第2話


 私は列から離れて、噴水のほうに駆け寄った。空から落ちてきた二人組のほうが〝初心者ミッション〟よりも面白そうじゃーん?

 私の恩師は教壇で「好奇心が世界を変える」と授業のたびに語っていたものだ。そうさ、今こそアドベンチャー!


「死ぬかと思ったじゃねェかよチキン! 消えんの早いんだよ! 次出した時ぶん殴るからな!」


 それなりの高さから落ちたにもかかわらず、二人は自力で噴水から脱出するとそのまま石畳の上に倒れ込んだ。女の子は仰向けに大の字となって悪態をつき、おにいさんは這うような体勢で口を右手で覆っている。吐きそうなのかも。可哀想。無事ではないが致命傷というほどでもない様子。ただものじゃない。普通なら死んでる。忍者には回復魔法ないっぽいから何もできないわ。めーんご。


 女の子のほうは長袖のトレーナーやチノパンがずぶ濡れで、履き慣らされたスニーカーも色が変わっちゃってるほどなのに、おにいさんのほうは一切濡れていない。不思議。不思議だから、この二人のステータスを見てみよう。


 ええと、創くんに言われたように……この携帯端末の外カメラでまずは女の子にフォーカスを合わせてっと……。


 あなた拾肆じゅうしちゃんっていうのね!

 初見では読めない。これっていわゆるキラキラネームってやーつ?


 京壱くんに指輪を渡したのが、五歳の頃だった気がする。こんなにちっちゃかったんだなあ私も。ふふふ。


 ご職業は〝隠者〟か。ご隠居なされるような年齢ではないのになーあ。むしろここから修行を積み重ねて本格化するってかーんじ?

 なんか〝隠者〟が一般プレイヤーから〝サマナー〟として見られんの、言葉同士が結びついてなくて混乱しちゃいそう。サモンにerだからサモナーじゃないんね。

 レベルは5。5かあ。5だからさっきの鷹が言うこと聞いてくれていなかったのかな。


「げっ」

「どうした?」

「……俺の見間違いかな。そうであってほしいな」

「あのニンジャ?」


 おにいさんのほうはタクミって名前なのねん。27歳。ふんふん。ご職業は〝聖者〟かあ。ほうほう。なるほど〝テイマー〟ねえ……テイムにer……手懐ける人が〝聖者〟って毒入ってなーい? 風刺?

 私の〝忍者〟は装束に着替えさせられたけど、そっちの〝聖者〟はえんじ色のフード付きのマントにジーンズなんだね。全然っぽくないじゃーん。なんでなん。


「四方谷さん、覚えてません?」

「は?」


 レベルは――500!?

 えっ、500がレベル上限じゃなかったでしたっけえ? 調べよ。冒険の手引きを開いて検索検索ぅ。


 やっぱりそうじゃーん。


「研究施設にいたじゃあないですか」

オルタネーターあたしたちの他に女がいたのかよ」


 この二人組の関係性って何。顔は似てないし、身長差は二倍ぐらいあるし。親子で、拾肆ちゃんが圧倒的な母親似だとかそんなことある?


「言い方」

「間違ってねェだろうが」

「本当に覚えてないんですか?」

「女の研究員、見たことねェし。第四世代で大天才のあたしが忘れるわけが」


 そうだよな、と呟いたおにいさんが立ち上がって、こっちに来た。

 やりとりを覗き見していたのがバレちゃったかー?


「なあ、ユニ」

「ほわっつ? アナタ、私シラナイ」


 しまった。あからさまに眉をひそめられる。カタコトになっちゃった。おんなじ転生者だし、創くんに教わった通り、携帯端末のカメラを通してステータス画面が見られる。それで名前を特定したならまだしも、そんな様子は一切なくて、しかも「げっ」って言ってたしさーあ?

 こんな背の高いおにいさん、一度会ったら忘れないと思うんだけどなーあ。


「今いくつ?」


 初対面で年齢を聞くやつがあるか。

 ムキーっとキレちゃおうとしたら代わりに「やっぱ助手ってクソだわ」と拾肆ちゃんがタクミさんをどついてくれた。


「聞かなくても見りゃあいいだろこれで」


 かわいい刺繍の入った巾着から携帯端末を取り出す――こっちはスマホみたいな形をしている――と、拾肆ちゃんが私を写す。ピースしとこっかな。イェイイェイ。


「17歳?」

「そうだよーん」


 私が答えると「なるほど? 異世界に転移しただけじゃなく過去の時間軸に飛んでるのか。まあ、そうだよ」と意味不明なことを言ってくるタクミさん。


「俺の知っているユニも『忍者やってた』って言ってたしな。辻褄は合う」

「あたしは知らん」

「四方谷さんが覚えてない問題は一旦置いといて……いや、待てよ、……まあ、いいや」

「言いたいことがあんなら言えよ」

「会ってしまったもんは仕方ないですからね」


 仲は良さそう。27歳と5歳なら親子でもありうるけどさーあ。拾肆ちゃんのことを四方谷さんって呼んでんのが引っかかる。敬語だしね。


「ユニはこれから『都市対抗バトルロイヤル』に参加しないといけない」

「ざっつらいと。その通りでーす」

「優勝しないといけない」

「おふこーす!」


 おうおう。

 私が言うまでもなく知ってんじゃーん?


 こうきたら!

 次は!


「俺たちと組もう」

「よろ「待てよ!」


 よろしくお願いしまーす! しようとしたのに拾肆ちゃんに割り込まれた。

 私じゃダメ? 忍術使えるよ? ニンニン。


「あたしたちはメインクエストを続けなきゃなんねェのに寄り道してられっか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る