『怪猫オイディプスの謎』

ヒニヨル

『怪猫オイディプスの謎』

 ぼくの家の近くに、最近妙な猫が現れる。

 他の人たちには聞こえていないみたいだけど、ぼくには人間の言葉を話しているように感じるのだ。


 その猫は、ぼくが朝のランニングをする時、いつも目につくどこかに座っている。今朝はどうしてか、ぼくの家の門を出てすぐのところで、待ち構えているかのようにこちらを見ていた。


 横切ろうとしたぼくに気がつくと、猫は目を閉じてこう言った。


「一つの声を持ちながら、朝は生きることに必死で、昼になると他人と自分を比べたがって、夜には残されたものをしむのは何?」


 どこかで聞いたことがあるような、ないような。妙な問いかけだ。

 思わず足を止めてしまったが、ぼくが質問に答えず立ち去ろうとすると、急に目を見開いて、しっぽを太くして威嚇してきた。


「え、何この猫。こわいんだけど。」


 猫はぼくを睨みつけたまま、また言った。

「一つの声を持ちながら、朝は4本足で、昼には2本、夜になると3本足になるものは何?」


 この謎かけは聞いたことがある。スフィンクスがするやつだ。確か、答えはこうだ。

「にんげん」

「正解!」

 猫はそう言うと、満足そうな顔をしながら自分の顔を洗った。


「何なんだよ、朝から……。」


 ぼくが今度こそはと立ち去ろうとすると、猫はまた呼び止めてきた。

「そこの人間! はじめの問題も答えは人間である。つまり--」

 続きを話そうとしていた猫を、「あらあらこんなところにいたのね。」二軒隣に住むおばさんが抱っこした。


「おはようございます、おばさん」

「おはよう。この子ったらすぐ家から出ちゃうのよ。首輪が嫌いだから、外しちゃうし……困ったさんねぇ」


 おばさんに抱かれた猫は「話せ、俺はこの人間に用があるんだ!」と暴れていたが、おばさんにはその言葉は聞こえていないようだ。


「さぁ行きますよ、オイディプスちゃん。」

「その猫の名前ですか?」

「引き取った時から、左足が病気で腫れててね。主人がそう名付けたのよ。」

 

 へぇ、そうなんだ。ぼくとおばさんは少し会話した。別れ際、猫のオイディプスは渋々おばさんの腕に抱かれながらこう言った。


「若者よ。知性があるゆえに、人間とは悩む生き物なのだ。自分を強く持つべし!」


 とんだおせっかい猫だ。

 そう感じながらも、ぼくは少し思い当たることがあって、

「……どうもありがと。」

 ふたりの背中にお礼を言って、走り出した。



     fin.

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『怪猫オイディプスの謎』 ヒニヨル @hiniyoru

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