第5話


 モンスターを倒して経験値をゲットしてレベルアップしよう! レベルを上げて物理で殴るのがジャスティス! ってなとこで、陽光都市パスカルからプラトン砂漠へ移動した。砂漠なのに暑くないない。拾肆ちゃんは「あちぃ」っぽくて長袖を腕まくりしている。

 私やタクミさんは〝転生〟だから一度死んでいるわけで、そのぶん、そういう暑いだの寒いだのの感覚がなくなっちゃってて。創くんがゲームマスターとしてアバターを作った時にゲーム内の環境に合わせてくれているっぽい。


「クーラードリンク飲まなきゃいけないやーつ」

「結構詳しいよな。ゲーマーだった?」

「京壱くんがやっているんなら私もやりたいじゃーん?」

「そういうもん?」

「例えばさーあ、『何とかドラゴンってモンスターが倒せない』って話してたとして、なーんも言えないよりは『そのモンスターは水属性の武器に弱いよーん』ってアドバイスできたほうがよくなーい?」


 これに対する拾肆ちゃんの「自分で試行錯誤して倒したほうが達成感あんじゃね?」という言葉に、ふと考えてしまう。


 そうかな?

 そうなのかな……。


 私はただ、京壱くんの困っている顔を見たくないから。私が解決法を知っていることなら、その解決法を伝えて、助けたかっただけで。だって、京壱くんも「ありがとう」って言ってくれてたし。悪いことはしていない、はず。


 口籠る私の前で「四方谷さんといえばですね」と、タクミさんは拾肆ちゃんの頭を撫でた。


「あたしは大天才だから、自分で解決できちまうんだな」

「はいはい大天才大天才」


 拾肆ちゃんは〝転生〟じゃなくて〝転移〟してきたんだとか。つまりまだ生きている状態っぽい。見た目には〝転生〟と〝転移〟とそうは変わらなく見えるけども、暑さ寒さは感じるっぽい。やっぱりクーラードリンクは必要なんじゃなーい?


「それ、バカにしてるみたいだからやめろって前から言ってんだろ」

「してませんよ」

「ほんと?」

「四方谷さんが大天才なのは〝時空転移装置〟で〝転移〟を成功させた事実が証明してくれてますって」

「そうでなくとも研究施設にいた頃からあたしは大天才だったろ」


 元いた20XX年の世界から〝時空転移装置〟を使用したらこの『Transport Gaming Xanadu』の世界に来たんだって。未来ってそーゆーものもあんのねん。


「あの〝時空転移装置〟の開発にはユニも関わってるんだけどさ」

「私?」


 私が私を指差すと、拾肆ちゃんが「完成させたのは大天才のあたしだろ」と主張してきた。未来の私、そんなものを作るプロジェクトに携わっちゃうなんて……ひょっとしてひょっとしなくとも天才かー?


「本当にユニのこと覚えてない?」

「あん中にコレいたら忘れねェよ」


 コレ扱いされちゃった。しょげる。


「……まあ、覚えてないほうがいいか」


 むむっ。聞き捨てならぬぞ。言いたいことがあるんならはっきり言ってくれたまえよタクミさん。その顔は何の顔? 諦念?


「京壱くんという存在がありながらタクミさんと付き合っちゃって、拾肆ちゃんの使った〝時空転移装置〟の開発の場にもいる未来の私って、どんな人?」


 タクミさんに訊いてみる。拾肆ちゃんは覚えてないの一点張りだもん。二人の間に記憶の差異があるのは、なんだろう、これもまた〝転生〟と〝転移〟との違いなのかな。


「どんな人か。過去のユニに話したら、未来はどれぐらい変わるんだろう」

「言いたくなかったらいいよーん」


 どうせ来る未来だから。時間がそれなりに経てばその未来に辿り着くのなら、聞いても聞かなくとも同じっちゃあ同じかな。って気持ちもあるにはあるけど、聞けるんなら聞いておきたくなーい?


「ユニは、アンゴルモアの〝コズミックパワー〟を利用してこの『Transport Gaming Xanadu』の世界に来るために〝時空転移装置〟の開発を始める」


 ????????????


「ごめん……ちょっといやだいぶワカラナイ。一個ずつ説明してほしいかな」


 知らない単語から入るのやめーや。アンゴルモアって? それに〝コズミックパワー〟? もう一度ってのも気になる。私が『都市対抗バトルロイヤル』を勝ち進んで優勝して京壱くんと元の世界に戻ってるんなら、もう一度こっちに来る必要なんてないじゃーん?

 拾肆ちゃんにはわかるらしくて「侵略者の力を逆に活用するのは、大天才たるあたしと同じ発想だな」と頷いている。


「20XX年の未来は宇宙からやってきたアンゴルモアが地球を侵略していて、その〝コズミックパワー〟で怪物を〝転移〟させて街を破壊している」

「サメ?」

「なんでサメ限定?」

「ナンデモナイデス。キカナカッタコトニ」


 うーん、映画かな?

 モンスターパニック系のその手のやーつ。


「大天才のあたしがメインクエストを攻略できれば、創はアンゴルモアを【抹消】してくれるんだとよ」

「さっきもそれ聞いたんですけど、できんのそれ。俺は半信半疑ですよ」

「創の力を信じろって」


 現実味のない話をしていらっしゃる。20XX年のXX年がいったい何年後なのか存じ上げませぬが、というか〝時空転移装置〟なんて現代には無理っぽそうなものが出来上がっているからかなり未来なのかな。

 でも私が生きているっぽい。27歳のタクミさんと付き合っているってんならそれなりに元気っぽい?


 何もわからーん。

 わからん殺しされそう。


「ユニがついていけてない顔してる」

「ついていけてないよーん」

「まあ、17歳のユニの転生前の世界は平和だったんだろうし、想像つかなくても無理ないな」

「あんごるもあってのも来てないしねん」

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