第11話 ハーミットクラブ攻略戦(後編)

”ビュドオオオ!!””ビュドオオオ!!”


前後左右、ありとあらゆるところから、ハーミットクラブの水砲が襲い掛かる。


”パンッ”


投擲の針で迎撃するものの、あまりの数に対応しきれない。


向こう岸までの距離、残り50メートルで始まった攻防戦は半分も進んだ所で、完全に硬直状態となった。


「クッソ滑る!!跳躍もろくにできねえ!!」


周辺の岩場は水泡による影響で水に濡れ、着地時や跳躍時に足を取られる。


スポットブーストや風による姿勢制御が無ければ、とっくの昔に水砲の餌食となっていただろう。


(これじゃあジリ貧だ!何とか避けられちゃあいるが、岸まで一向に近づけねえ!)


投擲による攻撃で少しずつ数を減らせてはいるが、大きく離脱ができない現状では、ダメージ量の足りない個体も続けて攻撃に参加してくる。


(一瞬でいい!あそこにさえ辿り着きゃあ、ハーミットクラブの水砲を撃ち消せる。)


ダンジョンの特性を聞いた時に浮かんだ思い付き、それを試そうと思っても、肝心のその場所までがもう一歩届かない。


〈・・・ちょっと不味くないか?中々先に進めてないが。〉


〈いや、この波状攻撃をよけられてるだけでもすごいだろう?〉


〈コンクリート針による迎撃も決まってきてるし、このまま数を減らしたら何とか出来るか?〉


〈・・・・・攻撃が通ってるのがわけわかめアル。・・・いや、水流?風流?そういうことアルか?〉


〈・・・オタ中国、さっきからどうした?〉


おかん〈・・・・ああ、なんとなくわかったかも、確かにわけわかめだわ。〉


〈???〉


”ビュドオオオ!!”


水砲を何とか躱して、岩場へ着地する。


体の周辺に風を纏って姿勢を整えるが、水に濡れた足場は踏ん張りがきかない。


”ビュドオオオ!!”


”ズルッ!”


「!!!!」


水砲を躱そうとする跳躍時に足を滑らせてしまい、踏み込みが効かなかった。


何とか攻撃を受けた岩場は離れられたが、着地場所には足場がない!!


(どうする!?スポットブーストはあくまで姿勢制御用!空気を蹴っても完全な跳躍は出来ない!届きそうな岩場は・・・ねえか。一か八か、かけてみるか!!)


風を体に纏わせて体制を整える。


体をひねり回転させることで、ひねりからの反発力と遠心力。


”パンッ!”


そこにストップブーストの加速を加えて。


”ドッパアアアン!!”


水面に足を叩きつけた。



「よっしゃ!思った通りだ!」


水をたたいた反動で、体が前方に投げ出される。


〈なんて、無理やりなやり方だ!!〉


おかん〈でも、距離は稼げた。水は液体だけど、一定以上のスピードでたたけば地面と変わらない固さになる!!〉


〈要は水面でバウンドしただけアルが、姿勢制御が神がかってるアル!〉


〈これで包囲網から抜け出せた・・・けど、追撃はあるよな?どうする気だ?〉


「とどいたああああ!それに、包囲網から抜け出せた!」


岸に届いたわけじゃない・・・・着地したのはこれまでと変わらない岩場だ。


「ハーミットクラブは全匹後ろ!水砲の追撃も予想通り!」


既に水砲の次弾が迫っている・・・・包囲されていないだけで全く振り切れたわけじゃない。


(それでも!ここまで来れれば、この岸壁に衝撃を加えられる!!)


そして俺は、目の前の不自然にくぼんだ岩壁に・・・思いっきり蹴りを叩き込んだ!


”ピシッ、・・・ピシピシッ!・・・・”


”ドバアアアアアアアアア!!!”


岩壁がひび割れてからすぐ、凄まじい音と共に大量の水流が吹き上がる。


〈おおお、狙ってたのはこれかああ!〉


〈ハーミットクラブの水砲が、水流に遮られたアル!〉


〈これなら射程県外まで逃げ切れるか?〉


〈少なくとも、岸までは上がれるだろう?〉


「・・・まだだ!こっちはてめえらを攻略しに来てんだよ!!」


両手の指に持てるだけ針を持ち、ハーミットクラブへ投擲する。


〈何やってる!?水流が邪魔なのはお前もだろう!!〉


〈さすがにこれは無謀すぎる!!〉


おかん〈いや、これまでの戦闘からなら命中するかも?〉


〈そうアル。このガキの攻撃は・・・〉


投擲された針たちは前方の水流を迂回し、通常ではありえない軌道を描いて・・・・


〈必ず当たるアル!〉


・・・・ハーミットクラブの関節部を貫いた。





〈ずっと疑問だったアル。〉


クソガキの戦闘を思い返してみると、投擲の命中精度がおかしいことに気づく。


最初の戦闘では、水砲を躱しながらなんとかモンスターに投擲していた。


〈でも、当てるのがやっとという感じで、装甲にはじかれてたアル〉


相手の防御力を侮っていたのかとも思ったが、近距離戦でも最初から関節部を狙っていたことから、あの時はピンポイントで当てれなかったと予測する。


<でも、後半の戦闘では関節部をピンポイントで射貫いてたアル>


ただでさえ足場の悪い中、それも空中投擲という悪い体制からでも、一切外すことが無かった。


〈そして、極めつけは釘打ち方式のスワップブースト応用〉


あれは、釘の後ろに風を圧縮して投擲することでタイミングをずらすやり方。


〈圧縮した風を纏わせた状態で投擲する?そんなのできるわけないアル。〉


指向性が無い圧縮した風の影響を受けて、それこそ真っすぐにすら進まないだろう。


・・・・・・通常なら。




”パンッ””パンッ””パンッ””パンッ””パンッ””パンッ””パンッ”


””””””””ぶちっぃぃぃぃ!””””””””


おかん〈普通なら当たらない、進まない状態の針を正確に投擲してたのよ。水流を躱すくらいできるわよね。〉


水流の向こうにいたモンスターたちの関節が引きちぎれる音がする。


水流が邪魔で視認できないが、半数以上は仕留めただろう。



おかん〈とはいえ、どうすればこんな神業できるようになるのよ〉

〈風による誘導アル。〉


コメント欄では、一連のあり得ない動きに盛り上がりを見せるが、ただ一人、オタ中国と呼ばれたリスナーは予想がついている用だ。


〈風の流れを操作して、ターゲットまでの道を作ったアル。銃でいう所のバレル、砲身を伸ばしたというイメージアル。〉


〈バレル?長くするほど命中精度が上がるってわけか?〉


〈スナイパーライフルとかかな?それを風で再現したってこと?〉


〈イヤイヤ、それでもなんで水流を避けて曲がるんだよ。〉


〈そうだよな?命中率が上がっても銃は真っすぐ飛ぶよな?〉


理論は分かっても、解決しない。


竜馬が最後に見せた投擲は、それほど意味不明なものだった。


しかし、実際におこる事象には明確な原因が存在するものである。



〈そのバレル、砲身を風で作ったというのがポイントアル。〉


おかん〈なるほど、私もやっとわかったわ。砲身を伸ばしたのね?〉


〈〈〈〈????〉〉〉〉


多くのリスナーはまだ疑問を浮かべるが、2人のリスナーは答えに行きつく。


〈もっと正確に言うなら、ハーミットクラブの関節部まで風の砲身を伸ばして、銃口を当てた状態で撃ったアル。〉


おかん〈砲身自体も風で作ってるから、途中曲がりくねらせることも可能なのね。どういう頭してるのよ。〉


命中精度の観点から、オタ中国は砲身という呼び方をしたが、イメージ的には風でホースを作ったが近い。


自身の発射地点から、着弾点までを風のホースでつなぎ、その中を針が通って行ったといえばわかりやすいだろう。


とはいえ、やっているのはあくまで風による誘導。


一定以上のスピードがあれば、誘導から外れ、見当違いの向きに飛んで行ってしまう。


〈『なんで風によるブーストをしなかったアルか!!』・・・か、全く見当違いなコメントアルな、正確な関節部への命中には、あの速度が限界だったアル。〉


自分で打ったコメントに対して改めて思う。


〈完全に予想の斜め上を行くアルなこのクソガキは・・・全くたいしたやつある〉


無事に岸までたどり着いた竜馬を見ながら、コメント欄は盛り上がりを見せる。


何はともあれ、探索者見習い、如月竜馬、4層攻略成功であった。


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リスナーと行くダンジョン探索 @isse2007

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