです。
ふー、ふー、深呼吸です。
……それにしても、よく寝てますね。
昨日寝不足だったりするんでしょうか。
キミにはいつも元気でいてほしいです。
もう少し仲良かったら早く寝るよう言えたりするんでしょうか? でも、ついつい長話して夜ふかししちゃいそうな気もします。そんな関係になれたらいいなぁ、なんて思います。
肩にはキミの頭。重いはずなのになんだか嬉しい重みです。私の逆側にはOLのお姉さんが座っています。とても綺麗な人です。私の側にもたれかかってくれたこと、この頭ひとつ分ぐらいは私のことを信頼してくれていると思っていいのかなぁ。
頭ひとつ分の信頼。
頭ひとつ分の関係。
もっと身近な関係になれたらいいなぁ。
だから私は自分の頭をキミの頭に寄せます。
ゴツンとぶつかってしまわないようにゆっくりと、
重い女と言われないよう体重をかけずに控えめに、
頭ひとつ分の歩み寄りです。
こつん
髪ごしにキミと私の頭がくっつきます。
今日の私は汗かいてませんよね? くさくないですよね?
大丈夫と信じて、そのままでいます。
頭皮の向こう側、とくんとくんと血が流れているのが聞こえるような気がします。糸電話みたいに、こうして頭を通じて私の気持ちも伝わったらいいのになぁ。
ねぇ、聞こえる?
私はキミのことが大好きなんですよ?
面と向かって言えない言葉を、頭の中に浮かべてみます。
仲良くなりたいのなら、キミを起こして直接お話をするべきだろうと思います。でも今はキミの頭に触れているのが心地よくて、誰にも届かない言葉を頭の中に浮かべます。
ねぇ、聞こえる?
私はキミともっと仲良くなりたいと思ってるんですよ?
ふふっ、なんてね。
笑いながら言葉を続けます。
はい、たまには電車もいいですよね。こうしてキミのとなりに座れるから。こんな風に一緒に帰るのを重ねて、いつかは二人で遊びに行けたらいいなぁ、って思います。山がいいですか? 海がいいですか? それとも温泉? そういえば、今日の学校で友達とこんな話をしたんですけど──
本当は、キミとこんな風に話したかったんですね私は。
空回りしない私の言葉。
今は頭の中にしかありませんが。
伝わったらいいな。
いつかは伝えたいな。
ガタンゴトンと揺れる電車のリズムに身を任せ、キミに伝えたい言葉を探し続けていました──
「終点まで来てしまいましたが、5分後出発の折り返し電車に乗りましょう」
(
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