花魁の覚悟

海石榴

1話完結 花魁の覚悟

 吉原松葉屋お抱えの遊女、よそおいは美しいだけでなく、花魁としての高い教養があった。

 こと、三絃(三味)、歌舞、和歌、香道、茶道、香道はもとより、とりわけ書画に優れ、当時第一級の文化人大田南畝おおたなんぽ雲州うんしゅう松江藩の藩主松平不昧ふまい公ですら舌を巻いた。

 

 ただ、この花魁には奇妙な癖があった。客との酒宴が終わり、いざ床入りとなると、ねやの間を立てきって、内から錠をおろしてしまうのである。


 松葉屋の亭主、半蔵は悩んだ末、言った。

「花魁、そんな不用心なことはやめてくだせえよ。もし、不心得な者がいたら、どうするんですかい」

 よそおいは艶然と笑って応えた。

「もし、ぬしさまが命をくれとおっしゃりんすなら、これも前世の因縁。喜んで、わちきの命を差し上げる覚悟でありんす。それよりむしろ、閨の乱れを人に見聞きされるのがイヤざます」

 

 この粧は、のちに浅草寺に額を献じた。浅草神社に今も残る柿本人麻呂の「ほのぼのと明石の浦の朝霧に島かくれゆく船をしぞ思ふ」の大きな歌碑は、粧が筆をとったものである。

 雅名を蕋雲ずいうんという。

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花魁の覚悟 海石榴 @umi-zakuro7132

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