第4話
この広いTransport Gaming Xanaduの世界に、必ず京壱くんはいる。ゲームマスターの創くんがそう言っていたのだから間違いない。そうでないと私が死んだ意味がない。わざわざ転生してきたのにいないわけないじゃんじゃーん?
問題はどうやって捜すか。
「人探しといえば、地道なチラシ配りと声かけ運動!」
勇み足で紙と鉛筆が売っていそうな売店に向かおうとしたら大天才を自称する五歳児・拾肆ちゃんから「効率わっる」とマジレスされちゃった。
「そんなら、20XX年ではどうしてた?」
「人探し?」
「人だけじゃなく、ほら、家の中で飼っていたネコちゃんがおうちから飛び出しちゃって帰ってこなかったら心配でしょーん?」
「ペットを飼ったことがねェからな」
「拾肆ちゃんが飼っていたか飼っていなかったかじゃなくて、うーん……例えば……タクミさんが連絡なく失踪したら困らなーい?」
「怪物にやられたんじゃね」
「勝手に殺さないでもらえます?」
怪物ってなーに?
「一色京壱を探す前に、四方谷さんとユニにはレベリングしてほしいなと思うわけですが」
「あたしも?」
私が20XX年という未来の世界に思いを馳せる時間を与えてくれない。
「探す前にって、どーして?」
「あと一週間しかないのに、あちこちの都市でビラ配ってたら勝てるバトルにも勝てないんで。ビラ配りで経験値が入るなら俺も文句ないけどさ。確実に一色京壱へたどり着けるとは限らないんなら、その時間ぶん狩場に張り付いたほうがいい」
一理ある。京壱くんには会いたいけれど、会えたとしても会えなかったとしても『都市対抗バトルロイヤル』イベントには優勝しないといけない。必須条件。他の参加者だって、1周年を記念したイベントだもの、マジのガチで勝ちにくるはず。初代チャンプってかーんじ?
こういうゲームだからレベルは高いに越したことはないだろう。レベル1の私は黙っちゃう。
でも、ひとつだけ文句を言ってもいい? いいよー?
――このパーティー、効率厨しかおらん?
「あたしのSAAをぶっ放せばおしまいだろ?」
「弾数が有限なら、メインクエストの敵のためにとっておくべきでしょうよ」
「なら、参宮が全員ぶっ潰せ」
「できたらそうしたいところですが……」
タクミさんはポケットからカードケースを取り出した。その中に収まっているカードデッキを束ごと引っ張り出すと、一枚ずつカードをめくってフレーバーテキストを確認している。
「何のカード?」
現実世界のトレーディングカードっぽい。大きさも厚さもそんな感じ。
小学生の頃にアニメが流行って、クラスのみんながあーでもないこーでもないってデッキを組んで、京壱くんももちろんどハマりして、私は京壱くんの話についていくためにカードを買ったりルールを覚えたりしたのを思い出す。かわいいイラストのカードもあったけど、強いカードはドラゴンだとか何エルとかみたいなイカつくてかっこいいカードが多かった。
あのカード、今どこに行っちゃったっけ。捨てた記憶はないから、家のどこかにあるかな。
「ゲームマスターから受け取った。俺の専用装備らしくて、使うとなくなる」
すんごい枚数あるからなくなりそうにはない。カードデッキって30枚だとか40枚だとかそれぐらいだった気がするんだけど、その倍……以上……ありそう。
「すげぇあんじゃん」
「うんうん」
タクミさんは一枚の青いカードをつまんで見せてくれる。
カードの上部には《複製》の文字。
「最初は各絵柄が3枚ずつしかなかったけど、このカードを増やしたいカードへ重ねると3枚に増やせることに気がついてさ」
デッキの中から《取得経験値倍増》の赤いカードを選んで、その赤いカードに《複製》の青いカードを重ねる。
瞬く間に《複製》の青いカードが見えなくなって《取得経験値倍増》の赤いカードに変化した。
「ほら」
重なったカードをタクミさんがずらしていくと《取得経験値倍増》の赤いカードが3枚に増えている。手品みたい。これって、魔法のランプを擦って出てきた「願いを叶えてくれる」ランプの魔神に「叶えてくれる願いの数を増やしてほしい」と願っているようなものかな?
「俺は《複製》のカードを《複製》で増やしてから、レベルキャップに到達するまでに必要な経験値を計算して《取得経験値倍増》を」
「これをあたしが使えばいいんだな?」
タクミさんの説明を阻むように、拾肆ちゃんが《取得経験値倍増》の赤いカードをひったくる。なるほどなーあ。いわゆる〝転生モノ〟のチートスキルってやーつ?
「……まあ、使えたらですが」
「どうやって使うんだ?」
「カードをおでこに貼り付けて」
「こう?」
言われた通りにおでこにペチャっと貼り付けようとする拾肆ちゃん。粘着テープが裏についているわけでもあるまいて、ハラハラとカードが落ちていく。しゃがんで拾って、懲りずにまたくっつけようとする五歳児。
「落ちるじゃねェか」
「まあ、冗談なんですが」
「おい! ふざけてんのか!」
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