第21話
蓋の開いていたビールの缶は中身を撒き散らしながらアスファルトに落下して、むせるような匂いを充満させた。
「ちょっと調べたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
亮一が銃口を明宏へ向ける。
明宏は背中に冷や汗が流れるのを感じたけれど、逃げなかった。
グッと両足を踏ん張って地面に立つ。
「答えろよ」
大輔がバッドを構え、亮一は銃口に指をかけた。
「俺たちのすることがそんなに気に入らないのなら、お前らも俺たちを差別してきた人間と同じだ」
亮一が凍りつくような冷たい声で言う。
「それなら容赦する必要はないよね」
智子がニヤリと笑い、バッグの中からロープを取り出した……。
☆☆☆
それから何時間が経過しただろうか?
体中に痛みを感じて目を開けると、外はまだ暗かった。
手足の自由がきかずに自分の体を確認してみると、ロープでグルグル巻にされていることがわかった。
佳奈だけじゃない。
春香も大輔も明宏も同じようにロープで巻かれて地面に転がされている。
バッドと猟銃でははやり分が悪すぎた。
どれだけ大輔が力の限りを尽くしても、猟銃を一発空に放たれた瞬間から勝敗はあったのだ。
それに智子たちは化け物を拘束して拷問を行うことを好んでいる。
そういう武器に関しても用意周到だった。
距離を詰められてスタンガンを押し付けられた佳奈はそのまま意識を失ってしまったのだった。
電圧はきっと最大にしてあったに違いない。
スタンガンを押し当てられた首元はまだビリビリとしびれていて、焼けた感覚もある。
「やっと起きたの?」
智子の声に顔を向けると、ビニールシートの上に転がる黒い化け物に気が付いた。
化け物も自分たちと同じように拘束されていて、すでに四肢が切断されている状態だった。
「これを解いて!」
叫んでじたばたもがいてみても、ロープは緩まない。
声も枯れていてほとんど出なかった。
「うん、解いてあげる。だけどもう少し待ってね?」
智子はそう言うと腕時計を確認した。
そうだ、今は何時だろう?
「時間を教えてくれ!」
明宏が叫ぶ。
他の2人もすでに意識を取り戻したみたいだ。
「時間? 時間はねぇ……」
智子が時計から視線を外してニヤリと笑う。
その笑みに背中がゾクリと寒くなった。
智子の視線が空へ向かう。
佳奈はつられるようにして視線を向ける。
丘の向こうから光が上がってきているのが見えた。
嘘でしょ。
もう夜明け!?
大きく息を飲んで、そのまま呼吸を忘れてしまう。
「くそっ! まだ上がるな!!」
大輔が太陽へ向けて叫ぶ。
しかし太陽は容赦なく街を照らし始める。
光が佳奈たちの元まで届くのに、数分しかかからなかった。
その光は首無し地蔵も照らし……5体目の首がついていた。
石化した一生の顔が、しっかりと目を閉じてそこにある。
あ――。
佳奈も春香も大輔も明宏も、みんな言葉がでなかった。
今まで地蔵に首がつかないように必死に頑張ってきた。
途中からこの街を壊滅から守るという目的に切り替わったけれど、慎也と美樹のことだってある。
それなのに……。
「これで終わりだね」
智子は5体の首を見つめて、うっとりとした声でつぶやいたのだった。
首取り様4へつづく
首取り様3 西羽咲 花月 @katsuki03
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