何に祈った？

何に祈った？

　中学の帰り道の途中、森みたいになってるとこがあって、木でできた祠みたいな箱が置いてあってさ。しめ縄っていうのかな、白い紙の飾りのついたロープが巻いてあって、扉は閉まってるんだけど、古い湯呑みとカップ酒みたいなお供えが置かれてて、よく花とかも交換してあって、だからお地蔵さんとかお稲荷さんみたいなものが中にあるんだろうなって勝手に思ってた。

　中二の夏休み前の試験の時、担任が内申だの受験だのうるさく言い始めた時期だったから、通りすがりに祠の前で立ち止まって、せっかくだからと柏手打って、願い事をしたんだよ。試験で良い点が取れますように、って。

　で、試験終わりにクラスのやつらとファミレスに入って山盛りポテトを頼んで雑談してる時に、話したわけ。俺今回のテスト余裕だわ、坂の下の祠にお祈りしたからさ、って。

　そしたら、いっしょにいたクラスのやつの一人が、いきなり立ち上がって。何？　って思って見たら、もう、顔がすげえの、真っ青で、ひきつってて。

　そいつ、俺にこう言ったんだよ。

「お前、祈ったのか？　本当か？　本当に？」

　なんかもう、雰囲気がやばくて、俺、うなずくことしかできなかった。そしたら、そいつ、ガッと俺の腕を掴んで「何に祈ったんだ、あの祠の中には何もないのに！」って言うんだよ。

　後になって色々聞いたんだけどさ。

　まずそのクラスのやつだけど、地元の地主の一族で、あちこちのマンションとかもそいつんとこのらしくて、まあとにかく金持ちなんだと。

　で、例の祠ってのがそいつの家の土地に建っててさ。

　しかもその祠、空っぽって言っただろ、昔は中にお地蔵様だか何かがちゃんと入ってたんだって。でも、何かがあって、地主の一族がそれを土に埋めちゃって、でも祠だけは壊さずにずっと残してあるんだって。

　お地蔵さんって、普通、大事にするもんだよな。なんで埋めたんだろうな。そんなことしてバチ当たんないのかな。埋めた理由、知りたいけど、怖くて聞けなくてさ。

　たぶん聞いちゃいけないんだろうなって雰囲気だったから、俺もそれっきり。元々そんな仲良いわけでもなかったし、まあ、掘り返したい話題でもなかったし。

　その後？　とくに何もないよ、変わったことは何も起こらなかったし、テストの点はどっちかといえば普段よりひどかったし。そのクラスのやつとも高校で別れて、それっきりだし。

　でも、あれから１０年以上経って、俺の地元もかなり様変わりしてさ。駅が再開発されて、マンションとショッピングモールがぼんぼん建って、おしゃれで住みたい人気の街トップ10とかに毎年名前が載るようになったんだよ。

　でも、あの坂の下の祠がある付近は、今も放置されたみたいに木が茂って、森みたいなままだ。昼間でも暗くって、夏場はまあ涼しくていいんだけど、俺は何となくあそこには近付きたくない。

　あそこ、何なんだろうな。埋められたお地蔵さんって、何だったんだろうな。考えたくないし思い出したくないけど、でもたまに、やけに気になる時があるんだよな。