後日談 3(最終話)
今から数年前に他所へ引っ越しまして、おじさんのいた部屋も現在は空き部屋になっています。引っ越す半年ほど前からでしょうか、ちょっとした奇行が目に付くようになりました。アパートの周りをウロウロしたり、縁の下や階段の下の物陰を、落とし物でも探すかのように身を屈めて覗き込む様子を何度も見掛けたんです。特に実害はありませんし、当時はあまり気にしませんでした。
仮にです。おじさんが何かを探していたとしたら、何でしょう?
自分は猫ではないかと思います。隣のお婆ちゃんが生前飼っていたキジトラです。お寺に連れて行くと言っていましたが、途中で逃げ出しとか? でも、あれだけ懐いていた猫が全く姿を見せなくなりましたので、おじさんはちゃんとお寺に連れて行ったのだと思います。とすると……?
ここからは完全な想像と、不確かな話になります。真実とは限りません。
もしかしたら、おじさんの所にも、お婆ちゃんの霊が訪れた可能性はないでしょうか。そして「猫はどこに行った?」と尋ねた。そのままおじさんの体を借りて、猫を探し求めて彷徨っていたとか?
昔の事で記憶が曖昧ですが、おじさんが自分の部屋の縁の下を覗いている場面に遭遇した事があります。懐中電灯ではなくマッチを擦って、その小さな灯りで。「何かお探しですか?」と声を掛けても、「いやいや……」とだけ言い残して部屋に戻ってしまいました。まさか放火という事はないでしょうが、ものすごく不審に思いました。電車の時間がありましたから、自分はドアに鍵を掛けて足早に出掛けました。その時、横目で見えたおじさんの動き。今思い出すと、すぐ隣の空き部屋に入って行ったような気がするんです。一つ向こうのおじさんの部屋ではなく……
最近立て続けに起きた怪奇現象は、もしかしたら行方不明の猫を探し続ける、お婆ちゃんの地縛霊なのかも知れません。
【朗読あり】隣の空き部屋 後日談 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro
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