~第4幕・拙者とラブラブ睡眠でござる~
SE・パンパンと手を二回叩く音
SE・ふすまが、スパーン! と勢い良く開く音
「お呼びでござるか若様ぁ! ……あ、夜だから静かにするでござるね……ご、ごめんなさい」
SE・大人しくふすまが閉まる音
(正面、少し近づく)
「こほん。ちょっと忍んでいる余裕がなかったので、慌ててしまって申し訳ないでござる。え? あ、大丈夫でござるよ。ちょっとお風呂に入っていただけでござるので」
「ほかほかの良いお湯でござりました。若様も入られました? あ、じゃぁいっしょに入ってたのかもしれませんね」
「へ? 違うでござるよ。いくら拙者でも若様のお風呂を覗き見なんてしないでござる。んひひ、若様こそ拙者の入浴を覗きたいんじゃないでござるか?」
「いいでござるよ。拙者の魅惑の肉体美を楽しんで――いらない? えぇ~……」
(小声で)
「ちょっとは見たいと思ってくれてもいいのに……」
「それで、なんの用事でござります? また眠るまでいっしょに遊びます? それとも今夜こそお屋敷を抜け出して、拙者と愛の逃避行をするでござるか?」
「――冗談でござる。抜け忍になって追われたら、拙者なんて先輩にあっという間に捕まるでござるからなぁ。若様とも離れ離れ。そんなのイヤでござる」
「んふふ。若様とはこれからもずっと一緒にいたいです」
SE・スリスリと床を這うように移動する音
(正面・膝を突き合わせるような距離)
「若様は? 若様はどうです? 拙者といつまでも一緒にいたい?」
「……え~、答えてくださいよ~。若様のケチッ。いいですよ~だ。拙者はしょせん忍者でござるからな。若様の命を守るのも拙者の務め。影から見守るのが拙者の仕事でござる」
「若様が百で死ぬのなら、拙者は百と一秒後に逝くでござるよ。おまえ百まで、わしゃ九十九まで、というやつでござるな」
「ほえ? え!? こ、これ夫婦を表す言葉なんですか!?」
(首を左右に振りながら)
「わひゃぅ、うあ~、あうあう……」
「は、恥ずかしい……! ……ハッ! し、失礼しました若様!」
「はぁ~……ちょっとお風呂上がりで舞い上がってしまったでござる。若様は冷静でござるね。ちょっとは拙者との夫婦生活を考えて照れてくださってもいいのに」
「たとえば、でござるか? え~っと、え~っと……」
「い、いっしょにごはんを食べて、いっしょにのんびりと過ごして、いっしょにおやつを食べて、いっしょに遊ぶ……とか?」
「……ハイ……今と同じでござる。こ、これはもう拙者と若様は夫婦と言っても過言では――あ、はい、過言でござりました。調子に乗ってすいません」
(小声で)
「むぅ~。ちょっとは照れてくれてもいいのに。か、かくなる上は……!」
「ふ、夫婦と言えば、あとはいっしょに眠る、というのがあるでござりますよね。ど、どうでござる若様。せ、せせ、拙者といっしょに眠ってみるというのは……!」
「ほひぇぅぁ!?」
「ご、ごめんなさい。ま、まさかうなづいてくれるとは思ってもみなかったので、思わず奇声をあげてしまったでござる……ほ、ホントにいいんでござる?」
「え? あ、按摩? いっしょに眠るのではなく背中と腰を按摩して欲しいって意味ですか? な、なんだ……そうですか……」
「あ、いえ、なんでもないでござる。ほ、ほら若様。さっさと寝ころんでください。じゃないと按摩できないでござる」
SE・布団の上に寝ころぶ音
(後ろから)
「では、腰のあたりに……失礼するでござる」
SE・腰のあたりに座る衣擦れの音
「重いでござる? だいじょうぶ? ホントに重かったら言うでござるよ、若様。今さら遠慮なんかいらないでござるからな。拙者と若様の仲でござる」
「んふふ。では、このまま按摩していくでござるね」
「まずは背中――ではなく、耳をさわさわ」
(両耳を触りながら)
「ふふふ、若様は耳が好きでござるからな~。こうやって、トントントンと耳を叩くだけでも気持ちよくなってしまいますものね」
(トントントン、と両耳を軽く叩きながら)
「んふふ~。どうでござるか、若様。拙者と結婚すれば毎日こんな気持ちいいことをやってあげるでござるよぉ~。そして拙者は奥様として、毎日のんびり優雅に生きるのでござる」
「……そ、そうでござるね。今も毎日やろうと思えばできるでござるな……あれぇ~、結婚って何でござる……?」
「――若様も分からないでござるか。はぁ~、世の夫婦は何をキッカケで結婚したのか謎でござる。あ、ちなみにですけど優秀な先輩も結婚してないでござるよ。そこだけは拙者と同等でござる。ふふん」
「では、背中を揉んでいくでござる」
(背中を撫でる音)
「最初に、背中を撫でてから~……」
「真ん中の背骨に沿って……よっ、ほ、んっ……と、揉んでいくでござる」
「ん、んっ、ふっ、ほっ、ん……く、ふっ、ん~、やっぱり、若様、お疲れみたいですよ。背中もコリコリでござる。ガッチガチに、固まってるでござるな」
「前にも言いましたけど、ほどほどが一番でござる。んっ、ふっ、ふぅ、はっ、やっ、ん、よいしょ、ふぅ~。気持ちいいでござる? んふふ~、拙者なかなか上手でしょ? おじいちゃまの背中とか良く揉んでいたので、得意なんでござるよ」
「あと、おばあちゃまには良く肩を揉んでもらっていたでござる。忍術の勉強で疲れた時には、おばあちゃまが優しくしてくれたでござるよ~」
「んひひ。母上には言われたでござる。逆だろ~って。あはは、若様が拙者の母上と同じこと言ってる」
「よ、んっ、んっ、ふぅ~……背中はこれくらいにして、次は腰を揉むでござるね」
SE・お尻からちょっと下がる音
「腰を親指で、ぎゅ~~~……っと押していくでござるね。ぎゅ~~~、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ~~~~」
「毎日まいにち、お疲れでござるな若様。拙者なんかより、よっぽど頑張ってるでござる」
「ふふ。拙者ね、若様を見てると元気をもらえるんでござるよ。風の術しか取柄のない拙者で、しかも任された任務が若様のお世話。忍者といえば敵地にもぐりこんだり情報を収集したりするのが仕事だというのに、拙者はこうして安全なところで若様といっしょに過ごすだけ」
「ときどき自分がとてつもなく情けなく思えるんでござるが……でも、若様が頑張ってらっしゃるのを見て、あぁこんなステキな人を拙者は守っているんだな~、って。そんなふうに思えたんでござるよ」
「あと、なにより若様が優しくて。なんにもできない拙者のことを大事にしてくれてるのが分かるっていうか、伝わってきて。ふふ、なんだか嬉しくなったでござる」
「だからね。拙者は若様をどんなことがあっても守り切るでござるよ。その身だけでなく、心までも守り通してみせます。それが、拙者の心意気です」
「んふふ~。だからね、若様」
(右耳へ近づいて、こそこそ話)
「いつまでも元気で、拙者に守られてください」
(離れる)
「あはは。くすぐったかったでござるか? 本当に耳が弱点でござるなぁ若様は。うひひ、じゃぁ~……」
SE・腰から降りる
「はい、若様。仰向けになるでござる」
SE・仰向けにある音
「では拙者はその隣に……」
SE・右側へ布団の上に寝ころぶ音
「せっかくなので添い寝してあげるでござる。しかも耳ふー付き。ふぅ~~~。んふふ、若様好きでしょ?」
「ふぅ~、ふぅ、ふぅ~~~……」
(右耳へこそこそ話)
「どうでござる? 気持ちいい? ふふ、答えなくても分かるでござる。若様の好きなことは、すでに拙者にバレバレでござるので。耳たぶとか、指で撫でられるのとかも~、好きでしょ?」
(右耳の耳たぶあたりをナデナデ)
「こうやって、ナデナデしながらぁ……ふぅ~~~。ふひひ、若様ちょっと声出しそうになってる。かわいい~。ふぅ~、ふぅ、ふぅ~~~、ふっ……んふふ~、どうでござるどうでござる? 気持ちいいでしょ~」
(こそこそ話がつづく)
「若様わかさま、なんとなんとですよ。拙者と結婚するとこんな耳なでなでと耳ふーが、両耳いっしょに味わうことができるんでござる。拙者、忍者でござるからな。忍法『分身の術』で、拙者がふたりになって、両方の耳を味わえるんでござるよ」
「どうでござる? 魅力的なお嫁さんになれると思いませんか?」
「――え~、今はダメでござる。忍法は奥の手でござる。日常でポンポンと使ってはダメなのでござるよ。身内にしか見せないもの。なので、拙者と夫婦になれば分身の術が味わえるでござりますよ?」
「どうしますどうします? こんなカワイイお嫁さんがもらえるだけでなく、分身の術で毎晩とっても気持ちよくなれるでござるよ……!」
(こそこそ話ではなく普通の声で)
「あれ? どうされました若様? ……なんでもない? はぁ……?」
「ん~。変な若様。じゃぁ、とりあえず反対側もやるでござるね」
SE・左側へ移動する音
(こそこそ話で、左耳を触りながら)
「こっちの耳も気持ちよくしてあげますね。ふぅ~~~~。ふっ、ふっ、ふぅ~、ふぅ、ふぅ~~~~……ふふ、ほんと好きですよね若様」
「どうですか? ホントに結婚してもいいですよ。拙者は若様のこと大好きなので、ぜったいに断りませんよ~……ん?」
(普通の声で)
「い、いま拙者が言ったことは忘れるでござる。き、気のせいでござるので、忘れろ。忘れろでござる」
「よ、よろしい……ん~と、アレですよアレ。拙者が若様と結婚すれば、拙者は一生安泰でござるから、そのための方便というやつなんですよ、うん。ほら、玉の輿ってやつを狙っているんでござるよねぇ~、えへへへ、えっへっへっへ……」
「……ちょ、な、何か言ってくださいよ若様。な、う、うぁ……は、恥ずかしくなってくるじゃないですか~ちょっとぉ~」
「もう、若様の意地悪。そんな男の人には、誰もお嫁さんになんて来ないんですから。そんな若様に付き合ってあげられるのは、私くらいなものなのですから。分かってます、若様? いま、若様はとてつもない窮地に立たされているんですよ?」
「そう。人生の岐路です。いまここで素直に謝ると、若様は結婚できます。でも、こんなところで意固地になっていると、一生結婚できません。お爺ちゃんになってもお世話してくれるのは私だけです。さぁ、どうします?」
「……な、なんで謝らないんですか?」
「……へ? え? え? どっちにしろ一緒って……あっ、そ、それって……、あ、あ、せ、せせせ拙者ちょっと用事を思い出したでござる。若様はひとりで寝ててくださ――」
SE・バフっ、と抱きしめる音
(正面から、少し布でくぐもったような声で)
「わ、若様!? だ、ダメです! ま、まままま、まだ私たち結婚もしてないので、そそそそそそそ、それ以上は、それ以上は……!」
「……こ、このまま? このまま眠りたいのでござる?」
「い、いいでござるよ……で、ででも、何もしないでくださいね? せ、拙者はまだ、その、覚悟とか決めてないので……」
「は、はい。んふ。で、でも嬉しいでござる……若様といっしょに眠れるのは、ちょっと夢だったんでござるよ……あ、いえ、なんでもないです」
「えぇ……はい。おやすみでござる。おつでござる。明日も頑張るでござる。お疲れ様でござる若様……」
少し時間をあけて
「ふふ……大好きです、若様」
おしまい
見習い忍者クルミちゃんはポンコツかわいい 久我拓人 @kuga_takuto
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