Zero-Sum Game supported by TGX 〜Season3 another side〜
秋乃晃
第1話
トンネルを抜けるとそこは異世界だった。
雪国だったら日本人なら知らない人はいないレベルの名作の書き出しだったのにね。でも私、こういう朝焼けに照らされた街並み、好きだよ。なんだか「旅立ちの朝!」ってかーんじ?
私は創くんからもらった巻物チックな巻き取り式の携帯端末の画面をグイッと引っ張って、現在位置を確認する。どうやら〝陽光都市パスカル〟っていうところにいるっぽい。
にしても、この格好、浮いてないかな。
周りの人たち、西洋風な甲冑を着込んでいたり寒くもないのにセーターだったりポンチョを被っていたり。街もどっちかってーとジャパンじゃなくてヨーロッパっぽい。行ったことはないからテレビで見知った情報だけど、おフランスっぽい?
そんな中で私だけ忍者の装束だよ。創くんは「似合ってるね」って言ってたからそんなもんかーと思ったんだけど、江戸時代あたりからエッフェル塔付近にタイムスリップしてきたクノイチだよこれぇ。通行人の方々はスルーしてくれているっぽいから、気にしているのは私だけだけどさーあ。ニンニン。
「私と一緒に、パーティーを組んでくれる強くて優しい女の子はいませんかー!」
私は両手でメガホンを作って、周囲に呼びかけてみる。足を止めて私のほうを見てくれる人がいたので、目を合わせるとプイッと視線を逸らされてしまった。世知辛い。これが現代ニッポン。背景はおフランスでも動いている人たちは日本からアクセスしているプレイヤーが多いものね。お高く気取って装っていても心までは着飾れない。
やれやれ。
私――
・京壱くんと一緒にこの世界から現実世界に戻る。
・『都市対抗バトルロイヤル』イベントで優勝する。
・京壱くんを捜索する。
・イベントには一人では参加できないから、ともに戦ってくれそうな仲間をあと三人集める(できれば女の子)。
・京壱くんと再会する。
・イベントで勝ち残るために自分自身が強くなる。
・京壱くんとチームを組むのが理想だけど……。
イベントのスタートまでは一週間ある。
まだ一週間、されど一週間。
動かなければ時間なんてあっという間に過ぎてしまう。
創くん曰く、私は転生者っていう、このゲームの中でも特殊な立ち位置にいるっぽい。ジョブは〝忍者〟で、他の(普通にゲームにアクセスしている)一般プレイヤーからは〝シーフ〟として見られているっぽい。だからシーフとしてのスキルも使えるけれど、〝忍者〟だから忍術っぽいこともできるっぽい。
印の一覧は携帯端末から確認できるっていうから見てみたけどさーあ。これ全部覚えないといけないのかな。無限にスクロールしていけるぐらいある。とりあえず実用的なのは覚えよう。姿を隠せるやつとか、空を飛べるやつとか。
物は試しってやーつ。
足元に携帯端末を置いて、見やすいように大きめに表示させておく。見よう見まねで印を結んで「隠れ身の術! ドロンにござる!」と叫んでみた。マニュアルにも『恥ずかしがらないこと!』と明記されているので、他のプレイヤーに聞こえてようがお構いな……ごめん、恥ずかしい。
すると「る!」のところで足の指先から白煙が立ち昇って、私の身体を包み込んでいく。
こーれは成功しちゃったかーあ?
一回目から成功だなんてもしかして私ってば忍者の才能がおありでございます?
私が知らないだけで前世は忍者でした?
自分の姿がほんっとーに他のプレイヤーから見えていないかどうかを確かめたい。
自分ではどうなっているのかわからないし、街中に都合よく鏡っぽいものが置いてあるわけでもないし。
私は携帯端末を拾い上げると街中で行列のできている場所まで歩いていく。携帯端末によればここは〝初心者ミッション〟のクエストが受注できるところ。今まさに行列の先頭の人がコック帽を被ったブルドッグさんに話しかけていた。――これだけ並んでいるのを見ると、私もセオリー通りに〝初心者ミッション〟からクリアしていったほうがいいのかな、だなんて考えてしまう。
MMORPGって人気なのね。こんなにプレイヤーが動き回っている。京壱くんがこのゲームを始めていなければ知ることのなかった世界。
今の私は他のプレイヤーからは見えない状態になっているから、前の方に割り込んでもだーれも咎めないはず!
おぬしもわるよのう!
「こら! チキン!」
「フォー! フォフォフォフォ! フォー!」
「暴れんじゃあない!」
「フォフォフォ!」
なんだか空が騒がしい。
見上げた先でおっきな鷹が飛んでいる。その背中の上には紫色のツインテールな女の子と黒とオレンジのツートンカラーなおにいさんが掴まっていて、鷹は縦横無尽にあっちへ行ったりこっちへ行ったり。上に乗っている二人をなんとかして振り落とそうとしているような?
「チキン、『重たい』って言ってる!」
「四方谷さんこいつの言葉わかるんですか!?」
「参宮にはわかんねェか!」
「わかるんだったら『真っ直ぐ飛べ』って鷹語で伝えてやってくださいよ!」
「フォフォフォ! フォー!」
旋回が一回、二回、三回。
「「わあああああああああああ!」」
悲鳴ののち、とうとう限界が来てしまったのかボチャーン! と二人仲良く噴水に落下した。
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