第7話


 いかに効率よく敵を倒せるか。少ないMP消費量でどれだけのダメージを出せるかどうか。これから始まる『都市対抗バトルロイヤル』で優勝するために、私たちは初心者なりに案を出し合った。実戦でやってみなくちゃわからないことだってあるけれど、何も考えずに戦場へゴーゴーしちゃうよりはマシっしょ。


「検証の結果、四方谷さんは『いくら召喚獣を呼び出してもMPが減らない』と判明しました」

「大天才だからな」


 ドヤァ。

 桜並木の下で誇らしげな顔の五歳児。


「すごいぞ拾肆ちゃーん。我が妹よー!」

「妹じゃねェから!」


 抱きつこうとしたら回避されちった。妹になってくれないかあ。ちくせう。いいと思うんだけどなーあ。


「つれないなぁ」

「あたしの姉も妹もみんな死んじゃったから」

「突然ヘビーなネタをぶっ込んでくるじゃーん……おお、かわいそかわいそな拾肆ちゃん……私がニューおねえちゃんだ……!」

「ちげェだろ」


 私たちは今、和風都市ショウザンを訪れている。携帯端末に創くんから「イベントにはエントリーした?」という確認のメッセージが届いたので、この街のギルドのに向かっていた。私はこのイベントが終わったら元の世界に帰るもんで、ギルドみたいなところには所属する気はないよーん。こういうゲームのこういういわゆるガチ勢が集まるところ、長くゲームを続けるんなら入ったほうがいいんだろうけどさーあ。


「なあユニ、あと一人はどうすんのさ」


 そうよね。気になるわよね。これからエントリーする『都市対抗バトルロイヤル』イベントは4人一組で参加しないといけない。今いるパーティーメンバーは〝忍者〟のユニちゃんと〝聖者〟のタクミさんと〝隠者〟の拾肆ちゃんの3人。一人足りない。それでも私は「大丈夫イブイビクトリー!」とブイサイン付きで返しちゃう。


「創くんが『三人でもエントリーできるようになんとかするね』って言ってるから、なんだかよしなにしてくれるっぽい」

「簡単にルールをねじ曲げてくれんな」


 拾肆ちゃんが呆れたようなコメントをくれる。ゲームマスターなんてそういうもんでしょー。知らんけど。そもそも論としてこの『都市対抗バトルロイヤル』イベントは各都市のランキングトップなギルドしか出場できないらしいじゃーん?

 そんなイベントに飛び入り参戦している私たちがおかしいっちゃおかしい。一人分のハンデがあっても致し方なしってかーんじ。ハンデっていうかなんていうか。


「二人はここで待っててちょ」


 そんなわけでエントリーはそれぞれのギルドが所属している都市のギルド本部で行うものっぽい。本来は。都市だもんね。

 私たちが一番近い陽光都市ではなく和風都市まで足を伸ばしたのは、これもまた創くんのメッセージのせいだ。


 なんでも和風都市に〝転生者〟がいるんだとか!

 創くんのほうからあっちに連絡して、ギルド本部で落ち合う約束を取り付けてくれたとか!


 京壱くん!


 はっきりと京壱くんと言わずに〝転生者〟とぼかす辺り、創くんも意地が悪い。最近会ったちびっ子、素直じゃない子ばっかりだなーあ。あ、創くんと拾肆ちゃんのことね。二人とも性格に難があるような。そーゆーとこがどっちも可愛いっちゃあ可愛いとも言えちゃう。


「あたし、行きたいとこあんだけど」

「そかそか。ならタクミさんと行ってきて」

「俺はユニについて行きたいんだけどさ」

「なんでぇ? 拾肆ちゃんを一人にすんのー?」


 これから京壱くんと再会できるのにさーあ。

 隣にタクミさんがいたら京壱くんになんて言われるかわかったもんじゃないよ。


「あたしは一人でいいよ」

「強がっちゃってもー」

「四方谷さんの行きたいところって?」

「温泉まんじゅう屋さん」


 クリームよりあんこ派かな。洋菓子より和菓子のほうが好きみたいな的な。見た目によらず渋い趣味をお持ちで?


「俺は甘いものは控えるようにと言いましたよね」


 あら、怒っていらっしゃる。育ち盛りの五歳児になんて酷なことを言うの。これぐらいの年齢の子は、好きなものを好きなだけ食べていっぱい遊んで大きくなるのよん。


「だって……」

「オルタネーターは人間と違って、過剰に糖分を摂取すると体内で分解しきれ「うるせー!」


 おる……なんだって?

 聞き返そうとしたら拾肆ちゃんが走って行っちゃった。とてっててってって。本人なりに一生懸命走っていそうなフォームなのに、全然速くない。そのギャップがおかしくて笑っちゃいそうになる。笑えるシーンじゃないのにねん。


「すねちゃったっぽい」

「放っておくと温泉まんじゅうやけ食いされそうなんで、……まったくもう、何が大天才だよ……」


 ため息をついているタクミさんの背中を「保護者さんよろしくねー」と押し出す。渋々と後ろを追いかけていくタクミさん。


 これで邪魔者はいなくなったよん。

 よっしゃいくで。首を洗って待ってろよ京壱くん! ……いや、首を洗ってはおかしいな。こういう時、なんて言えばいいかわからないの。


 あれから一年!


 みんなが京壱くんのことを忘れても、私は覚えている。

 京壱くんの家族よりもずっと、私は想っている。


 開け放った扉の向こう側に、京壱くんと――


「初めまして!」


 誰よこの女!?

 敵意ゼロのニッコニコな人懐っこい笑みで、私の手を握ってくる黒髪赤目のまごうことなき美少女。アニメのメインヒロイン級の可愛さ。ドチラサマデショウカ。あのあのあのあの。京壱くんとはどういったご関係? 京壱くんと二人で私を待っていたってこと? なーんでー?


「わたしはカイリです! わー! すっごいセクシーですね! 忍者さん!」


 うーん?


 初対面なのに馴れ馴れしいぞこの子! カイリちゃんっていうのねオッケー名前は把握したわ。でもねカイリちゃん。ちょっとどいて。京壱くんに用事があるの。そんなにジロジロ見ないでよ。この格好にも慣れてきたところでそーゆー目で見られると意識しちゃうじゃーん。


「京壱くん!」


 私が名前を呼ぶと、京壱くんはビクッと飛び上がった。その名前を呼ばれるとは思っていなかった、全くの予想外だ、そんなかーんじ?

 この私が京壱くんの名前を忘れるわけがないじゃなーい。


「お知り合いなんですね!」


 そらそうよ。私と京壱くんは、それこそ前世からの仲なんだから。まさにそう。前世からの許嫁ってわけよん。だから! どーゆー繋がりなのかは存じ上げませんけども! カイリちゃんには渡さないんだからねっ!


「知らない……」


 今なんて?


「……えっと、どちら様でいらっしゃる? なんでボクの本名を知ってんの?」


 あー、おっけおっけ。そういうボケね理解した。理解理解。


「気まずくなりましたねレモン先輩」

「カイリ、コソコソ話をするときはもっと声のトーンを下げて」


 もう一人いるじゃーん。影が薄くて気付かなかった。カイリちゃんは私より見た目年下っぽいけども、もう一人の子は……大学生っぽい。一つに束ねている髪は、伸ばしているというよりは美容室に行くのがめんどくて伸ばしっぱなしにしているっぽいかーんじ。

 おとなしそうだけどしっかりしてそう、――ああ、あれだ、物事を頼まれたら断れなさそうな優等生タイプの子。クラスで目立つグループには入ってないけどそこそこ可愛いってモテそうな? モテそうなのに告白されるところまではいかないみたいな?


「京壱くん、私だよ!」

「と言われましても!」


 ガチ?

 ガチで言っていらっしゃる……?


弐瓶柚二にへいゆに!」


 しゃあなしで名乗っても、京壱くんはピンときていない。困ったように視線をカイリちゃんらの方に向けている。そんなバカな。私と京壱くんとが過ごした時間はどこに消えてしまったのよ。


 ねえ!


「覚えてないわけがないよね?」


 幼馴染で、家はお隣で、幼稚園からずっと、同じものにハマって同じものを学んできた私と京壱くん。親同士も仲良くて、家族ぐるみでバーベキューしたり花火したり。これまで同じ道を歩んできたのに、どうして、何がどうすれば忘れることができるっていうの?


「やめてください!」


 え、何?


「ちょ、カイリ」

「ギルドメンバーがいじめられているのを放っておけません! わたしはユートピアのリーダーとして、止めます!」


 影薄子の制止を振り払い、私と京壱くんの間に割って入るカイリちゃん。カイリちゃんから見るといじめているように見えるんだね。そうなんだ。京壱くんが覚えてないのが悪いのになーあ。カイリちゃんはリーダー。そうなのねん。なら、いっか。


「頑張って思い出そうと努力しているけど、……ボクはどうしてもキミのことを思い出せない。ごめん」


 頭を下げてくる京壱くん。


「廃人ゲーマーだったのにこんな可愛い知り合いがいたなんてびっくり」

「ですよね! キャラ崩壊もいいところです!」


 めっちゃ言うじゃんこの人たち。

 この人たちから京壱くんを取り返さなきゃ……!


 思い出して!

 二人で現実の世界に帰るのよ!

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