第6話

 デザートイーグルなるモンスターを倒すってばよ。


「待って、必要なカードをドローするから」


 テキトーに5枚ぐらい引いて「違うな」を繰り返すタクミさんに、拾肆ちゃんが「カード増やしすぎなんじゃねェの?」と的確なツッコミを入れる。


「そうかも」


 否定できないよねん。分別してトランクに入れたほうがよさげ。


「貸せ。あたしも探す」

「漢字読めます?」

「バカにしてんのか!」

「いいえ?」

「あたしは大天才だぞ」

「なら、さっき見せた《取得経験値倍増》とあとは《攻撃力アップ》と《攻撃速度アップ》を探してくださいね」

「これは?」

「それは《防御力ダウン》なので、相手に投げつけて使うデバフ」

「でばふ?」

「弱体化ですね」

「それならそう言えよ」


 ほうほう。後ろから二人のやりとりを覗き込む私。私も探したほうがいいかな。ヒョイっと一枚、カードホルダーから抜き取ってみる。


「これは……?」


 ウサギが描いてある。イラストは、リアル志向なかーんじ? 絵柄をじっと見ていたら


「うわあ!」


 びっくりしてカードをぶん投げてしまう。ひらひらと地面に落ちて、カードの中からボワっと!


「なー!」


 絵柄のウサギが召喚された。デカイ。遊園地の着ぐるみぐらいのサイズ。後ろ足で立ち上がっているから余計にそう。この「なー!」っていうのは鳴き声なのかな。


「こいつ!?」

「どうしました?」

「あのときのウサギ!」


 拾肆ちゃんはタクミさんを盾にするようにして後ろへ隠れている。にしても実体化するなんて。ああ、ゲームの世界だからか。街中でデュエリストがデュエルしているのが日常の風景な世界だったら、こんな感じなのかな。


「モンスターカードってことかな?」

「そう言ったほうが伝わりやすい? まあ、俺は〝聖者〟だけどテイマーでもあるから、野良モンスターをペットにして連れ歩ける」

「それでこのウサギさんを?」

「可愛くない?」


 同意を求められたけどぶっちゃけ「いや……そんなに……」ってかーんじ。めんご。


「さっさとしまってくれよ!」

「四方谷さん、ウサギ嫌いでしたっけ」

「嫌いじゃねェけど? こっちきてから、追いかけ回されたんだよ! こいつの仲間に!」

「仲間だと思われたんじゃないですか? ツインテールが耳だと思われた?」

「ふざけんな」


 二人の女子からの否定が続き、いよいよ自分の価値観を疑い始めたのか「ふーん?」と苦虫を噛み潰したような顔をして、絵柄のないカードをそのウサギの肩のあたりに押し付ける。そのカードに吸い込まれるようにして、ウサギの姿が見えなくなった。


「ユニは〝忍者〟だよね?」


 おう。そうだとも。タクミさんが〝聖者〟で私は〝忍者〟だよーん。


「見ての通り。ニンニン」


 携帯端末で印の一覧のページを開く。いちいち開かなきゃいけないのはめんどくさい。やっぱり覚えるかーあ。一週間で。


「あたしにもできんの?」


 拾肆ちゃんが興味を示した。ちっちゃい手をグーにしたりパーにしたりして表示されている印を結ぼうとする。


「……何も出ねェ」

「四方谷さんは〝隠者〟ですしね」

「こういうのねェのかよ」

「俺に聞かないでください。〝聖者〟にもありませんよ」

「参宮にはそのカードがあんだろ」

「四方谷さんにはSAAがあるじゃあないですか」


 ふふふ。勝ったな。私の技は108つ以上ある。全部使えるかどうかはともかくとしてね。


「火遁の術!」


 炎属性の魔法攻撃みたいなもん。このゲームの世界観としてはそうだと思う。私が忍者なのが場違いな件。和風MMORPGならまだしも、そういうコンセプトじゃないっぽい。

 ワールドマップをチラ見してたら〝和風都市〟ってやつがあるっぽいのはわかった。わざわざ〝和風都市〟と命名してるんならなおさらそうじゃんね。全体的に和風なら和風であることを強調する必要ないしさーあ。


 視線の先のデザートイーグルに向かって放つイメージでやってみた結果――


 どぉーん!

 というド派手な効果音とともに、火柱が完成した。火遁って違う違う。絶対違うよこれ。遁術って要は逃げ技でしょ? こんなのってないよ。火の粉と炎の渦ぐらい違うじゃーん。

 このプラトン砂漠の満天の星空の下、あれが冬の大三角形、デネブアルタイルベガじゃなくて、冬だからなんだっけ、デネブアルタイルベガは夏だよーん。シリウスベテルギウスプロキオン。


「こいつ一人でいいんじゃねぇかな」


 イベントに参加したくないからってんで逃げの口実を見つけたような拾肆ちゃんを、まーだカードを探しているタクミさんがカードをめくりつつ「まあ、ルールでは四人一組らしいからさ」となだめている。こうなるとは思ってなかったんだよぉ。だってだって! そうなんだって!


「もう一回やってみるドン!」


 再現性があるかどうか。たまたまかもしれない。

 ほら、曲がりなりにも表向きには今の私ってレベル1の〝シーフ〟じゃーん? 今ので経験値入ってレベル上がってたとしても、カードで《取得経験値倍増》のバフをかけていないからそこまで入ってきてない、と思う。にしても、この低レベル帯であんな火柱があがっちゃうのがおかしいでしょ。どんなゲームだよこれ。レベル1にアイテム使ってつよつよの技を覚えさせてるようなもん? それにしても火柱って。


 おあつらえむきにモンスターが出現している。デザートイーグルの無限湧きポイントっぽい。倒すよーん。


「あったあった」

「およん?」


 見つけたっぽい。タクミさんはカードの絵柄のある面を私の背中に押し付けてくる。接している部分から、新しい冷えピタを貼ったときに似た感覚がじんわりと広がってきた。これは効果がありそう!


「このぶんだと《攻撃力アップ》はいらなさそう」


 さっきとおんなじように、印を結ぶ。イメージするのは、常に最大火力をぶっ放す私。気持ちの問題ってやーつ。イメトレは大事、って聖書にも書いてあった。読んだことはないけどねーん。


「火遁の術!」


 ……およん?


「しかし なにも おこらない。……だと!?」


 自分で言っちゃった。

 あんれま。なんだろう。さっきと同じようにやったのになーあ。足元の携帯端末をもう一度見てみる。これやって、これして、こうでしょー?


「不発?」


 首を傾げる拾肆ちゃんの隣で、タクミさんは携帯端末のカメラを起動して「MP不足かな」と分析していた。そういう仕様があるのねん。それなら仕方ない。命拾いしたなモンスターたちよ。

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